第40話 もう我慢できない……早くいかせて! 中に入れて!
「萌生……今姉ちゃんが助けにいくからね!」
一刻も早く萌生を助け出したい。
絶対に無事に萌生を助け出すんだ。
あたし達はフルムーンを駆け抜けた。
「あれが新しい街……」
フルムーンから南に出てすぐの場所に新しい街が出来ていた。
街の入口には衛兵が門の両端に一人づつ立ち、衛兵とは異なる装備を付けたNPCらしき人達が三人程門の中央で仁王立ちしていた。
街へ入る人物を選別しているのかもしれない。
「美乃梨殿とニナ殿とアリサ殿はここで待っていた方が良いかと思います」
エレット隊副隊長のスコットがあたしに進言してきた。
しかしあたしはそんな悠長なことはできない。
「萌生が捕まってるのよ? そんなことできるわけないわ!」
「しかし、ここはNPC至上主義者の街。我々だけなら街へ入るのも容易いでしょう」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ! あたしの萌生が捕まってるのよ!?」
「お気持ちはわかりますがここは冷静に……」
「あたしも中に入れさせて! 一人で待ってるなんて絶対無理!」
こんな事を話し合ってる時間はない。
この間にも萌生が何かされているかもしれないのに。
「もう我慢できない……早くいかせて! 中に入れて!」
我慢できずにあたしは一人で突入しようとすると、エレットがあたしを制止した。
「わたくしが先に行きますわ。美乃梨はわたくしの後から皆の影に隠れて来てくださいまし」
そういうとエレットは先頭を切って門へと歩み寄る。
エレットに続いて即座に数十人の男達が後に続く。
エレットの一言でスコットはもう何も言わずに即行動に移した。
「追い止まれ! ここはNPC以外は通行止めだ! 一人づつチェックをする!」
「お断りいたしますわ。わたくし達はこの中に用があるんですの。邪魔をしないでくださいます?」
「エレットさんじゃないですか。ささ、どうぞ中にお入りください」
「あら、意外にすんなり入れてくださるのね。それなら遠慮なく……」
エレットに続く男達の間に隠れるようにあたしは門を通り過ぎようとした。
しかし、門番の一人にあたしの顔を見られてしまい、門番があたしの前に立ちはだかった。
「おい! お前は駄目だ!」
門番が人をかき分けあたしに迫ろうとしてくる。
しかし、エレット隊の人達が門を通過する際にわざとらしく門番にぶつかりその行く手を妨害する。
「おい! 痛たた! どけ、じゃまするな……うっ!」
考えてみたら、今この場にいる人間は何人いるのだろう。
エレットもエレット隊も街で集まった人達も全員NPCだ。
見つけて報告してくれたマイクも、先行しているカルナインもNPCだ。
捕まっている内の一人もNPCで、人間はあたしとニナとアリサと捕まっている萌生とともの五人だけだ。
人間とNPCの共存と言っても、人間で動いてくれている人がほとんどいないっていう事実がとても寂しく感じてしまう。
別に人間が薄情だというわけじゃない。
単純にあたしの人望がないだけだ。
あたしに着いてきてくれる人間が少ないからだ。
エレットがいなければここに来ていたNPCの人達もいなかっただろう。
どうやったら人を動かせるようになるの?
どうやってあたしの人望をあげればいいの?
「元女子高生のあたしが考える内容じゃないでしょ……ほんっと……誰か助けてよ……」
いきなりあたしの手が掴まれて、引っ張られた。
エレットがあたしの手を引いて走り出す。
男達がその周囲を囲んでくれている。
「ああ……そっか。いるじゃない、こんなにいっぱい。みんなあたしを助けてくれてるじゃない」
エレットに手を引かれ、あたしは通りを走った。
向かったのはマイクから聞いていた街の中央にある大きな建物。
「萌生、今行くからね!」
「やめて! 抱きつかないで!」
縛られて自由が利かないのをいいことに、男はボクに抱きついてきた。
「わっはっは! 大人しく言う事を聞け!」
ボクは顔を背けて体を必死によじって抵抗するも、まったく男を振りほどける様子はない。
姉ちゃんに拘束された時も、ボクはいつも好きにされていた。
きっともがいても無駄だろう。
ボクはこの男に好きなようにされてしまうんだ。
ボクの目に涙が浮かぶ。
「早く……終わって……」
その時扉の向こうから男達の怒声が聞こえてきた。
「何事だ!?」
「敵襲です! でも少人数のようです。すぐ蹴散らしますよ!」
その声を聞いた萌生は絶望の中で光を見た。
「姉ちゃんだ……姉ちゃんが来てくれたんだ!」
その声を聞いた男は部下を呼び寄せて命令する。
「例の奴が来たらしい。殺さず捕まえろ」
「は!」
次第に近づく剣戟の音。
それは敵を退け助けが近くまで迫ってきていることを意味する。
そしてついにその音は扉のすぐ後ろ側から聞こえてきた。
「ぐはっ!」
男の断末魔の叫びが聞こえ、扉が勢いよく開く。
「姉ちゃん!」
ボクは涙をいっぱ目にためて、飛び込んでくる人影に叫んだ。
「俺が姉ちゃんだ!」
そう答え、一人部屋へと飛び込んできたのは大きな巨体の熊のような男だった。
そう、カルナインさんだ。
カルナインさんは一気に残りの男達を切り伏せ、残りは一人となった。
遅れて部屋に入ってきたのはマイクさんだった。
ボクは黙ってカルナインさんの顔を見つめる。
カルナインさんも笑顔で見つめ返してくる。
「姉ちゃん……? え?」
「む……話を合わせた方がいいのかと思ったのだ」
「どう見たってカルナインさんが姉ちゃんとか無理がありすぎるよ!」
「そ……そうか?」
残りは一人。ボクを捕まえている男だけだ。
男は剣を取り出し、ボクに突き付ける。
「動くな! 手を出したらこいつの命はないぞ!」
「それはこっちのセリフだ、エンデバー! 周囲はこっちの軍勢が既に包囲した!」
「くっ……マイク! 貴様……裏切ったな!」
「初めからお前の仲間になったつもりなんかねーよ」
エンデバーというのがNPC至上主義者のリーダーだ。
ここにきて人質といった卑劣な行動に出たエンデバー。
カルナインさんとマイクさんは剣を抜いたままエンデバーを睨み付けて動けないでいる。
「貴様……もしその子を傷付けてみろ……死よりも恐ろしい目に合わせてやるぞ!」
カルナインさんが物凄い形相でエンデバーを睨み付ける。
「二人とも武器を捨てろ! さもないとこいつの命はないぞ!」
剣をボクの喉元に突き付けるエンデバー。
ボクは恐怖で呼吸もろくにできずに固まってしまっている。
「扉から離れろ! ゆっくりだ!」
そういうとエンデバーはボクを抱えながら扉へと進んでいく。
二人はボクが人質に取られているために動けない。
ともさんは縛られたまま機会を伺っているようだが、エンデバーに睨みを効かされて動けずにいる。
エンデバーは動けないでいる三人を見てにやけ顔のままボクは抱えられながらそのまま部屋から外にでた。
「よし……これなら逃げられるぞ!」
その瞬間、何か白い影がエンデバーに襲い掛かった。
「ワオーン!」
意識を部屋に向けていたエンデバーは部屋の外からの襲撃に対応できなかった。
そのまま壁にエンデバーは吹き飛ばされ、白い影に覆い被さられる。
「萌生ちゃんこっちに」
リテアさんだ。
交渉に向かうように言われていたリテアさんがホワイトウルフのネオと一緒に部屋の外で待ち構えていたのだ。
ネオはそのままエンデバーの首元に噛み付き、大きな牙を食い込ませた。
「うぐっ……役立たずのリテアに……やられるとは……」
「私はもう役立たずじゃない! 貴方達とは違って、本当の大事な仲間を見つけたんです!」
「くそったれ……」
そのままエンデバーは息を引き取った。
その瞬間、周囲の建物が透明になってゆく。
「領首が死んだから街が消えるんだ!」
あっという間に街は綺麗さっぱり消え失せ、周囲は草原に囲まれていた。
そしてすぐそばに大勢の人達が取り囲んでいるのが目に入った。
「まだこんなにいっぱいいる!?」
「ううん、大丈夫よ萌生ちゃん。あれは貴女のお姉さんが連れてきた味方よ」
「姉ちゃんが……? こんなにいっぱいどこから……?」
集団の中からこっちに走って駆け寄る人影が見えた。
ボクのよく知っている人物だ。
ボクの大事な人。
姉ちゃんだ。
「萌生!」
姉ちゃんは勢いよくボクに飛びつき、抱きついた。
その勢いに押されて地面へと押し倒される。
「姉ちゃん!」
「萌生!」
紐で縛られたまま身動きが出来ない状態で姉ちゃんに力いっぱい抱きしめられている。
そんなボクの顔に頬を擦り付けてくる姉ちゃん。
「ごめんね……ごめんね……もう離さないから……無事でほんとに……」
いつぶりだろう。
姉ちゃんに認めてもらいたくて、姉ちゃんから独り立ちしようとして、姉ちゃんと一緒の部屋で泊まらなくなっていた。
パーティーも別々になり、ほとんどの行動も一緒じゃなくなってしまっていた。
会話も昔ほどなくなってきていた。
大好きな姉ちゃんの為って思っていたのに、ボクがしてきていたのは全部姉ちゃんから離れていく事しかしてなかった。
それがずっともどかしくて、寂しくて仕方がなかったんだ。
「ボクの方こそごめんね……自分を変えたくて……姉ちゃんに認めてもらいたくて……でも駄目だった……」
「一緒に変わっていこう……あたしもね、萌生の事見てるつもりでちゃんと見てなかったわ。あたしも全然ダメだって実感した」
気が付くと周囲にはとても多くの人に囲まれていた。
全員姉ちゃんが連れて来てくれた人達だ。
「姉ちゃん凄いよ! こんなにいっぱいどうやったの?」
「あはは。実は全部エレットのおかげ。あたしじゃないわ」
「エレットさんが……すごいね……」
周囲を見渡してエレットさんの姿を見つけた。
「エレットさん! ありがとうございます。また助けてもらっちゃったね」
ボクがお礼を言うと、エレットさんは照れたようにそっぽを向いてしまった。
「別に貴女の為にやったわけじゃないんですのよ?」
「何かお礼をさせてください」
「どうしてもというのなら……今度一緒に食事に付き合ってくださいまし。もちろん美乃梨と一緒にですわよ」
「はい。姉ちゃんと一緒にご馳走になります」
「わたくしが奢るんですの? まあいいですわ。お好きな物を注文なさい」
「それならあたしが手料理をご馳走するわ。あたしこう見えても料理得意なのよ?」
「わあ~姉ちゃんの手料理久しぶりだぁ。ボク楽しみだよ!」
「わたくしも楽しみにさせていただきますわ」
エレットさんの横にカルナインさんとマイクさんがやってきた。
「美乃梨の手料理ならば、是非俺も食して見たいものだ。なあマイク?」
「え、俺……? いや、俺は駄目じゃないかな……はは……」
マイクさんは笑ってはいるが目は笑っていない。
「マイク……あんたも招待するわ。あの……今までつらくあたってごめんなさい。認めるわ。あんたは立派な勇者よ」
マイクさんの表情がみるみる変わっていくのがわかった。
悲しそうな顔から嬉しそうな顔。そして今にも泣きだしそうな顔へと。
「お……俺……お……うおおおおお!?」
カルナインさんに肩を叩かれ、天を仰いでむせび泣くマイクさん。
「そうね、はりきって全員分作るわ。萌生一緒に手伝ってよね! 200人以上いるんだから」
「うん! ボクも手伝うよ。みんなにお礼したいし!」
こうしてボクは無事に助け出された。
それに、今回の一件で姉ちゃんとも仲直りできて本当に良かった。
なんだかみんなも一つになった気がして、大きな前進をした気がする。
ボクは変わろうとして、それが逆になっていたことを知ったんだ。
本当に大事な人の為にすることっていうのは、きっと自分を認めてもらう事とは違うんじゃないかって思うんだ。
姉ちゃんの為を思っていたはずなのに、自分の為になっていたんだ。
きっとそうじゃない。
無償の愛情を注ぐこと、きっとそれが答えなんじゃないかってぼんやりと思ったんだ。
まだよくは解らないけどね。
姉ちゃんと一緒に変わっていこう。
姉ちゃんがそう言ってくれたから。
ボクはその道を行こうと思う。
姉ちゃんに言われたからだけじゃない。
ボクもそう思うから。ボクの意思もそうだから。
「姉ちゃん……」
「なあに、萌生?」
「大好きだよ、姉ちゃん!」
「あたしも大好きよ、萌生」
転生したからもう姉ちゃんじゃないよね? ~ボクが女の子になったワケ~ sorano @y_sorano
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