第10話 ボクもう我慢できないよ、どうすればいいのさ。聞いてるの!? 姉ちゃん!
姉ちゃんは盾はあるけど武器を持っていなかった。
武器屋に寄っていくという姉ちゃんを制止して、カルナインが姉ちゃんに武器を貸してくれた。
「報酬をもらってからいい武器を買うといい」とカルナインは言ってくれたのだ。
さすが漢気の優しいクマさんだ。
カルナインは、萌生の好感度を1ポイント獲得したような気がした!
カルナインは萌生ルートのフラグを入手したような気がした!
ボク達は適当に歩き回り、街はずれの畑へとやってきた。
「盾役はあたしにまかせて! あたしがタンクやるから! カルナインは攻撃メインでお願い! 萌生は回復役よ!」
張り切る姉ちゃんは、一人先頭を早足で歩く。
「何あれ!?」
姉ちゃんが何かを見つけたようだ。
姉ちゃんが指さす先には、全長1メートルはあるかという巨大なねずみがいた。
「わぁ……思ったよりおっきいね……」
ボクは姉ちゃんの反応をうかがった。
「どうする? 姉ちゃん、やるの?」
「とーぜん!」
姉ちゃんは即答だった。
盾を構えてねずみへと駆けだす。
戦闘が始まった。
美乃梨のターン。
スキル『挑発』を使用した!
しかし敵は何もしてこない。
萌生のターン。
萌生は杖を構えた。
しかし、何もすることがない。
カルナインのターン。
片手剣での一撃!
カルナインはねずみを倒した!
ボク達はねずみを見つける度に繰り返し、結局カルナインが一人で倒していった。
「どうして! どうして挑発が効かないの!?」
地団駄を踏みながら声を上げる姉ちゃん。
「そりゃ……ノンアクティブだからな。挑発しても攻撃してこんのだろう」
冷静に答えるカルナイン。
「ボク……何もやることないんだけど、これでいいの?」
ただ後ろをついていくだけのボク。
カルナインが一撃で全部倒すものだから、回復も一切必要ない。
「そりゃ……ヒーラーだからな。回復が必要にならなきゃ出番はないわな」
冷静に答えるカルナイン。
「あたし……攻撃力1なんだけど? あたしでも倒せるかな? 攻撃した方がいいよね?」
姉ちゃんがカルナインに尋ねた。
「んむぅ……下手に低いダメージ与えて逃げられても困るしのう……」
こうしてボク達は目標のねずみ討伐20匹を完了した。
「姉ちゃん……ボク何もしてないんだけど」
「……」
「ボク……こんなの我慢できないんだけど! どうすればいいの、姉ちゃん? ねえ?」
「……」
「姉ちゃん、聞いてるの?」
「……」
カルナインは落ち込むボク達の肩を叩いて励ましてくれた。
「そう落ち込むな。討伐経験値は『何もしなくても』公平に分配される仕様だしな。報酬も『何もしなくても』公平に受け取れる」
姉ちゃんはたまらなくなって駆けだした。
「カルナインは動かないで! あたしがねずみ倒すから!」
姉ちゃんはねずみに剣の一撃を与えた。
その一撃はねずみの胴へとあたり、ねずみから赤い血しぶきが飛び散った。
びっくりしたねずみはそのまま逃げだし、その後を追う姉ちゃん。
大きな図体だが逃げ足はすばやい。
姉ちゃんは必死に後を追い、剣を振り回すがなかなか当たらない。
100メートルくらい追いかけて、やっと姉ちゃんが2回目の攻撃を当てることに成功した。
しかし、まだねずみは倒れず、更に100メートルくらい追いかけまわしてたっと倒すことに成功した。
「はぁ……はぁ……これは……ちょっと……厳しい……わね」
転生したデータの肉体なのに、疲れは以前と同じように感じるらしい。
「ふむ。美乃梨は下手に攻撃力はあげなくてもいいと思うぞ。初期値1なら、次あげたところで大して変わらん。
それなら長所を伸ばした方が良い。後々アクティブモンスターが相手になってからその分役に立てば良いのだ」
慰めてくれるカルナイン。
しかし姉ちゃんは納得しない。
「てゆうかさ、カルナインってステ振りとかどうなってるの?」
「俺か? 俺は攻撃力60に体力37だぞ。残りは1だ。攻撃特化型だな」
それを聞いて姉ちゃんは驚いた表情をした。
「NPCって初期ステータス全員100なの?」
「いや? 俺は100が出るまで何度も何度もやり直したぞ。当然武器もこのSSSが出るまでな!」
「え……? NPCなのにリセマラしたの? てゆうか、出来たの、そんなこと?」
聞き返す姉ちゃんに、カルナインは「あ!」と声を漏らす。
「もしかして……お前達リセマラに気が付かなかったのか?」
小声でカルナインは尋ねた。
「いえ、当然あたし達もリセマラしたわよ!」
なんということでしょう。
最近のNPCはリセマラまで当然のようにやっているという。
「これ……完全に人間達やばいでしょ……」
絶対的優位を保てると思ってたオタク勢。
しかし、いざ蓋を開けてみたら更にその上の存在がいた。
ステータスのいい優良オタク勢がなんとか食らいついていけるかどうか。
「気にするな、美乃梨よ。まだまだ始まったばかりだ。焦っていてはミスを招くぞ。焦らず冷静になるのだ」
しかも優しくフォローまでしてくれるNPC。
そんなカルナインを熱い眼差しで眺める少女が一人。
「なんて男らしいんだろう……」
カルナインは萌生の好感度を1ポイント獲得したような気がした!
カルナインは萌生のイベントフラグを獲得したような気がした!
はたしてカルナインはチョロイン萌生の好感度を見事あげきることができるのだろうか。
討伐報告をしに冒険者ギルドに戻った一行。
その報酬は1人3,000Gだった。
姉ちゃんはそのお金で一番安いショートソードを2,000Gで買った。
「どうせ攻撃力ないから、よほどの剣じゃない限り変わらないってわかった」
こうしてボク達は無事にLV2へとなり、姉ちゃんは体力に、ボクは魔法にステータスを全部振り切った。
カルナインと別れ際、フレンド登録をしようとカルナインが言い出した。
お互いフェローIDを交換してフレンド登録をする三人。
フェローIDとは、お互い遠隔でもチャットができる為の個別IDだそうだ。
ワントゥーワンといった個人と個人のチャットやメールと、ウィズインフェローといった集団でのチャットができるとのこと。
宿屋に戻ったボクは試しにカルナインへとメールを送ってみた。
『今日は本当にありがとうございました! ボクは後ろでずっとカルナインさんを眺めていて、悶々としていました。本当にかっこよかったです!』
ボクは姉ちゃんと二人でベッドに寝っ転がりながら会話をしていると、視界にすみっこにメールのアイコンが表示された。
ボクはわくわくしながらチャットをみた。
『そういう誘惑するから、美乃梨には勘違いされるのだ。あまりそういうことは言わないように。』
誘惑? なんのことだろう。
姉ちゃんに聞いてみようかな。
「姉ちゃん、さっきボクが送ったメールの返事がカルナインさんから来たんだけど、どういう意味だろう?」
「ん~? 萌生は何て送ったの?」
「なんだっけ~んーとねぇ……カルナインさんみてて悶々としちゃって、かっこよかったですって感じだったかなぁ」
いきなり姉ちゃんががばって起きだして、ボクの両肩を掴んだ。
「はぁ!? なんでそんな文章送ったの!? それで? カルナインは何て返事きた?」
ボクは姉ちゃんの変貌に驚いて少し混乱してしまった。
「誘惑するから……? 姉ちゃんには言わないように??」
姉ちゃんはボクの体をグラグラと揺さぶってきた。
「はぁ!? ちょっとあいつ何うちの萌生に手出してんの!?」
この後誤解が解けるまでボクは姉ちゃんにいっぱいお説教されました。
その夜、ボク達は月を見るために外へと出た。
夜なのに、外を出回る人は意外と多かった。
転生初日の夜だからかもしれない。
友達同士、家族、恋人同士等様々だ。
ボク達は人気のない街はずれの草むらへと着いた。
二人で腰を下ろし、空に浮かぶ巨大な島と月が織りなす幻想的な夜空を楽しんでいた。
「すごく綺麗……あたしこういうの好き」
「ボクも好きだよ」
「どうしてデータに人間が入れたんだろうね……不思議だわ」
すると、ボクらの後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「単純な話よ。ヒトデを分裂させると2匹に分かれることからヒントを得てね。
人間に自分の脳にプラスして電子脳を一時的に付与させるの。
そうすると、人間は2つの脳を同時に持つ生命体になるわけ。
そうしたら分裂させればいいだけなんだ。
本物の脳を切り離す。それだけよ」
ボクらは驚いてその声の主へと振り返る。
ボクと同じくらいの身長をした少女だった。
「よいしょっと」
その少女はボクの横に腰かけ、顔を見上げて月を見る。
月の明かりがその少女の顔を照らし出す。
幼く可愛らしいその顔に大きな瞳。
その瞳に映るのは、煌めく三日月の月。
ボクは彼女に目を奪われていた。
「こんばんは。『一粒の光達』」
少女は笑顔でボク達を見つめる。
姉ちゃんは突如現れた不思議な少女に声をかける。
「こ、こんばんは。ひとつぶのひかりたち? 一体何のことです?」
その少女は月を見上げたまま答える。
「無へと帰り、そして無より沸き出でし者達よ。
その秘めたる力を持ちて、『輝きの宝珠』へと進化せよ。
さすればその光は炎の星をも青く輝かせるだろう」
なんだろう。不思議ちゃんなのかな?
ボクは姉ちゃんと二人で顔を見合わせ、首をかしげる。
「月欠けの街フルムーン。この街で最初に冒険者ギルドに登録し、最初に戦闘を経験した。
何もわからない道しるべもない状況から、自ら動きだし、そしてやるべき道を探し出す。
君達は立派な『一粒の光達』よ。でもまだ始まったばかり。
それにね、可能性を秘めた『一粒の光達』は君達だけではない。最後まで辿り着ける者はどれだけいるのかしら」
少女は立ち上がり、ボクらの前へと出た。
そして腰をかがめてボクらの顔を覗き込む。
「わたしは魔王。君達が辿り着くべき目標よ。見事わたしの元まで辿り着いてごらん。その時は君達の願いを叶えてあげよう」
魔王!? なぜ魔王がこんな所に?
願いを叶えるだって? 魔王が?
「ああそうそう。わたしはね、魔王だけど……この世界の神でもあるんだ」
そういうと、少女は指をパチンを鳴らした。
その瞬間、少女の両脇に光が溢れだし、徐々に人の形を取り始めた。
「お父さん!? お母さん!?」
ボクと姉ちゃんが同時に声をあげた。
見間違えるはずがない。その顔は間違いなくボク達の両親だ。
でも……何故? 死んだはずの両親は転生できているはずがない。
これは一体……?
両親はボクらを見て微笑んでいる。
「わたしなら……転生できなかった、君達の亡くなった両親を生き返らせることができる」
再びパチンと指を鳴らすと、両親たちは光の粒へと変わって消えていった。
「わたしはね、わたし達の計画の為に必要な人材を求めている。協力してくれる人には当然願いも叶えてあげよう。
ただし、わたしの求める条件は厳しいよ。今の君達ではまだまだまるで足りない」
姉ちゃんは身を乗り出し、声をあげる。
「協力するわ! だから両親を生き返らせて!」
魔王はゆっくり首を左右に振る。
「まだまだ先は長いんだ。焦らなくてもいい。いったでしょう? 君達ではまだまだ足りないって」
「どうすればその条件を満たせるの? 教えて!」
姉ちゃんは本気だ。
家族を生き返らせるためなら、魔王だろうと神だろうと構わない。
姉ちゃんならきっとそう思うだろう。
ボクもそうだから。
「魔王はね、とてもとても強い魔物が沢山住む魔物の都市に住んでいるんだ。最低でもそこに辿り着き、そしてわたしの住む城まで来れる人じゃないとね」
魔王は手を広げると、何もない空間に手のひら大の煌めく宝石が現れた。
指で宝石をつつくと、光の波紋を揺らして周囲に光の粒が飛び散る。
「これをあげよう。君はわたしと同類だから、特別プレゼントだよ」
魔王はボクにその宝石を差し出してきた。
ボクと同類? 魔王が?
一体どういう事なんだろう。
「これは何ですか?」
「これはね……内緒。でも決して君が持っていて損はない。必要な時に自ずとその力を発揮してくれるよ。
大丈夫。捨てようとしても絶対捨てられない魔法がかけてあるから安心して」
「それ呪いっていうんじゃないんですか!?」
魔王は意外そうな顔をしてボクを見る。
「失礼だな。魔王の祝福だよ」
宝石はふわりと浮き上がり、ボクへとゆっくり飛んできた。
小さく「キン」と音が響き、その姿が消えてなくなった。
魔王は一歩後ろへと下がると、くるりと背を向けて歩き出す。
「おっと、これ以上君達を特別扱いはできない。ここまでだ。また会えるといいね」
その瞬間、魔王は大量の光の粒へと変わり、その姿を消した。
突如現れた魔王を自称する少女。
そして同時に神であるという。
何故かボク達の行動を知っていて、ボク達の両親の事まで知っていた。
今わかることは、魔王の条件を満たすために強くなることだけ。
それが両親を生き返らせる道だということ。
「やるわ、あたし絶対お父さんとお母さんを生き返らせて見せる!」
「姉ちゃん……ボクもやるよ」
「あたしがなってやるわよ。『輝きの宝珠』とやらに!」
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