第14話 やっぱりボクの姉ちゃんは最高だよ

「我がドゥル・カルナインの疾風を見よ!」


 俺はスタート直後に低空から猛スピードで先頭に踊り立った。

 はじめて操縦するこのプテラノドンだが、素晴らしい加速がとても心地いい。

 強烈に我が身を襲う風圧にも負けず、後続をぐんぐんと引き離してゆく。


 周囲を見渡す限り、俺についてきているのはやはり同じプテラノドンを操る連中が5人程だ。

 速度が素晴らしく良いとはいえ、解説ではスタミナと安定性に不安があると言っていた。

 ならば、無理な加速はせずに、先頭であることをうまく利用し、速度を調節せねばなるまい。

 俺の体自体、他の連中に比べればかなり大きい方だからな。

 その分プテラノドンのスタミナ消費も激しいというわけだ。

 出来る限り前傾姿勢を保ちつつ、風の抵抗によるスタミナ消費を抑える作戦を取った。


「あんさん、なかなかやるじゃないか!」


 俺の横に並び、声をかけてきた男。こいつは以前冒険者ギルドで見かけていたマイクというやつだ。

 女性と見れば、次々と声をかけてまわっていたいわゆるナンパ野郎だ。

 同じNPCという立場であるが、こういうタイプの男に声をかけられるのはあまり気持ちの良いものではない。

 とはいえ、俺に並び飛翔するだけの勇気を持ち合わせているというのも事実。


「ふん、ただのナンパ野郎って訳じゃないということか」

「その通り! 我が根源には『勇気』という選ばれたものにしか授からない格別な言葉が宿っているのだ! その辺のやつらにゃ負けねーぞ!」

「ほほお! 『勇気』とな!? それはまた素晴らしき根源を持っているようだ。だがしかし! 我も負けぬ根源を持っている!その名も『漢気』だ!!」


 「ヒュウ」とマイクは口笛を吹き、カルナインを横目で見る。


「ならば俺様の『勇気』と、あんたの『漢気』どちらが優秀か勝負と行こうじゃないか!」

「がはははは! 面白い奴め! いいぞ気に入った! その勝負受けてたとう!」


 マイクは懐から1枚の写真を取り出し、カルナインに見せつけた。


「どうだい? ツンデレお嬢様エレットの寝起き写真だ」


 白いシーツの上に無防備に寝転がるエレットがそこには写されていた。

 白いネグリジェを着て、左肩の肩紐が腕まで外れている。その為、胸元まで露わになっていた。


「何!? 何故そんな姿の写真をお前が持っている!? 貴様……さてはエレット嬢に!」

「チッチッチ」


 怒りを露わにするカルナインに対し、マイクは落ち着いた表情だ。


「まさかそんなことはしていないさ。昨晩付き人のメイドにちょこっとバイトをしてもらっただけさ」

「まったくあこぎな奴だ。見損なったぞ、マイク! 貴様男の勝負にそんな下らん物を持ち出しやがって!」

「ほほお? というと、まさか旦那は女には興味がないとでも言うつもりなのかい? 男であるならば、女に興味を持つのが自然。

それならば、漢気とはつまり女性を我が物にする気勢をも持ち合わせて初めて真の漢といえるんじゃないのかい?」

「何……!? そ、そんなことはないぞ? 俺様にだって女性を愛する気持ちは持ち合わせておるわ」

「なるほど、ならばエレット嬢は好みではなかった、ということにしておこうか」


 マイクはニヤニヤしながら別の写真を取り出した。


「ならばこれはどうだ? 彼女はリオというらしい。頼み込んで撮らせてもらった1枚だ」


 小柄な少女が恥ずかしそうに頬を染めた姿が写しだされていた。


「お、これはまた純情そうな……」

「お、旦那が食いついたか。もしや旦那はロリコンなのか?」

「な、な、な、なにを言うのであるのか!!??」

「うろたえるな! 真の漢こそ真のロリコンである! その心意気を恥じるとは漢気を恥じることと同義なるぞ!」

「な、なんだとっ!?」


 カルナインは衝撃を受けたようだ。

 追い打ちとばかりにマイクは更に別の写真を取り出す。


「ならばこれはどうだ! 俺様お気に入りの一枚!」


 下から見上げ、笑顔で微笑んでいる金髪ツインテールの小さな少女が写っていた。


「そ、それは……萌生ではないか!」

「ほほう? 彼女を知っていたのかい。まあ、真の漢であるならば、これほどの美幼女を知らぬはずがないからな」

「いいだろう……? この純粋無垢な汚れを知らない少女。そうか、萌生ちゃんというのか。あぁ……愛しき天使のようなこの笑顔、たまらんだろう?」

「ぐぬぬぬ……」

「どうした、旦那? まさかこの子は気に入らないとでもいうのかい?」

「い、いや……そんなことはない。むしろ……いや、しかしそれはいかん。いかんのだ……」

「ならば迷うことはあるまい? 『真の漢とはロリコンである』という大原則を忘れたか?」

「おかしい……何故真の漢はロリコンでなければならないのだ? しかし、我が魂に刻まれた漢気の定義にもそう刻み込まれている……いや、だが……」


 カルナインは唇を噛みしめ、拳を痛いほど握りしめ堪えている。

 そんなカルナインを見つめるマイクは、姿勢を正し胸を張る。そして右手を高々と掲げ、大声で叫んだ。


「心を偽るなかれ! 真の漢とは突き進むものである! 己に恥じることあるならば、それはその生きざまを恥じていると言う事なのだ!」


 俯き項垂れるカルナイン。


「俺の……負けだ……」


 その時、美乃梨がカルナインの横を通り過ぎた。


「何やってんのカルナイン。先行ってるわよ」


 前を見ると、いつのまにか10人以上に追い抜かれていた。


「ぐおお! しまったぁ!!」




 あたしは萌生と別れ際に交わした約束を思い出す。


「姉ちゃん、ボクは大丈夫。だから、先に進んで! ボクに構わずレースで勝ってよ! 優勝した姉ちゃんをボクは見たいな!」


 まったく純粋無垢な笑顔でそんなこと言い出すんだもの。応えてあげたくなるじゃない。

 でも、優勝はかなり厳しいわよね。

 あたしの前を飛ぶプテラノドンが10体。

 速度じゃこのアルゲンタヴィスでは追いつけない。

 チャンスはあいつらがスタミナ切れを起こして休む時。

 問題は……あの巨大な山脈よね。


 前方に立ちはだかる巨大な山脈。

 あの山脈をどう超えてゆくかが勝負のカギになりそう。

 選択肢はいくつかあるわね。

 はるか上空まで上昇して山脈を超えてゆく。

 山脈を迂回して遠回りをする。

 山脈を抜けられる手段を見つける。


「確か……スタート前の解説で洞窟と谷があるって言ってたわね」


 あたしは目を凝らして洞窟、あるいは谷を探してみる。

 すると、山の中ほどに大きく広がる黒い穴を発見した。

 ちょうどその時、前方を飛ぶ10体の内半分が洞窟へと進行方向を変えた。


「あいつらは洞窟か……洞窟って言ったら真っ暗なんじゃない? 魔法も使用禁止なのにどうやって飛ぶのかしら」


 前方を飛ぶ残りの5体も進行方向を変えた。


「その方向は……あ! もしかしてあれが谷?」


 巨大な山脈を縦に割いたような細い割れ目を発見した。


「よし! あたしはあっちに決めた!」


 あたしは谷へと向かって進路を変える。

 すると、あたしのすぐ後ろにいた二人組もあたしと同じように谷へと進路を変えた。

 すぐ後ろから二人組の声が聞こえる。 


「信也、あっちに洞窟も見えるけどこっちでいいの?」

「信也っていうなっていってんだろ、亮太! 洞窟なんか何があるかわかねーし。谷のがいいっしょ」

「そっちこそ本名で呼ぶなよ! 俺たちもう女の子なんだからな!」


 なんか以前にも聞いた名前よね。

 あたしは後ろを振り返り、二人組の顔を覗いてみる。

 一人は巨乳で赤毛のポニーテールをした活発そうな女の子。もう片方はピンクの髪でボブカットの一見おとなし目に見える可愛らしい女の子だ。

 当然見覚えはなかった。

 

「もしかして、あんた達って転生前にあたし達の前に並んでいた人達じゃない? ほら、学校で並んでたでしょ。

お互いのキャラを印刷した紙見せあって、良かったら付き合おうとか言いあってたわよね」


 あたしは気まぐれで声をかけてしまった。


「ぶー! 聞かれてたのかよ!!」

「いっとくけど俺たちまだ付き合ってないからな!」


 まだって何よ。これから付き合う気があるってことでしょ。

 こんな時じゃなければこっそり話を聞いていたい所だけど。


「その辺は今度じっくり聞かせてもらうとして、今は人間同士協力しましょ? とりあえずあたしは宗乃美乃梨。よろしくね」

「わ、私はアリサです。神官やってます」


 ピンクのボブカットの方が答えた。

 そして、もう片方の赤い髪のポニーテールも自己紹介する。


「わ、私はニナよ。アーチャーやってるの。ていうか協力って何するの?」

「あら、信也と亮太じゃなかったの?」


 顔を赤くしちゃって可愛らしい人達ね。


「いいんだよ! せっかく転生したんだから、名前くらい変えたっていいだろう! んで協力って何すんの?」


 信也あらためニナは開き直っていた。

 せっかくのおいしそうな人達だし、いじわるするのはまだ後にしてあげましょ。


「とりあえず谷に行くんだけど、初めての場所だし何があるかわからないでしょ。だから、協力体制だけでも取っておこうってこと」


 ニナとアリサはお互い頷きあって即答してくれた。


「おっけー。俺ら……じゃなかった私達は構わないわ」


 あーほんとおいしい人達ね。


「あたしがいれば、言葉遣いも女らしさを意識できるんじゃない? 女の子になりたいんでしょ?」

「まあ……元男だって知っててもそう言ってくれるのは正直ありがたいかな」

「そうね。私達もちゃんと女性として生きてかなきゃいけないんだし。リアル女性を参考にさせてもらうわ」

「それじゃとりあえず3人で協力していきましょ」


 あたし達3人は巨大な山脈の裂け目へと突入していった。


「萌生にやっぱりボクの姉ちゃんは最高だよって言わせてやるんだから!」


 意気込むあたしに、ニナがすぐそばまで寄ってきてアドバイスをしてくれた。


「いいか、私が知ってる谷での注意点を言うぞ。まず風の向きに注意するんだ。今みたいな追い風のときはベンチュリ―効果が働く」

「何それ?」

「いい例がすぐそこにある。加速するから注意しとくんだ!」


 前方を見ると、谷の両側から岩が飛び出ており、進行通路を狭めていた。


「こういう急に細くなる場所を通り抜けると……」


 あたしは細くなった隙間を通り抜け、再び谷は広がりを持った空域へと侵入した。

 するとそのとたん、急激な加速を感じて身体に強烈な風圧を受ける。


「きゃあ!!」


 ニナが再びあたしに追いついて説明を続けた。


「今のがそうだ。広い場所から狭い場所へ、そして広い場所にでると風速が加速する。だから、もし狭い谷の向こう側に壁が見えたら上空に回避するか速度を落とすんだ。

先が広ければそのまま加速を活かして進む。その判断を間違えるなよ!」

「びっくりしたわよ! 先に教えておいてよ、もう!」

「あはは。谷で差を広げるには、わざと狭い場所を通過するのが得策だ。さっきもいったけど、狭い場所の先に障害物がある場合は避けるんだ」

「了解!」


 あたし達3人は、この縦に長い谷間から狭い場所を慎重に選びながら進み、加速を味方につけていった。


「ニナ! あたしが優勝したら1回だけご飯おごってあげる!」

「それは嬉しいね! 私が優勝したら、10回おごってあげるよ!」

「丁重にお断りするわ!」


 3人は後続をどんどん引き離し、順調に谷を進んでいった。

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