第6話 あわわ……これがおっぱい!? 思ってたのと全然違うよ!
学校へと到着すると、行列が出来ていた。
人類が滅びるというのに、大人しく列に並んでいる人々。
まあ、暴動を起こした人は即捕まるといった政府の発表があったからかもしれない。
TVでも暴動を起こした人たちのニュースはあった。
あったが、しかしその数は予想以上に少なかった。
海外では相当な数の大規模暴動が発生していたらしい。
これからの事に精一杯なのか、それとも楽しみで仕方がないのか。
それどころか、聞こえてくる会話はどれもやれ何の職業にしたとか、どんな武器を手に入れたかとか、パーティー構成について熱く語っている連中ばかりだった。
前に並んでいる二人組の男子は、どうやら自分で作ったキャラクターを印刷してお互いに見せあいっこしていたようだ。
「リセマラきつかったわ~。ステ100マラソンで5時間もかかったよ。亮太はどうだった?」
「そんなにかけたのかよ。俺なんか2時間でSSSも出したぜ。信也、それよりキャラ見せてくれよ」
「うはぁ。お前まじ可愛いなこれ。めちゃこのみだわ!」
「お前のこそよくここまで美形に作れたな。尊敬するわ!」
どうやら二人ともボクと同じように女性に転生するようだ。
「なあ……念のために聞くけどさ、もし、もしだよ? お前がよければさ……二人で付き合わない?」
男同士で何か言っている。
姉ちゃんはというと、興奮した様子でその会話を聞いていた。
うん。ボク知ってたから。
こっそり姉ちゃんの部屋に忍び込んだとき、下着入れの下に隠されてたそういう男同士裸で抱き合う本をいっぱい見つけたから。
ほんと姉ちゃんって変態だよね。
こんなに健全なボクなのに、どうして姉ちゃんはそんなに変態なの?
そうこうしている内に、ボク達の番になった。
随分と早いものだ。
一人当たり1分もかかっていないように見える。
早いと30秒くらいで次の人が呼ばれていた。
「それじゃ萌生……あっちで会いましょ」
ボク達は抱擁を交わし、別々の部屋へと入っていった。
中に入ると、手前にカードを入れる機械が置いてあった。
その奥には、一人の男性が座っていて、その横に椅子のような機械が置いてある。
更にその奥には布で仕切られた扉があった。
二人組の男性がそこからこちらに現れてきた。
どうやら、転生が終わった人の体を奥に運んでいるのだろう。
「はい、そこにカード入れてね。入れたら座って」
ボクはあらかじめ送られて来ていたカードを機械に入れた。
これで個人の情報を管理しているのだろう。
椅子に腰かけると、すぐさま頭に機械を被せられた。
「すぐ終わるからね」
といって男性はスイッチを押した。
あっけなくボクの意識は暗転してしまった。
気が付くと、ボクは人混みの中にいた。
どうやら大きな広場のようだ。
キャラクター設定の時に指定していた町の中なのだろう。
ボク達は同じ町に転生できるように、二人とも『月欠けの街 フルムーン』を指定していた。
指定できる街の数は1000以上あり、どこがどう違うのか書いていなかった。
明らかに生存するのが厳しそうな、デザート、オアシス、砂漠、火山、アイス、スノーといった名称が付いている所は避けようということになり、結局このフルムーンに決まったのだった。
姉ちゃんは月欠けなのに満月という名前が不思議だって言っていた。
その理由はすぐにわかった。
青空の中に浮かぶ大きな島。
その島の後ろに浮かぶ白い満月。
島に隠れて満月が三日月のように見えるのだ。
おそらく、満月になるとその島の位置に月がきて、三日月のように一部が隠れるようになるのだろう。
夜になったらもう一度見てみたいなと思うほど、空に浮かぶ大きな島と月は幻想的だった。
姉ちゃんと一緒に夜見に来よう。
ボクは姉ちゃんを探して周囲をきょろきょろと見回す。
広場の中心には高さ10メートル位もある巨大な噴水が見える。
女神像が両手を天に掲げ、その手から水が天へと昇っている。
その周囲には、白い翼をはやした子供の天使の像が12体。
均等に時計の文字のように並べられている。
その噴水の周囲には、ピカピカに磨かれた石のタイルが敷き詰めてあり、見渡す限りそのタイルが続いている。
いったいどれくらいの広さなんだろう。
視界の奥に、微かに塔のような建物が見える。
ここから見ても相当な大きさに見えるから、実際はかなりの大きさがある建物に違いない。
人が多すぎて、周囲の景色が良くわからない。
そして、誰かを呼ぶ声があちこちから聞こえてくる。
この街を指定した人達が、知り合いを呼んでいるのだろう。
今もボクのそばで若い女性二人が名前を呼びあっている。
「もしかしてお前、信也か? うはぁ~まじ可愛いなお前!」
「お前亮太か? お前こそ……すげー胸だな」
可愛らしい女性の姿なのに、元男だというのがバレバレである。
「恥ずかしくて本名なんか呼べないよ……」
ぽつりと呟くが、その違和感に驚いた。
声が違うのだ。
あきらかに高い声。
しかも可愛らしい鈴の音のような声。
「あ、あ、あー」
ボクは周囲に聞こえないような小さな声で再び自分の声を確認する。
やばい! めっちゃ可愛い声!
そうだった。ボクは女の子になったんだった。
となると、もちろん体も……
ボクはそっと自分の胸を見下ろしてみる。
そこには……
「あれ……?」
胸……あるのかな?
着ている服を少し引っ張り、自分の胸を確認する。
白い下着がちらりと見えた。
どうやらブラジャーも自動的に着けてくれていたらしい。
着ている服は、薄茶色をした半そでのシャツに、濃い茶色をしたスカートに、大きめのベルト。そして、膝まである皮のブーツを履いていた。
ボクはどきどきしながら、シャツの中に手を突っ込み、ブラジャーを動かしてみた。
「あれ……? どうみても、前の時と変わってないような……」
そうだ、ボクは貧乳にしたんだった。
よく見ると、わずかに膨らみかけな胸が見える。
「あわわ……これがおっぱい!? 思ってたのと全然違うよ!」
スコーンと誰かに頭を殴られた。
目の前には姉ちゃんが立っていた。
ボクより大きく、顔を見上げないといけない程だった。
でも周囲の人と比べると、姉ちゃんは低い方だ。
ボクが小さすぎたのだ。
ボクの設定した身長は125センチメートル。
10歳の幼女を設定した身長だ。
対して姉ちゃんは転生前と同じ身長で、145センチメートル。
その差は20センチメートルもある。
「姉ちゃん! よかった! 無事転生できたんだね! でも、良くわかったね」
姉ちゃんは眉をひそめながらボクの顔を眺めている。
「すぐそこだったし。転生前に印刷した顔をしっかり覚えてたからね。それに、そこまで背の低いキャラの人他にいないでしょ」
確かにそうだった。
周囲を見ても、高校生から20歳くらいまでの人だらけに見える。
きっとみんな若い年齢設定にしたのだろう。
それに、気のせいか女性の割合が非常に多く感じられる。
しかし、あまり上手にキャラメイクを行えなかった人が多いようだ。
「まず最初に自分のおっぱい覗き込むような変態は萌生じゃないって思いたかったんだけどね」
つんつんとボクのあるのかないのかわからないおっぱいを突く姉ちゃん。
その瞬間、ボクの体がびくんと跳ねる。
「わ……やめて、姉ちゃん……なんか……変な感じ……」
ボクは両手で胸を隠し、横を向く。
「あらあらあら~。そんな幼い体なのに、いっちょ前に感じちゃったとか? うふふ」
姉ちゃんは無理矢理ボクの胸を掴んで揉みしだく。
「あぁっ! だ、だめぇ! んっ……くぅっ!」
びくびくと感じてしまって、その場にうずくまる。
「萌生はさ、女の子になったんだし、名前変えないといけないよね」
ボクは自分の身体を落ち着かせながら、姉ちゃんを見上げる。
「名前……?」
姉ちゃんはボクの周囲を歩きながら、考え込む。
「うーん……そうねぇ……漢字は今のままで……読みだけ変えて、『もえ』っていうのはどお?」
姉ちゃんはボクの正面で立ち止まり、前かがみになってボクの顔を覗き込む。
「もえ……宗乃……もえ……うん! わかったよ姉ちゃん。可愛い名前だね、ありがと!」
ボクは姉ちゃんを見上げながら笑顔で答えた。
「やだ……何この可愛い生物……あんたほんとに萌生(ほうせい)なの!?」
姉ちゃんはボクのツインテールを手で摘まみ、そのままぐるぐると振り回した。
「姉ちゃんこそ……金髪すごい可愛いよ。似合ってる!」
ボクは姉ちゃんの髪の毛を手で触ってみた。
転生前の姉ちゃんの髪と同じくらいさらさらしている。
でも色つやはさすがに今の薄いブロンドヘアーの方が輝いて見える。
反射の影響なのかもしれない。
「ほう……じゃなかった、萌生(もえ)の髪の毛もとっても綺麗よ。あたしと同じ色だしね」
ボクは姉ちゃんの胸元を見る。
ボクとは違い、以前と同じ大きさの胸がそこにはあった。
「ボクも……やっぱり大きなおっぱいにすればよかった……」
思わず口に出してしまってハッとした。
姉ちゃんが手をわきわきと動かしながら、ニヤリと笑っている。
「揉んで大きくしてあげよっか? うふふ」
「か、勘弁して、姉ちゃん!」
ボクは姉ちゃんから隠れるように後ろを向いた。
「それはそうと、これからどうしようねぇ……てっきり、何か手始めに案内でもあるのかと思ったけど。
転生させて、はい、おしまい。って感じよね」
ボクはさっき見かけた塔を指さし、姉ちゃんに意見を求めた。
「姉ちゃん、あそこにある塔なんだと思う? おっきいよね」
どれどれ、と姉ちゃんは指さす方角を眺める。
「うーん……結構距離ありそうね。今はまだこの周辺にいたほうがいいと思うわ。何かアナウンスとかあるかもしれないし」
ボクは月を指さして姉ちゃんに話しかけた。
「姉ちゃん、それよりあの月見てよ! 空に島が浮かんでるんだよ。夜に見に来ようよ!」
姉ちゃんは月を見て感嘆の溜息を漏らす。
「月欠けの街『フルムーン』……こういうことかぁ。綺麗……そうね、夜にでも見に来ましょう」
こうしてボク達は、この広場の周辺に何があるのかを調べて回ることにした。
ボク達の新たな物語は、ここから始まるんだ。
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