第11話 夏の思い出5 ―それぞれの放課後

 九日目、放課後。

 図書委員の仕事はとんでもなく暇を持て余すものだ。

 この学校の図書室は、第一第二と分けられているものの、はたして分割する意味はあるのだろうかと疑いたくなるくらいの文庫量しかなく、両部屋とも狭い作りだ。

 第一図書室は職員室のすぐ近くに所在しているためサボりには使いづらく、よっぽどの本好きしか近寄らない。反対の北向きに構えられた第二図書室は、校舎の果てで薄暗く、どんよりとした雰囲気だ。夜の校舎に忍び込んだとするならば、まず一番に肝試しルートに入れられてしまうだろう。


 そんな中、私が所属する図書委員会の根城は第一図書室に設けられていた。

 委員会に所属する者だけが入れる準備室には、埃を被った本が何冊も積み上げられている。ラベリング途中の本もいくつか置かれたままになっていて、次の活動はこれを片付けてしまおうと思った。

 

 私は本を開くのが好きだったから、一度物語の中に没入してしまうと中々帰ってこられなくなる。とっくにくたびれてしまったクッションのパイプ椅子に腰を預けていると、やっと物語から現実へ帰ってこられた時には坐骨のところが傷んで仕方がない。

 毎度これを味わう度に、次こそは同じ轍を踏むまいと意気込むのだが、まだ一度もその反省が活かされたことはない。


 窓から差し込む日差しが図書室の中を蜜柑色に彩っている。図書室に残っているのは私以外もう誰もいなくて、手元の文庫本をめくる音だけが静かに響き渡っていた。

 暇で退屈だからと人気の無い図書委員会の仕事は、例年幽霊部員が一定数現れる。そのため、当番シフトはいつも穴だらけで、真面目な数人で上手くローテーションを組んで運営してきた。二人以上の人員を割くなんてとてもじゃなかったが、ご覧の通り図書室を利用する生徒は数えるほどだったので大した苦にならない。

 むしろ一人の時間を有意義に使えるから、ある意味特権なんじゃないだろうか。


 パイプ椅子の背もたれに体重をかける。壁にかかった時計を見て、そろそろ閉館の時間になると思っていれば、廊下の先からパンプスの床を踏む音が聞こえてきた。


「萩原さーん、お疲れ様っ! 今日も遅くまで残って貰ってありがとう。あとはいつも通り、鍵だけ戻しに来てくれればいいから」

「あ、いえ、気にしないでください。すぐ家に帰っても暇ですから。鍵、後で戻しに行きますね」


 ありがとー、と言い残して小走りで去っていく先生。いつも閉館のタイミングだけを知らせにやって来ては、すぐに職員室へと踵を返すのだ。

 ふぅ、と息を吐いてから、手元の文庫本に栞を挟んで静かに閉じる。

 埃っぽいこの図書館準備室も、一部目を瞑ってしまえばみやことなるのだ。夕暮れの暖かさ、グラウンド向こうから聞こえる野球部達の掛け声、廊下で談笑する生徒の笑い声。こうやって付加価値を探していくと「趣があるなぁ」などと錯覚できるのだから不思議である。

 長時間座るには耐え難いが、このパイプ椅子にはお尻がすっぽりとはまるので、何とも言えない安心感を覚える。自前の小さなクッションを机に置き、枕代わりにしてすこし頭を休める。

 ……いけない、眠くなってきた。


「ふぁーあぅ」


 誰もいないのを良いことに、だらしなく欠伸を漏らす。

 帰らないとなぁ。

 でも、その一歩がどうしても重く感じられる。

 例えるのならなんだろう……。あぁ、無性にお風呂に入るのが面倒に感じられるあれだ。いざ入ってしまえば何てことないのに、それまでが無性にだるいのだ。

 ギィ――と、椅子を体重移動させて左右に揺さぶる。

 なんだろう、どことなく消化不良を感じている。ここ最近は毎日充実していて、退屈する暇なんてなかった。だからこそ、こういう凪いだ日があると物足りなさを覚えてしまうのだ。


「……皆、何してるのかなぁ」


 蘭君と鈴ちゃんは、確か秘密基地の様子を見に行くって言ってたっけ。一緒に手伝うって言いたかったなぁ。

 羽衣は……書店のアルバイトだっけ。今の時間だと、もうとっくに働いている最中のはずだ。


「あ、そうだ」


 ちょっと顔でも見に行ってやろう。

 あれだけ重かった足が嘘のように軽く感じられた。全く、我ながら現金なやつだなと思う。

 素早く図書室の戸締まりを終わらせ、いつも通りに鍵を職員室まで戻した。焦る気持ちを抑えながら、白いスニーカーに足を通す。少し速歩きになりながら、いつもの帰り道より二本手前で曲がり、目当ての場所へと駆けて行った。

 学校からだと距離もそんなになく、数分もしない内に目的地へ辿り着いた。

 少しだけ、ほんの少しだけ焦ってきてしまったから、まずは息を落ち着かせる所から。次に鏡で髪型をチェックして、制服にシワが付いていないか整える。


「よし、大丈夫」


 そうして気合を入れ直し、店のドアをくぐる。

 エアコンの冷房がガンガンに効いていて、自動ドアが開いた瞬間、冷えた空気が津波のように身を襲う。それと同時に入店を知らせる音楽が鳴り響き、遠くの方から「いらっしゃっせー」の声と、陳列された本を並び替えていた気怠げな男性の目線だけが送られてくる。

 さて、羽衣はいるかな……と、辺りを見渡していると。


「お、萩原か」

「い、よ! お邪魔しにきちゃった」

「やっぱり今日辺り来るかと思って、用意しといたんだよ次のオススメ。この仕事が一段落したらバックヤードへ取りに行くから、適当にぶらついててくれ」

「ありがとう。遠慮なくお借りします」


 四人でまた遊ぶようになってからのことだが、こうして羽衣と本の貸し借りをするようになっていた。

 本当につい最近だが、羽衣が読書家であるのが判明したのだ。しかもアルバイト先が本屋という徹底振り。貴重な同じ趣味、これはチャンスだと思った。

 ――そして今に至る。

 その後少し待ってから受け取ったハードカバーの小説は、意外とずっしりしていた。当時ミステリを書かせれば右に出る者はいないと言わしめた作家の、新しいジャンルへの挑戦作だった。二年ほど前に大流行していた気がするが、結局まだ目を通せていなくずっと気になっていたのだ。

 今から読むのが楽しみになっているし、その後に羽衣との感想をぶつけ合うのが既に待ち遠しい。


 期待に胸を弾ませながら、書店の中を無作為に歩く。時折、視界の端に羽衣が入ってくればその横顔を盗み見た。


「真面目だなぁ」


 誰にも見られていないのに、きびきびと手を動かしている。私だったらちょっと怠けちゃうかもしれない。

 ……うん、そういう所も良いのかもしれない。


「羽衣、そろそろ帰るね」

「あぁ、わかった。感想はいつでもいいからさ、自分のペースで読んでよ。そのほうがきっと楽しいから。それじゃ、また」

「ん、わかった。またね」


 そうして羽衣に勧められた本を手にぶら下げ、今度こそ帰路へついた。

 これで皆と遊ばない時でもいい暇つぶしが出来るだろう。それに、早く感想を語り合いたい。どこで笑って、何で悲しむのか。その思いや感情を共有したい。

 ――あなたが何を思っているのか、今度はちゃんと知りたい。私も当事者でありたいんだ。

 つい、あの時黙って見ることしかできなかった背中を思い出し、肩にかけたスクールカバンを握る手に力が籠もってしまう。


 とはいえ、今は今でちゃんと楽しまなきゃ。ちょっぴりとはいえ、不純な気持ちを混ぜて本を読むのは、愛読家の人達に怒られちゃうかな?

 まだ高校生の青春真っ只中なんだもん、ちょっとくらい、許してくれるよね?




※※※




 学校から帰宅してきたそのままの足で、俺達は真っ直ぐ秘密基地へと来ていた。


「げっほぉ! うえぇ! ぺっベェ!」

「鈴……仮にも女なんだからよ、咳くらい可愛らしくできんのか?」

「うっさいよ蘭! これは不可抗力、しょうがないの!」


 いやまあ気持ちは分かるが……。俺の妹として恥ずかしくないくらいの上品さは身に着けてほしい。

 

「にしても、随分とこっちも汚れちゃってさぁ……。シオンのやつ、この場所を根城にするなら掃除くらいしておけよな」

「文句言わないの。シオンちゃんってたぶん中学生でしょ? 人生の先輩である私達が率先して動いて、あの子の自主性を育てなきゃ」


 なんていう鈴の高尚な考えの下、秘密基地の掃除に勤しんでいる俺達である。

 ずっと引っ掛かっていたが、シオンがこの場所を隠れ家だと言う割には随分と汚いままだったのだ。まあ、例の地下空間に篭っていたと言われれば多少の理解は出来るものの、出入りする度に眼にするだろうこの惨状が気にならないのだろうか。

 ほとんど自然の一部と化しているこの納屋は、通気性だけは抜群に良い。ただの埃が無い代わりに砂埃が、湿気がない代わりに雨風に打たれた磨耗が多く見られた。


 ――本当にここを隠れ家として使っていたのか?

 ――しかも、ずっと一人で?


 俺達は四人でこの場所を使ってきた。四人だからこそ、この場所でずっと遊んでいられたのだ。

 子供だけじゃ持て余すほど大きく作られたこの納屋は、一人で遊ぶにはとてもじゃないが寂しすぎる。だからこそ、あんな小さな女の子が一人で……ましてや多感な時期の中学時代に、この場所へ入り浸る訳は一体なんだ?

 普段機能していない脳みそを使ったから頭がむずむずしてしまう。思わず額の所を爪で掻いてしまった。

 ――シオンと重ねた額の部分。そもそもだ、あのおまじない自体がきな臭くて仕方がない。ただピトリと合わせただけで何が変わるっていうんだよ。


「らーんー? ぼーっとしてないで手を動かしてよー?」

「ん? あぁ悪ぃ」


 いや、決め付けは良くない。これはあくまで俺の考えだ。独りよがりで決め付けるのはどうしたって偏見が入るから当てにならないと、誰よりも痛感しているだろ。

 あの時から、全部一人で決めるのは二度としないと、そう悔い改めたじゃないか。


「よし、じゃあ屋根上ってくるわ。確か、雨漏り一歩手前のが一箇所あったよな?」

「あー、あそこね。あれは放っておいたら危険だわ。きっと洪水が起こると思う。よし、直してきなさい」

「なんで命令口調?」


 とまあ、生意気な妹に構っていても仕方がない。時間は有限である。

 わざわざ遊ぶ予定を無くしてまで掃除の時間に充てているのだから、さっさと終わらせてしまうに限る。ここには電気を通していないから、暗くなる前には帰らないと……さすがにちょっと怖い。

 確かシオンに連れられて地下に行ったときは電気が灯っていたよな? あれって地上の納屋にも引っ張ってこれねぇのかな。


 なんて楽をしたい気持ちで想像を膨らませながら、家から持ってきたハシゴを軒のところに引っ掛ける。ボロい建だ、ゆっくりと慎重に足を登らせていく。


「やあ、お勤めご苦労。肉体労働、結構なことじゃないか」

「うお! シオンじゃねえか! 何でこんな所に!?」


 そうやって神経をすり減らしながら屋根に上ると、そこにはなぜかシオンも座っていた。いつものセーラー服である。


「はっはぁ、その驚いた顔が見たかったんだ。ここで息を潜めておいて正解だったな? ほら、目当ての場所はあの辺りだ」


 そういってシオンが指差した方を辿って見ていくと、茅葺き屋根の一部が少し凹んでいることが分かった。といっても、シオンにこうして指示されなかったら判別できるまで少し時間を要するくらいの差だ。

 恐る恐るその部分を捲ってみる。基盤となっている木組みの部分が折れているのと、その端から雨に浸されて腐りかけているのが分かった。更に、そこに触れていた茅もしおれてしまっていたので、屋根としての機能はもう殆ど残っていない。


「どうだ? 直りそうか?」

「んー、どうだろう。茅葺き屋根だからなぁ、正直素人が手を出してどうこうなるものなんだか……」


 確かこういうのって、茅の周期的な問題で全部張り替えなきゃいけないんじゃなかっただろうか。こうして腐っている部分があるのだから尚のことだ。



「とりあえず、隙間に板を挟んでビニールシートを被せてみようかな。最善じゃないけど応急処置にはなるだろ。後は、どっかから茅っぽいのを調達してかさ増しするとかかな? 確かこれって、紐で括って取り付けるんだよな」

「ほぉ、それだけできれば大したものだ。頼めるか?」

「おう、任された」


 向こうが普通に話しかけてくるもんだから、ついこちらも流されてしまっていたが……。シオンはずっとこの場所にいたのだろうか?

 それなら、俺達がこの下であれやこれやと作業していたのを聞いていた筈だ。ちょっとくらい、手伝ってくれても良かったのに。

 喉まで出かかったその言葉をなんとか飲み込む。喜怒哀楽はふんだんに表現するようにしているが、こういう場面の感情を隠すのは上手な方だと自己評価している。はずだったのだが……見透かしたかのようにシオンが口を開いた。


「そうだ! お前が作業をしているその間、私が話し相手になってやろう。本当は一人じゃ寂しかったんだろう? 私がいれば安心だな!」

「そりゃまあ……結構なことで」


 一瞬心でも読まれたかと驚いたが……これは違うな、いつもの傲岸ごうがんなシオンだ。

 こちらが折れるしかないと諦め半分、作業に手を戻す。念のためと用意していた板を運び上げ、屋根の茅を少し剥がす。いらぬところまで剥がれそうになって少し慌てたが、まあ何とか大丈夫そうだ。

 むき出しになった破損部分に板を宛がい、上手く収まるようノコギリで大きさの調整をする。絶妙な具合になったたところで口に咥えていた釘を一本取り、金槌で打ち付けていく。


「ほぉ、手際がいいな」

「そりゃどうも。昔からこういうの好きだったから、慣れてんだ」


 一本、また一本と釘を打ち付ける。

 カンカンと鉄同士のぶつかり合う音が響く。その音に混ざって屋根の下から鈴が荷物を引き摺る音が聞こえていたから、あいつもそれなりに頑張っているみたいだ。

 終始沈黙したままのシオンだったが、最後の一本を打ち終わる頃になってやっと口を開いた。 


「……ところで蘭、せっかくこうして二人なのだ、少し問答しても良いかな?」

「問答だぁ? そんな大層な言い方しなくたって何でも答えてやるさ」


 そうか、とだけ言ってシオンは遠くを見つめる。方角はたぶん、俺達の学校がある辺りだ。

 こうして屋根の上に昇ってみると、見える景色もまた違う。木々に囲まれたこの場所は、見上げる空の美しさは格別であるものの、どことなく閉鎖的な感覚を覚えてしまう。しかし、納屋の上に昇って見ればそんなこともなく、立ち上がれば空の端まで見渡せそうなくらい開放的で良い景観だ。

 燃えるような色をしたこの空は段々と夜に迫られて、暗みがかった部分がコントラストを生み出している。雲間から除く明かりは直視しても大丈夫なくらいで、今この瞬間を写真で切り取り、皆にも見せてあげたいと思った。

 そんな景色に見惚れていると、暫く無言の間が空いてしまう。

 そうだ、質問。そう思ってシオンの方を見やると、いつの間にかこちらを見つめていたシオンと視線が合う。不思議と背筋が伸びる。その小さな口が開かれるのを、只々じっと見守ってしまう。


「お前達……昔ここで遊んでいたと言ったよな?」

「あぁ、そうだけど?」

「うむ。なら聞こうか。お前達は……本当にその四人か? 間違いなく、正真正銘に、神に誓って、同一人物か?」

「一体何を……。当たり前だろ、同じ四人に決まってる。嘘だとしても、メリットなんか一つもねーだろ」

「……そう、だな。名前も一緒で顔に面影も残っているのだから、同一人物であることに間違いはないのだよな」

「初めて会った時も思ったし、今のその口振りもそうだけどよ、なんだか昔から俺達を知ってるような口振りだな?」

「いや、なんでもない。失言だった……忘れろ」


 そう突き放すように言ったシオンの横顔はどこか寂しげで、自らを抱くように伸ばしたその手は、痛いくらいに力が篭っていた。

 俯き、表情は前髪で隠れて見えなくなってしまったが、肩の震えがその悲痛さを物語っている。


 決して悪戯で放った質問ではなかったのだろう。

 こちらとしては全く意図を掴めなかったが、シオンにとってこの質問をすることが、どれだけ胆力を必要としたのかがひしひしと伝わってくる。


「では、最後に一つだけ。良いか?」

「……なんだよ」


 少し間を空けて、今度はこちらの心を突き刺すようなひやりとした視線でこちらを見据える。


「お前達は、今の関係に満足しているのか? 現状から目を背け、それで良いと逃げてはいないのか? 本当に、心から、楽しいのか?」

「……は? そりゃ一体どういう――」


「おーーーーい!」


 鈴の声だ。


「らーんー! 終わったー? 話し声が聞こえてたから、シオンちゃんもそこにいるんでしょー? 喋ってばっかりで手止まってんじゃないでしょーねー!」

「――っんだようるせーな! もう少しで終わるっての! ほら、シオンも言ってやってくれ……って、あれ?」


 と、横にいるはずの彼女に視線を向けてみるが、どこにもいない。

 その代わりに、小さな紙に走り書きで「帰る」と記されたメモが落ちていただけ。


「いつの間に居なくなったんだよ……」

「何がー? あれー、シオンちゃん居るんじゃなかったのー? 声は聞こえてたのにー!」

「なんか、帰ったっぽい」

「えー!? いつの間に? 今私下から見てたけど降りてきた様子はなかったよ?」


 置かれたメモを手に取る。うん、ちゃんと存在してる。

 おもわず頭をかきむしりたくなるが……駄目だ、鈴の前で情けない顔をしちゃいけない。兄として、頼りない背中は見せられないんだ。


「話の内容、聞こえてたか?」

「え? いや全然。こっちもちゃんと働いてたからね!」

「そうか、ならいいや」

「えー、なになに? 聞かれちゃヤバイことでも話してたの?」


 もう時間も遅くなってきた。

 陽が沈んだなと思ったら、その瞬間にはもう真っ暗になってしまうものである。


「今日はもう帰るか。流石に疲れただろ? 早く飯が食いたい」

「ん。それもそうだね。あ、ただ私も疲れてるんだから今日のご飯は手抜きで良いよね? 私は昨日の残りで、蘭は卵かけご飯」

「いやお前、昨日の残りってカレーだろ。え、まさか一人分しか残してない? 何で俺の分も残しておかねーんだよ」


 最後の質問。

 今思い返してみても、あれは冗談で聞いたんじゃない。そんな雰囲気があった。

 個人的な悩みがまた一つ増えてしまったが、明日には持ち込んじゃいけない。それが俺、浜野蘭って男なんだ。

 四人の中じゃ一番早く生まれていて、皆の兄貴なんだ。格好つけだと言われるかも知れないが、許してくれよ。


 大丈夫、ちゃんと楽しんでるよ俺達は。

 大丈夫、明日からも皆とだったら楽しめるさ。


 そう思いながら口に運んだ卵かけご飯は、何だかいつもより味が薄かった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る