談話11:竜たちと人間たち



 娘は、娘の膝を枕にして眠ってしまったヒスイの頭を撫でる。


「師匠とカナリヤさんについてはこういう感じです」


 娘は「ふふ」と笑った。

 竜はやや目を細めて、


「他の竜族はどうか知らないが、少なくとも、私と兄者は人間に振り回されているな……」

「どうしてでしょうね」


 娘は相槌を打つ。竜とカナリヤを育てた、カガミの影響が大きいのだろうと思いながら。


「思えば、クロガネやシラユキもそうか。クロガネに至っては、お前に名を尋ねるなど……」

「まあまあ、そのおふた方は若い世代でもあることですし」


 娘はなるべく不自然にならないよう、口を挟む。

 特に、ハガネについて言及されると長いのだ。


「師匠も私も、今となっては人間と言っていいか怪しくありませんか?」


 魔法布を解き、むき出しの腕と顎の鱗を指さして、娘はにっこりと笑う。

 竜は「うむ……」と、呻きに似た肯定を返す。


「だからこそ、ずっと一緒にいられるんですけれどね」

「何か言ったか?」

「いいえ。特に何も」




登場人物・その二(竜と人間たち)


◆カナリヤ

 黄玉おうぎょくの鱗を持った妖精竜。猫の擬態を多用する。

 クラノと行動を共にするまでは気も荒く、態度も言葉遣いも硬かった。

 しかし元々突っ込み体質だったため、わずかな期間で俗世にまみれた(カナリヤ談)。


◆クラノ

 クレナイの叔父兼師匠。自身に向かう魔法や魔力を軽減あるいは無効にする、破魔の体質の持ち主。

 子供のころから身体が丈夫で、かつ神経が図太かった。

 何気なく「秘境」を見つける才もあり、たびたびカナリヤを見つけていた。


◆クロガネ

 紅き竜の子、末の一頭。黒鋼の鱗をもつ大柄な雄竜。名乗りはハガネ。

 生まれてから六十年ほどの若い竜で、人間換算二十歳と少し程度。幼竜のころは、よくシラユキの面倒を見ていた。

 感情の起伏が表に出にくく、遭遇した人間たちなどから恐怖される。

 落ち着いているが、若い竜らしく好奇心はそれなりにある。

 クレナイに名を尋ねるという、若い竜の間で流行っている「求愛」紛いのことをした。


◆シラユキ

 紅き竜の子、末の一頭。真珠光沢のある白い鱗に、白い羽毛の翼を持つ優美な雌竜。名乗りはリッカ。

 生まれてから六十年ほどの若い竜で、人間換算十六歳程度。

 母竜と正反対の性質を持っているため、やや甘やかされて育った。そのため、年齢の割に幼いところがある。

 母竜やクロガネ、カナリヤの関心をクレナイに取られたと思い、対決しかけたが、祖母にあたるカガミに仲裁された。

永遠とわの雪」という、魔力の扱い方を込めた鱗をクレナイに渡した。


◆カガミ

 紅き竜とカナリヤの育ての母で、クロガネやシラユキをはじめ、何頭もの竜を育て上げた肝っ玉母さん。五百年ほど生きている。

 元は霊峰に迷い込んだ人間の子供で、そこに棲まう銀竜「ギン」に育てられた。親としてより、親友としてギンに仲間意識を抱いている。

 両腕に銀色の鱗を持ち、腰に竜の尾を模した飾りを下げている。

 幼いころから銀竜の魔力にさらされていたため、クレナイよりもさらに竜に近い存在である。

 驚異的な身体能力を持ち、大型の魔獣や竜を拳の一撃で沈められる。

 紅き竜とカナリヤの二頭からは、人間に擬態した竜だと思われている。


◆ギン(銀竜)

 霊峰に棲んでいた銀の竜。霧を力の源とする。

 棲家に迷い込んできた幼子に「カガミ」と名付け、育て上げる。

 カガミが呼んだ「ギン」という名前をそのまま名乗りにした。真名は不明。

 数百年ほどカガミと共に何頭かの竜を産み育て上げたあと、狩りに行くと言ったまま戻らなかった。

 紅き竜とカナリヤの実の親。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る