第02話 再会 (杏と鈴)
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朝のホームルームにて紹介されたのは
どこのクラスに転入してくるのか、後で顔を覗きに行くべきか、そんな心配事はまるで意味を成さなかった。探す手間が省けたと思える思考の持ち主であれば気も楽だったのだが……。あいにくまだ心の準備ができていない。難儀な性格だなと、痛いくらいに跳ねている私の心臓を笑ってやりたかった。
転校初日といえば、質問攻めの洗礼を浴びて身動きが取れなくなるのがお約束である。それが数年ぶりの同郷の者であれば尚更だ。ちゃんと話せるのはまだ先になるかな、なんて思っていると、鈴ちゃんは自分の席の周りに出来た囲いをするり抜け出し私の元へやってきたのだった。他のクラスメイト達は置き去りである。
そんな周りのことはお構いなしに、鈴ちゃんはパッと笑顔を咲かせて会話を始めた。
「本当に久し振り! 自己紹介で教壇に立った時、見覚えのある顔も何人か居たけど、何より杏ちゃんがいたことが嬉しい!」
「えっと、え、良いのかな……うん、私も同じだよ。噂だけは聞いていたから、鈴ちゃん達かなって思ってたんだ。でも、何年も経っているのによく私の事見つけられたね」
「んー、やっぱり雰囲気かなぁ。もちろん見た目は『女子高生!』って感じになったけど、見間違えることはないと思う」
「そう言って貰えるのは嬉しいけれど、何か複雑……。でも、鈴ちゃんは結構変わったんじゃない?」
真ん中で分けられた前髪に、背中まで伸びる綺麗な黒髪がその動きに合わせて揺れている。大人びた顔付きに成長していたが、にっと笑えば子供の頃に見たあどけなさが表に出てくる。美人という噂は間違っていなかったと一人頷いた。昔であれば、浜野の弟だなんて揶揄されていたが、見違える程綺麗に成長していた。
こちらには事前情報があったからこの二人で間違いないと身構えられたが、もしその情報が無ければ認識するまで少し時間が掛かっていたかもしれない。
「そうかなぁ、あんまり意識したことないや。
「兄妹で毎日顔を合わせているから、変化に気が付いてないだけなんじゃない? きっと
すると、急に私の手を掴んだ鈴ちゃんは「羽衣って、
「昌君の教室はどこ? 杏ちゃんに会えたし、次はそっちにも会わないと!」
手を引く力は強まるばかり。成すがまま、抵抗を許さない力でズルズルと引き摺られてしまう。昔もこんなことがあったような……なんて、ちょっと懐かしさを感じてしまった。いや、こんな事で懐かしさを感じるのもどうかと思うけれど。
「ま、待って! 今から行くの? もう一時限目が始まるし、別の時間にしない?」
「あ、それもそうか。焦りは禁物だね」
結局、教室の出口まで連れ去られてからその手は離された。
猪突猛進な所はまるで変わっていない。この調子だと蘭君の方も変わらないんだろうな……。
一度決めてしまうと最後まで突っ走って行く。昔はそれに何度も振り回されていたのだ。私も、羽衣も。
すると、この時を待っていたかのようなタイミングで鈴ちゃんの携帯が振動した。受信内容に目を落としている間は流石に大人しくなっており、その様子を見ると自然にほっと溜息が出た。そうして数秒後、母親に満点のテスト用紙を見せ付けるような顔をして、液晶画面に映し出されている文字列を私の眼前に突き出してきた。忙しない子だなと、少し可笑しくなった。
「蘭からメール! 昼休み、皆でご飯食べようだって! 昔みたいに四人で!」
「え?」
突然の提案に、一瞬思考が停止した。
「蘭のやつめ、良い働きっぷりだ。今回だけは身内贔屓無しで褒めてやろうっと」
「ちょ、ちょっと待ってよ、そんな急に決められても……」
「あ、もしかして別で約束とかあった?」
「そう言う訳じゃない、けど……だって、今朝の会話だけでも緊張したっていうのに……」
そこまで言ってから余計な事を口走ったのではないかと、若干尻すぼみになりながら鈴ちゃんの様子を伺った。
「……ん? そりゃあ私達とは久し振りな訳だし、緊張があっても最初だけだよ! 蘭のやつも全然変わってないし、心配することなんてない!」
「そ、そっか。そうだよね、心配しすぎか」
などと言いながら、なんて都合良く解釈してくれたんだろうと一安心してしまう。
そう、結局のところ従うしか選択肢は残されていないのだ。
「……わかった、昼休みね」
すると、満足気な表情で「やったやった!」と子供のように飛び跳ねる鈴ちゃん。
こんなに喜ばれると、断るだなんてできっこないじゃない……。
ど、どど、どうしよう。今朝のはあくまで心の準備を万端にしていたから会話ができただけであって、といっても一言二言しか交わせなかったけれど……。実は後ろで組んでいた手が震えたりしちゃってたんだけれど、たぶん気付かれていないはず。だよね? 気付いてないよね?
……とにかく、それだけであんなに緊張したっていうのに、お昼休みの時間をずっと一緒に過ごすだなんて、耐えられるかな……。
あーでもないこうでもないと自問自答を繰り返したが、ええい、なるようになれ! 女は度胸でしょ! 昔なんてこれが当たり前だったじゃない!
そうして決意を固めている内に予鈴が鳴り響き、鈴ちゃん含めたクラスメイト達はいそいそと自席へ戻っていくのだった。
それから昼休みまでの休憩時間が訪れる度に、私と鈴ちゃんは顔を付き合わせた。その結果、他のクラスメイト達は遠巻きに眺めるだけになっていたけれど、いいのかなこれで? ごめんね皆、今だけだと思うから許してね。
誰が言い出した訳でもないが、まずは同性同士で肩慣らしということで、昼休みの時間までに四人全員が集まることはなかった。その時まで楽しみに取っておこうという暗黙の了解が成されていたのかもしれない。
そして昼休みの時間。
「杏ちゃん、行こ!」
「うん、分かった。あ、場所は学食? 誰かの教室とか?」
「んー、私が聞いてるのは、ここ!」
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