第3話 姉ちゃん! ボクの部屋で寝ないでよ! ボクどこで寝ればいいの?

 ボク達は、自分の転生するキャラクターを作成している。

 政府から指定されたサイトにアクセスし、キャラクター設定を行い、そして完成したらアップロードするのだ。

 とても信じられない話だけど、どのTVでもその話ばかりしている。学校や会社も休みになって、このキャラクター作成を全世界規模で行っているようだ。

 一般の人はキャラメイクのシステムに手こずっているようだ。TVの報道でみたけども、正直言ってあまり上手じゃなかった。

 その点ボクらは有利だ。この手の物は色んなゲームで何度もやっているから。

 

 姉ちゃんは、送られてきた説明文を読み、そして実際にキャラクターを作成した段階で何か重要な事に気が付いたという。


「いい、萌生(ほうせい)。今の割り振れるステータスの値を覚えておいて」


 姉ちゃんが画面を指さすそこには、72と表示されている。


「キャラクターの容姿データは、バックアップしといて。後でやり直すときに使えるから」


 容姿データの保存が完了したあと、姉ちゃんはブラウザのキャッシュを削除し、更新ボタンを押す。

 すると、再度サイトにログインするところからになった。

 キャラクター作成画面にまで進むと、姉ちゃんは先ほどのステータス値の場所を指さした。


「ほら、今度は80になってるでしょ。どうやらアクセスする度にここの数値がランダムで変わるっぽいのよ。

ちなみに、あたしんとこで確認した限りだと、最低60から最高100にまでなったわ」


 なんと、これからの自分をランダムの数値で決められてしまうというのだ。


「ほんとだ……知らなければ低い数字のままでやっちゃうとこだったよ……」


 姉ちゃんは、今度はキャラ作成画面の次の画面へと進めた。


「それだけじゃないの。装備アイテムのとこみてみて?」


 そこに表示されているのは、『ランクA ドラゴンスタッフ』だった。


「ランクAだって! 結構いいんじゃないの?」


 ボクは喜んで姉ちゃんの顔を見たが、そんなボクをみて姉ちゃんは溜息をもらす。


「だーめ。これは外れ。最高でSSS(トリプルエス)まであるのよ。Aランクは一番外れだわ」

「そ、そうなんだ。てことは……これもランダムなの?」


 姉ちゃんは黙ってうなずき、再びキャッシュを削除してブラウザを更新した。

 今度はステータス95に、装備はSSランクだった。


「うわ! さっきより凄くよくなった! これでいこうよ、姉ちゃん!!」


 ボクは大喜びで姉ちゃんを見る。しかし、姉ちゃんはそんなボクを可愛そうな子を見るような顔をしていた。


「ほんと……萌生は可愛いわねぇ……でもこれじゃだめよ」


 姉ちゃんはボクの頭を軽く撫でながら答えた。


「まず、ステータスは100が絶対条件。アイテムも当然SSSがでるまでやり直し。『リセマラ』よ!!」


 姉ちゃんはウインクしながらもう一度やり直す。


「これからの自分を決めるんだもの。絶対に最高値以外はありえないわ。

だから、何度でも繰り返すわよ。最高値が出たら教えてね。あたしは自分の部屋でやってるから」

「わかったよ姉ちゃん」

「多分、あたしを含めた世の中のオタク連中はほとんどがリセマラやってるでしょうね。あたしゲームのリセマラとか興味なかったけど、これは話が別。

気が付かないのは一般人だけでしょうね」


 姉ちゃんは左手を胸に当て、右手を大きく斜め上に振り上げる。

 そして意気揚々として声を上げた。




「つまりね……転生後に世界を支配するのはあたし達オタク組よ」




 オタク達が主役の世界。それは一体どんな世界になるんだろう。

 今までみたいに一部の選ばれた人だけが活躍する世界じゃない。

 逆にボク達が世界に選ばれるんだ。

 キャラメイクだって自分で好きな容姿にできる。

 こういうのやったことない人だと難しいだろうし。

 能力も容姿もボク達オタクが圧倒的に有利なんだ。

 出会いのチャンスも圧倒的に増えるかもしれない。

 

「……そうだね」


 姉ちゃんの目が輝いている。

 きっとボクの目も輝いていると思う。

 今まで陽の当たらなかったボク達が活躍できる場所になるかもしれないんだ。

 ボクにでも……活躍の場があるかもしれない世界。

 そんな世界に行けるなら……

 本当に、ボクは真の意味で生まれ変われるのかもしれない。


「あーそうそう、あんたがやってるのはあたしのキャラにするから。あたしがやってる方を萌生のにする。

だから、ステータスはまだ振らないでおいてね。途中で保存できるから、いい数字でたら保存しといて。

職業は戦士を選んでおいてね。そうしないと戦士用の装備でないから」

「姉ちゃん戦士なの? ボクは何にしよう?」

「萌生は神官にしといたから。大丈夫、説明にもあるでしょ? 

転職はできるって書いてあるし、それに前職のスキルはそのまま持ち越せるの。

あたしが壁役やるから、萌生はヒーラー兼アタッカーの魔術師になってね。

その為に、最初は神官にしといた」


 姉ちゃんが決めちゃってるけど、ボクには異論がない。

 だって、普段からボクの事は姉ちゃんが決めてくれるから。

 ボクは姉ちゃんが決めてくれたことを素直にやるのが好きなんだ。

 少しでも姉ちゃんの希望を叶えたいって思ってるからね。


 姉ちゃんはボクを優しく抱きしめ「がんばれ」と囁いて、自分の部屋へと戻っていった。

 

「ボクが姉ちゃんのキャラを作るんだ。姉ちゃんの為に頑張るぞ!」




 何度もやり直して3時間以上が経過した。


「あーもう! せっかくSSS出たのにステータス70だなんて! もったいないなぁ……」


 ボクは姉ちゃんの「がんばれ」を思い出し、やる気を充填する。


「ボクは、転生したら姉ちゃんの為に頑張るんだ。だから、ここで絶対妥協はできない!」


 すると、ボクの後頭部に柔らかい感触を感じた。

 

「うふふ。ありがと。でも少し休憩しよっか」


 すぐ近くから姉ちゃんの声が聞こえた。

 いつの間に入ってきてたんだろう。まったく気が付かなかった。


 まてよ……この感触はもしかして……姉ちゃんの……?


 ボクは顔を動かさずに、目だけを動かしてみる。

 良くは見えない。

 柔らかく甘い姉ちゃんの香りがする。

 ゴクリ。


 ボクは微妙に頭を上下させてみる。

 その柔らかい物は、ボクの頭に合わせてふわりと浮き沈みする。


 どうしよう。

 この感触をもっと楽しみたいと思ってしまう自分がいる。

 すぐ返事をしてしまったら、この感触も終わってしまうのではないか。


 高鳴る心臓。火照る頬。

 そして不自然に上下するボクの頭。


 というより、さっきのボクの言葉を姉ちゃんに聞かれちゃったわけだ。

 恥ずかしさを完全に上塗りするこの感触。

 凶悪極まりない感触だ。


 しかし、ボクは決断しなければならない。

 いつまでもこのままでいるわけにいかない。

 これはボクの男を試される場面だ。

 姉ちゃんの色香に惑わされてばかりじゃだめだ。

 ボクは男の子なんだから!


 ええい! とボクはその柔らかい物体に手を伸ばした。

 完全に思考と正反対の行動をとってしまった。


「あれ……? 布の感触……?」 


 ボクは頭に乗っかっている物体を目の前に持ってくる。

 その正体は、姉ちゃんの使っている柔らかクッションだった。


「萌生、意外そうな顔してるけど、何だと思ったのぉ~?」


 姉ちゃんが回り込んでボクの顔を覗き見る。

 すごい悪戯な目をしている。


「手触りすごいよね、それ。別名おっぱいくっしょんって言うんだよ。もしかして、あたしのおっぱいだと思っちゃった?」


 ボクはクッションを両手でもみもみしながら、「そんなことないよ!」と答える。


「その割には不自然に頭動かしたり、手で触ろうとしてたよね。ん?」


 姉ちゃんはボクのほっぺたをぷにぷにと摘まむ。


「うぅぅ……姉ちゃんいじわるだよ……」


 うつむくボクのほっぺに冷たい感触。

 姉ちゃんがもってきてくれたジュースだった。

 ボクは黙ってそのジュースを受け取って、ごくごくと一気に飲み干す。


「ふぅ~……」


 これで少しは落ち着いた。

 改めて姉ちゃんを見ると、まだ下を履いてない。Tシャツにパンツ丸見え状態だ。

 本当にこういうのは困ってしまう。


「姉ちゃん、いい加減に下履いてよ……ボク……困っちゃうから」


 姉ちゃんは自分の胸を持ち上げ、上下に揺らす。


「本物触ってみる?」


 細い体なのに、出る所は出ている姉ちゃんの胸。

 揺れる二つの塊。

 白く柔らかそうな太ももに、ぴったり食い込む白い下着。


 これ以上はボクの精神が持たない。

 くるりと椅子を回して、ボクはパソコンの画面に向きなおし、リセマラの続きをすることにした。

 クッションをボクの足の上に載せ、盛り上がった物を覆い隠す。

 姉ちゃんの揺れる胸を思い出しながらこっそり一揉み。

 

 駄目だ駄目だ!

 もう姉ちゃんのせいで集中できないよ!


「ボクだって男の子なんだよ! あまり変な事しないでよ!」


 姉ちゃんに振り返りながら、体内の欲情を吐き捨てるように大きな声で叫ぶ。

 それを聞いた姉ちゃんは、驚いた表情でボクをただじっと眺め、そしてボクのベッドに横向きで寝転がってしまった。

 ここからだと姉ちゃんのパンツが丸見えだ。

 

 何してんの姉ちゃん……


「何でこっちで寝るのさ。もうキャラ作成終わったの?」


 姉ちゃんの返事がない。

 まさかもう寝ちゃったとでもいうの?


「おーい、姉ちゃんてば!」


 何の反応もない。


「もう、寝ちゃったとか……?」


 ボクはそっと姉ちゃんに近づいてみる。

 スース―と寝息を立てて、寝ているように見える。


「ねえ、姉ちゃんてば」


 軽く肩を揺さぶってみる。

 びくんと姉ちゃんの体が跳ね、思わずボクもその手を離す。

 しかし、それでも姉ちゃんは動かない。

 ボクは姉ちゃんの下着をちらりと覗き見る。

 柔らかそうな細い太ももに、下着からはみ出る小さいお尻のお肉。

 とてもじゃないけど、見続けていられない。

 これ以上見ていると、ボクがおかしくなりそうだ。


 ボクはパソコンに向き合い、必死にリセマラを繰り返す。


 姉ちゃんの為。姉ちゃんの為。姉ちゃんの為。


 心の中で必死に繰り返し、色欲を上書きする。

 姉ちゃんへの強い思いが、色欲を上回るということをボクは学んでいた。

 普段から何度もそういう場面があったから。

 姉ちゃんからの誘惑に勝つために、自分で編み出した方法だ。

 そして、リセマラで目標を達成することが、自らの姉ちゃんへの想いの証明だと認識をシフトさせる。


 そして、ついに出た。

 ステータス100、そして最高ランクSSSの装備が。

 画面に表示された装備は、『勇者の盾』だった。装備個所は盾になっている。

 武器ではなかったけど、やっとでた装備だ。

 ここまでのデータを保存し、ボクはついに達成した喜びの声をあげる。


「やったよ! 姉ちゃん、最高ランクできたよー!!」


 最初に目に入ったのは、姉ちゃんの白いパンツだった。

 そうだった。姉ちゃんはボクのベッドで寝ていたんだった。

 ボクの大声の叫びを聞いても起きない姉ちゃん。

 きっと姉ちゃんも疲れているんだろう。

 ボクも疲れが相当たまっていた。


「ボクも寝たいけど、どこで寝よう……床で寝るのもやだな……」


 姉ちゃんと一緒に寝る?

 そう思ったとたん、抑え込んでいたはずの色情が一気に沸き返る。

 こんなとこで寝る姉ちゃんが悪いんだ。

 でも、一緒に寝たとして、ボクはこの感情を抑えたまま眠れるのか?

 

 ぶるぶると頭を振って、なるべく姉ちゃんを見ないようにしながら部屋の外へとでる。


「姉ちゃんの部屋で寝よう」


 ボクは姉ちゃんの部屋へと入り、ベッドに寝転がった。


「姉ちゃんの匂いがする……」


 ボクは姉ちゃんの掛布団を、両手両足でぎゅっと抱きしめ、悶々としながら眠りについた。




 一人取り残された美乃梨は小さな声で呟く。


「……いくじなし」

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