第24話 二人より三人でやる方がいいに決まってるじゃない!
「あたしが領主!? 冗談でしょ? 何言ってんのよ!」
「冗談ではありません。我々人間が生きてゆくにはこの道しかないのです。よろしいですか?
今はまだ困惑して決めかねているNPC達も、状況に迫られNPC側に着かなければならなくなってしまうのです。
それは、人間勢力とNPC勢力の二択しかないからです。ですので、そこで美乃梨さんの第三勢力が必要になるのです。
今なら全ての人間と、中立のNPC全てをその影響下に置くことが出来るのです。
今、この時こそまさに歴史の転換期。立ち上がる者が英雄になれるのです」
姉ちゃんは顔を勢いよく左右にブンブンと振っている。
「ムリムリ! あたしとか……ムリムリ!」
その状況を見た坂城は、その視線をカルナインへと向ける。
「であるならば……第二プランです。カルナインさん、貴方は確か、『王』と『英雄』の根源をお持ちでしたね?」
話を自分に向けられたカルナインさんは、「そうきたか」と背もたれによりかかって目を瞑って思案する。
「ふむ。状況として英雄が立たねばならぬ時であることは理解した……がしかし……なぁ……」
「気がのりませんか?」
ワインのボトルを持ち、カルナインのグラスに注ぐ坂城。
「貴方が立てば、多くの人々が救われる。ご決断を」
注がれたワイングラスに手を伸ばす。口まで運ぼうと動かすが、そこで手を止める。
「俺は、王の座は自身で掴み取りたいと思っていたのだが……それに、美乃梨がいる。今の俺の立場はいわば傭兵だ。雇い主を差し置いて、俺が王となると義に反する」
ボクはそこでいいアイデアを思いついた。
「それならカルナインさんが王になって、姉ちゃんがお姫様になればいいんじゃない?」
一人だからいけないんだ。二人が王になればいいんだよ。
姉ちゃんは女の子だから、王じゃなくてお姫様だよね。
その場にいる全員がボクの顔を驚きの顔で見つめている。
どう? ボクのアイデアよかったでしょ?
そんなに驚いた顔して、あはは。
「何言ってんの萌生! ならあんたがお姫様になればいいでしょう!」
姉ちゃん一人に全部押し付けたりはしないよ。
大丈夫。ボクはいつも一緒だよ。
「わかったよ姉ちゃん。ボクと一緒にお姫様になろう。カルナインさんが王様ね。三人なら問題ないよね」
「大ありよ!」
「どうして!? 二人より三人でやる方がいいに決まってるじゃない!」
なんで? ボクが一緒じゃ嫌なのかな?
カルナインさんはどうなんだろう。
ボクがカルナインさんを見ると、何故かボクから視線をそらすカルナインさん。
心なしか顔が赤いよ。
「えーこほん。あー萌生さん、残念ですが領主になれるのは一人だけなのですよ」
そう言った坂城さんは、何故か笑っていた。
「そうなんですか……いいアイデアだと思ったのになぁ」
「萌生はちょっと黙ってて」
「どうしてそんなこというの!? ボクだってみんなの役に立ちたいよ!」
「わかったから! あたしがやるから! それでいいでしょ!?」
場の勢いもあって、姉ちゃんが領主をやることが決まってしまった。
「で、具体的にはどうすればいいの? あたしさっぱりわかんないからね?」
「ではまずこの地図をご覧ください」
「この中央にあるのがフルムーンです。まずは街に隣接する一等地を確保します。そして、北か南にある別の都市へ向かう道の中間地点も確保します。
宿場町として使えるほか、伐採場や山脈からの採掘も可能でしょう」
みんなが地図を覗き込む。フルムーン周辺だけじゃなく、かなり広いエリアまで網羅されている。
「地図って自分でマッピングするんじゃなかったの?」
確か道具屋さんでボクらが買った地図はそういう仕組みだった。
「いえ、これは道具屋で売っているシステム型の地図ではありません。領地申請用の役場で手に入れたものです」
「そんなものがあったんだ。なんか塔とか遺跡っぽいのとか、色々何かありそうよね」
「姉ちゃん見て、ここの木すごく大きい。何かありそうだね」
「そうね……この地図のおかげで色々な計画が一気に進みそう。きっとここに記されている場所はなんらかの重要拠点なんでしょうしね」
「後は、どうせ占拠するならば、北か南に決めた方が良いでしょう。例えば北側の隣接地と、キスカへの中間地点に街を作れば、北側の伐採場、採掘場を利用するのに便利です。
それにそこから西側へと続く各要所のキーポイントとして街は発展するでしょう」
「なるほどねぇ……」
坂城はリオへと向きなおす。
「どうですかリオさん。これならばあなたもわたしくしも生きていくのに困らずに済みそうです。ご意思は固まりましたか?」
みんなの視線がリオへと集まる。
リオはその視線に最初は戸惑うも、覚悟を決めた表情へと変わり、力強く答えた。
「はい! お気遣いありがとうございます。是非今後ともよろしくお願いします」
リオは立ち上がって深々とお辞儀をした。
ぴょこんと跳ねた一房の髪の毛がぴょこぴょこと揺れている。
「リオさん、ご決断ありがとうございます。わたくしも精一杯ご助力することをお約束いたします。
さて、美乃梨さん次は場所の決定です。北か南かお選びください。ちなみに……この小さな山がある所は、鉱物の採掘場があるそうです」
「そうなの……そうね……北のキスカの街までは遠そうだから途中で休む街があると繁盛しそうね。それに、木材と採掘場の場所も近い。北側を見てみましょうか。ダメそうなら南で」
全員頷き、特に異論はないようだ。
どっちみちまだ街の周囲すらろくにわかってない状態だし、いってみるしかないよね。
「今日はとりあえず街に隣接しているエリアを視察しましょう。中間地点は日帰りで帰ってこれるかもわからないし、明日以降準備をしてからいきましょう」
そうしてボク達は全員でフルムーンの北側へと視察に向かった。
街に隣接している区域なだけあって、アクティブモンスターの姿は見えなかった。
「では美乃梨さん、ここでこの領主申請書を使用してください。未占領地域なので使えるはずです」
そういうと姉ちゃんは坂城さんから書類を受け取り使用した。
「あ、名前付けろだってさ。どうしよう?」
「姉ちゃんの好きな名前でいいんじゃない?」
「美乃梨さんのお好きな名称で構わないでしょう」
みんなも頷いている。
姉ちゃんは「うーん」と考え込みながら、周辺を歩き回る。
「北ってなんだっけ……ノースだっけ? ノースフルムーン……うーん……いまいちかな。フルムーン美乃梨……だめだこれ。
ノースモエ……駄目ね……モエノース。あ、ちょっと語呂がいいかも。モエノースにしちゃう?」
「えー……ボクの名前つけちゃうの?」
「あたしの好きでいいっていったじゃない」
「そうだけど……」
「じゃあ萌生、モエノースとノーパンモエとヘンタイモエどれがいい?」
「何それ!? ひどいのばかりじゃない!」
「はい、3秒前……2、1、0、ぶー! しゅーりょー」
「モエノースで……いいよ」
こうして最初の街は『モエノース』に決まった。
姉ちゃんが街の名前を開いたウインドウから入力し終えると、周囲に光の線が現れた。
光の線は建物の輪郭を形作っていて、その形は大きな屋敷のようだった。
そして、どこから響いてきたのか音声が流れてきた。
「ただいまから、フルムーン領N-01区画、名称『モエノース』の建設を行います。光の線が表示されている箇所には建築物が自動的に建設されます。
大変危険ですので、光の線から十分距離を取ってお待ちください。建設を開始する場合は、『OK』ボタンをタップしてください」
ボク達は慌てて光の線から離れる。
「OK押すよー。ぽち」
姉ちゃんが言い終わると同時に、光の線が実際の建物へと変化した。
およそ50メートル四方を塀で囲まれた、3階建ての立派な建物が姿を現した。
「わーおっきい建物だね。もしかしてこれ使ってもいい建物なのかな?」
「そうかもね。いってみましょ」
姉ちゃんが扉をタップすると、建物の所有契約画面が表示され、正式に姉ちゃんの所有物となったようだ。
ボク達が建物へと入って見ると、中はがらんどうで入口を入ってすぐの所に1メートル位の高さがある円柱が立っていた。
その上部には操作用のパネルが付いていて、そのパネルで内装や建物の設定ができるようになっていた。
部屋数は1階がロビ―を抜いて8部屋あり、それが3階で合計24部屋もあった。
「姉ちゃん、ボク何か手伝うよ! 何すればいい?」
「あー……萌生はちょっと待ってて。今忙しくて」
その後、領主の美乃梨には領主専用画面が追加され、どういう項目があるのか確認していった。
まず、領地内の建造物などを自由に配置することができるようだ。
しかも、特に資材も必要なく、建造物のパターンを選択して好きな場所に配置するだけという簡単仕様だった。
そして、領地専用の警備兵を雇用することができた。
ここで雇用できる警備兵は、今まで出会ったNPC達とは異なり、完全に命令を実行するだけの本来の意味でのNPCだった。
基本的な衛兵以外は、雇用するのに費用が一定期間ごとに必要なので、今は雇用しないでおいた。
しかし、衛兵だけでも20人程雇えたので街の基本的な警備だけなら十分だろう。
「姉ちゃん、ボクも街作りやってみたい!」
「あー……ごめん。これ遊びじゃないから、いい子にして待っててね」
姉ちゃんは坂城さんとあれこれ打ち合わせをしている。
ボクはぽつんと取り残されたままだ。
「お疲れ様です、美乃梨さん。後はフルムーンに戻って、賛同してくれる人間やNPCを呼び込みましょう」
「上手くいくといいけどね」
「怯えている人間やNPCはきっと賛同してくれるでしょう。後は街運営に協力してくれる人材も欲しい所ですね」
「そうね。全部坂城さんに任せちゃっても大変でしょうしね」
「では美乃梨さん、フルムーンへ参りましょうか。新たなる街運営の第一歩です」
フルムーンへと戻るようだ。
ボクは姉ちゃんへと駆け寄って声を掛ける。
「フルムーンに戻るの?」
「あー……萌生はここに残っててくれる? 今街はすごい荒れてるだろうから」
「ボクも行くよ!」
「だめ。ここにいなさい」
「……うん」
ボクは姉ちゃんと坂城さんが色々やっているのを、ただ黙って見ているだけしか出来なかった。
何か手伝いたいけど、ボクには何も出来る能力がない。
姉ちゃんの隣にはいつもボクがいた。
姉ちゃんの隣はボクの場所だった。
でも、今姉ちゃんの隣にいて、姉ちゃんを助けているのはボクじゃない。
「ボク……今のままじゃ……嫌だ……」
転生する前の姉ちゃんはボクだけの姉ちゃんだった。
でも、これからの姉ちゃんはボクだけの姉ちゃんじゃなくなってしまうのかもしれない。
ボクの中に生まれたもやもやした何か。
何でボクを頼ってくれないの?
ボクは役に立たないからいらないの?
「ボクだって……ボクだって……」
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