第16話 カルナインさん、ボクが抜いちゃうね! 恥ずかしがらないで大丈夫だよ
途中で翼を休めている人達を追い越し、疲労が貯まって速度が落ちている人達を次々と追い越していった。
そして、しばらくすると前方でふらふらになったプテラノドン2匹が視界に入った。
「あの後ろ姿……もしかしてカルナインさん?」
カルナインは隣に並ぶマイクと共に、ふらふらになっているプテラノドンに激を飛ばしていた。
「おらー! 漢気を見せんかい!」
「今こそ愛と勇気の力を示す時だ!」
そんな二人にあっさり追い着き、すれ違い様にカルナインへと声をかける。
「カルナインさん、ボクが抜いちゃうね! 恥ずかしがらないで大丈夫だよ」
ボクなんかに追い抜かれちゃって恥ずかしいなんて思わないで欲しい。
笑顔で手を振るボクを見て、二人は更に激を飛ばす。
「おお!! 例の天使萌生ちゃんじゃないか! ん……? あの後ろ姿……あのお尻……もしかして?」
「何だと!? ぐはっ!! も、萌生……なんて破廉恥な格好を……!!」
「こんなチャンスは二度とない! シャッターチャンスだ!」
マイクはカメラを取り出し、萌生の姿を写真に収めた。
天使の笑顔でこちらに手を振り、スカートをはためかして丸出しのお尻をこちらに向けている。
「何をしている、マイク! 撮っちゃいかん! 絶対にダメだ!」
「心配するな、旦那。ちゃんと後で分けてやるさ」
「な!? バカなことを……」
「いらないならやらないぞ?」
「そ、そんなことはいっとらん!」
あんなに慌てちゃって。
ボクが抜いちゃって、そんなに恥ずかしかった?
ボクはスタミナ万全のアルゲンタヴィスで空を駆け抜ける。
前方に3匹のアルゲンタヴィスが列をなして飛んでいるのが目に入った。
スタミナ不足で相当速度が落ちているようだ。
距離が縮むにつれ、前のアルゲンタヴィスに乗る人物が見えてくる。
「あれ? もしかしてあれって姉ちゃん?」
風になびく金色の髪はとても綺麗だ。
小さい体にほっそりしたライン。
風にスカートをはためかせて、ちらりと覗く小さなお尻。
そのお尻に張り付いた白い下着。
「やっぱボクの姉ちゃんはどこにいても綺麗だなぁ」
ボクは姉ちゃんをじっと眺めてその姿を目に焼き付けていた。
もちろん姉ちゃんの雄姿を目に焼き付けているのだ。
決してパンツをガン見しているわけじゃない。
アルゲンタヴィスを姉ちゃんのすぐ真後ろに着けると、いつも嗅いでいた姉ちゃんの匂いがふんわりと漂っていた。
ボクは気合を入れるために、息を大きく吸い込む。
これから最終決戦に向けて、自分に活を入れるためだ。
決して姉ちゃんの匂いを胸いっぱいに吸い込みたいなんて変態的な思考からではない。
「よし! 充電完了!」
ボクは姉ちゃんの右横へと並び、姉ちゃんの横顔を覗き見た。
必死な眼差しもとても素敵だ。
そんなボクに気づいた姉ちゃんは、ボクの顔を見て驚いた。
「萌生!? どうやって追いついてきたの!?」
ボクは姉ちゃんにピースサインを向け、にっこり微笑んでみた。
「えへへ。ボク海側から来たんだ。スタミナもまだまだ余裕だよ!」
「ほんと!? 今あたし達がトップなのよ? まだ余裕あるなら萌生トップ取れるわよ!」
「そうなの!? じゃあボク頑張ってみるよ!」
姉ちゃんは右手を伸ばして、手のひらを向けてきた。
ボクは姉ちゃんの手に自分の手のひらを合わせる。
「行ってきなさい、萌生! あんたが勝利を掴みなさい!」
「うん! ボク行ってくるよ、姉ちゃん!」
ボクはそっと手を離し、ゴールのあるリングへと目を向ける。
ボクが優勝できるかもしれない!
ボクがやるんだ!
「行くよ! アルゲンタヴィス!」
「クェー!」
ボクは先頭に立ち、単独トップで独走を始める。
あたしは追い抜く萌生を見守っていた。
「やっぱあたしの萌生はどこにいても可愛いなぁ」
あたしは萌生の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、最後の気合を入れた。
「よし! 充電完了!」
もしかすると、いつの日か萌生はあたしを置いて先に進んでいくのかもしれない。
姉離れをして旅立つかもしれない。
今みたいに、後ろを見守るだけしかできなくなる日が来るのかもしれない。
そうだとしても、それまでは精一杯姉として萌生のそばにいよう。
「なあ、美乃梨さん……あの子さ……あんたの妹さんか?」
ニナがあたしに話しかけてきた。
「そうよ。自慢のあたしの……妹よ!」
ニナはすごく言いにくそうにしている。あたしの萌生に何か文句でもあるのかしら?
「言いにくいんだけどさ、あの子……下着履いてなくね?」
「え……?」
風に舞う短いスカート。
ちらりとのぞく肌色の小さなお尻。
「まさか……そんなわけないでしょ……」
アルゲンタヴィスと共に空を駆け抜けた10キロメートル。
長いようであっというまだった。
最初は空を飛ぶのすら怖くてしかたがなかったのに。
ボクを空に導いてくれたのは、キミだよ。
ボクはアルゲンタヴィスの頭を優しく撫でる。
「クェー!」
アルゲンタヴィスは高い鳴き声をあげながら、身体を軸にくるりと180度旋回飛行する。
「ひゃああああ!!」
ぐるりと回る景色に目を回しながら、ボクは歓喜の悲鳴をあげる。
そしてボクは特に競う相手もなく、悠々とゴールを切った。
「やったぁー!! ボクが優勝だー!!」
地面に大きな青い円が描かれていて、ゴールという文字が書かれている場所に降り立った。
係員が走ってボクのそばまでやってくる。
「おめでとうございます! あなたが1番です!」
ボクは久しぶりに地上に足を降ろした。
まだ体がふわふわふらふらしている感じがする。
少しよろけながら、ボクは相棒のアルゲンタヴィスに抱きついた。
「ありがとう! アルゲンタヴィス。君のおかげだよ!」
長時間太陽の日差しを受けて温かくなっていたその羽毛は、萌生にとってとても気持ちが良く、一気に疲れが襲ってきてそのまま眠りに吸い込まれそうになった。
「ほんと……キミの体って柔らかくて気持ちがいいよぉ。ボク、キミに抱きついたまま一緒に眠りたいくらいだよ」
「これより、月欠けの街フルムーン恒例、第一回空中飛行レースの授賞式を行います!」
解説員のベニバラがマイクを片手に授賞式を執り行う。
選手と翼竜が整列し、上位5名がその前に並んでいた。
「第5位から発表します。第5位は……マイク選手です!」
マイクは何故かボクの顔を見つめてウインクしてきた。
結局カルナインは体の大きさのせいで、スタミナ消費が激しく、その差でマイクに負けてしまったらしい。
「第4位……アリサ選手!」
姉ちゃんと最後の直線を競っていたピンクの髪をした女性だ。
恥ずかしそうに手をあげて声援に応えている。
「第3位……ニナ選手!」
赤い髪のポニーテールをした活発そうな女性だ。
この人も姉ちゃんと一緒に並んで飛んでいた人だ。
ベニバラからメダルをかけられ、大きな胸の谷間でメダルが弾んでいた。
「第2位……宗乃美乃梨選手!」
姉ちゃんが2位だったのは、本当に嬉しい。
ボク達姉妹でワンツーフィニッシュだから。
姉ちゃんはベニバラからメダルをかけられ、とても嬉しそうだが、ボクの顔をちらりと見たその表情は少し落ち込んでいるようにも見えた。
「第1位は、宗乃萌生選手です! 小さな身体でよくぞこの過酷なレースを勝ち抜きました! 2位の美乃梨選手の妹さんです。姉妹そろってのワンツーフィニッシュとなりました!」
ベニバラに金メダルを首にかけてもらい、ボクはみんなの前で手を振って応える。
「さて優勝した萌生選手には特別に商品が贈与されます!」
そういうと、ベニバラは銀色に装飾の施された腕輪をボクに手渡してきた。
「空の王者に相応しい、『エアーブレスレット』です! さあ、どうぞお手におはめください!」
そういうとベニバラはボクの左手にブレスレットをはめた。
その瞬間、ボクの体がふわりと宙に浮いた。
「わ、わ、わ~!?」
地面から1メートルほどの高さまでボクは浮いてしまっていた。
どうすればいいのか手足をバタバタと振ってみるが、うまく操作が出来ない。
「これどうやって降りるんですかー!?」
その時、突風が起こってボクのミニスカートが大きく捲り上げられる。
「おおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
一気に湧き上がる歓声。
ボクは慌ててスカートを手で押さえるが、慌てたせいでボクの体がさかさまになってしまった。
重力でスカートが捲れ、歓声はさらに大きくなっていた。
「ノーパン幼女!」
誰かがそんなことを言っているのが聞こえた。
「ち、違います! ちゃんと履いてます! ヒモパン履いてます!」
姉ちゃんが慌ててボクを引きずり降ろしてくれたが、姉ちゃんはすごく困ったような顔をしていた。
「萌生……そこまで性欲が溜まっていたなんて……ごめんね。あたしがもっと早く気づいてあげてれば……帰ったら姉ちゃんがしてあげる。ね?」
「姉ちゃんまで何を言ってるの!? 本当だよ! エレットさんにもらったヒモパン履いてるもん! ほら!」
ボクはスカートを捲り上げ、姉ちゃんに見せた。
「ね? 履いて……ない!? うそ!?」
こうして第一回空中飛行レースは街中に生中継され、第一回空の王は『変態幼女萌生』として広く名前が知れ渡ったのであった。
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