談話8:幼なじみたちと

◆大男と少女


「ちょっとクラノさんてば! 痛いって言ってるじゃないですか!」


 褐色肌で、白に近い金髪のラニが、頭ふたつ分ほど身長差のあるクラノに食ってかかっていた。クラノがラニにちょっかいを出したのだろう。


 また。と、女魔導士ミストは目をやる。が、止めはしない。


 なんやかやあって、ミストを含む幼なじみ三人衆は、魔王を倒すための仲間としてこの奇妙な一行に同行した。知り合ってまだ日は浅いが、このやりとりは毎日目にしている。

 ふたりの元々の仲間である巫女は、穏やかな笑みを浮かべて見ているだけ。

 尾が二股の猫に擬態している妖精竜のコハクは呆れ顔で、やはり見ているだけだ。


 それもそうだろうと、ミストは思う。


 ラニは本気で怒っているが、その割にクラノの側からあまり離れない。

 クラノはクラノで、ラニが怒るのをわかっていながら、あれこれやらかしているフシがある。

 もう少し力を加減してやった方がいいとは思うのだが。


「あれって、もしかしてもしかするー?」


 ミストの幼なじみの少女治癒術士キララは、のんびりと指で示す。


「そうなんじゃない? 違うかもしれないけど」


 なるようになるでしょと、ミストも呆れからため息をついた。




◆噂


 少年剣士スカイは、すっかり酔いが回ったようだ。

 もしや、初めての酒だったのではないか。

 吟遊詩人バーニスがやや心配になっていると、


「なー、バーニス知ってる?」


 若干怪しい呂律で、スカイが尋ねてくる。


「知ってるって、何を?」

「一年くらい前に、この辺を騒がせてた事件のこと。『刈り姫』って噂」

「ああ、その話か」


 バーニスは旅する吟遊詩人だ。物語りながら各地を回る性質上、各地の噂や流行にも明るい。


「俺も、王都ここに近いところで小耳に挟んだくらいなんだけどさー。なんか真っ二つなんだよね。評価っていうか」

「それはそうだろうな。女にとっては救世主の物語、男にとっては背筋の凍るような怪談だから」

「なにそれ」


 スカイは、円卓に頬をつけるという行儀の悪い格好で、瞼が落ちかけた目を細める。

 バーニスはやや思案する。この少年は、なんだかんだ純情だ。

 話し方に気をつければいいと結論づけて、


「スカイ。男として死ぬというのはどういうことだと思う?」


 極力端的に語った内容は、それでもスカイの酔いを吹き飛ばして震え上がらせるには十分なものだった。

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