第19話 セーラー服とセクハラ

 次は数学か…数学の尾崎先生なら、この格好でも問題ないか。


 尾崎先生は少し変わった先生で、授業中でもエロい冗談を言うチャラい感じの先生だった。


 この格好でも、あの先生なら怒る事はないだろう、このまま行っちゃおう!


 僕は脱いだ洋服を片付けて、前田に借りたジャージを持って廊下に飛び出した。


 すると、さっき僕の体操服姿を見て驚いていた男子が目の前に立っていた。


 彼は、さっきと同じように僕のセーラー服姿を見て驚いていた。


 どこのクラスの子だろう…休み時間中、ずっと僕が出てくるのを待っていたのかな?


 出待ちってやつだ!本当にアイドルになったみたいw


 僕は更衣室に鍵を掛ける時に、わざとお尻を突き出すように身を屈めた。


 きっと、廊下にいる男子には、僕のお尻が見えている筈だ。


 ファンサービスだよw


 僕は、驚いた表情のまま固まっているファンを廊下に残し教室に入った。


 クラスメイトたちは、今日一番の歓声で僕を迎えてくれた。


 やっぱり、セーラー服は男子の受けが良い!


 僕も男だから彼らの好みはお見通しだ。


「前田君これ、ありがとう!凄く助かった!」


 僕が前田にお礼を言うと、彼は驚いた表情のままジャージを受け取った。


 僕は固まった前田を無視して椅子に座ると、さっきのスカートより遥かに短いスカートは、お尻の下に敷く事は出来ず、ビキニパンツで直に座る感じになった。


 さっきと違って、何も穿いてないみたいだ。


「起立!礼!着席!」


 うわっ!後ろからパンツと言うかお尻全体が丸見えだ!しかも、前屈みになると、胸元から胸の谷間が見えてる!


 数学の授業が始まったが、誰も授業なんて聞いていない。


 宮崎なんて半身になって、後ろ向きで授業を受けてるし。


 まあ、こんな格好の女子なんてアニメの世界にしか存在しないから仕方ないか。


 僕の短すぎるスカートは、太ももやパンツを隠しきれていない状態で、丈の短い上着とスカートの間の素肌は常に見えていて、V字に開いた胸元からはおっぱいの谷間やブラが見えていた。


 どうやっても、デルタゾーンは隠せないや…前から見られると常にパンチラしている状態だ。


 でも、膝は閉じておこう…股を開いて座るのは下品だし可愛くない…それに、膝を閉じていた方が男は興奮するからね!


 楽しい!見られるのって、やっぱり気持ちいい!


 でも、冷静な振りをしなきゃ。


 えっ!先生も僕のパンツを見てる?


 そうだ!間違いない!視線が僕の股間に向いてる!


「じゃあ、この問題は前に出て解いて貰おうか…柏木!前に出て」


 数学の尾崎先生は、ワザとらしく出席簿を見ながら僕を指名してきた。


 今までの数学の授業では、生徒が前に出て問題を解く事なんてなかったのに…。


 仕方ない…僕は皆の注目を集めながら教壇に上った。


 僅か十数センチ高い段に上がっただけなのに、僕の穿いている短過ぎるスカートは、椅子に座っている男子たちに対し、お尻を隠す防御力を失っていた。


 男子たちからは、ビキニパンツからハミ出した、お尻の南半球が丸見えになっている筈だ。


 でも、見られている事に気づいていない振りをしないと…真面目に問題を解く演技をしよう。


 二次関数か…幼稚な問題だ…僕は見た目の女子っぽさに反し理数系は得意だった。


 何で、黒板のこんなに高い位置に式を書いてるの?


 あっ、僕に腕を上げさせて、スカートやセーラー服をずり上げる為か…。


 まあ、いいか…折角だから、先生の思惑に乗ってあげよう。


 僕は悩む振りをして、時間を掛けて問題を解いた。


 皆、僕を見てる…背中を向けていても熱い視線を感じる…。


 えっ、横にいる尾崎先生もしゃがんでニヤニヤしながら僕を見てる!…先生の角度からは、スカートの中や、ずり上がったセーラー服の隙間からブラが見えている筈だ…。


 キモい…!


 露骨過ぎる…先生には男子高校生と違い、恥じらいみたいな物がない…。


 予定変更だ…。


 僕は、悩む振りをやめて、さっさと問題を解いた。


 尾崎先生は、解答を終えて席に戻る僕の腕を掴み、僕を黒板の横に誘導した。


「問題の解説をするから、そこに立ってろ」


 尾崎先生は、そう言って僕の解いた式の解説を始めた。


 何だろう…先生の態度が変だ…命令口調で話し掛けられたのは初めてだ…。


 問題の解説中も、尾崎先生は僕を嘗め回すように見て来たり、僕の立っている位置を変える為に肩や腰を触ってきた。


 こういうのをセクハラって言うんだな…。


「…という事で、生意気にも正解だ…お前、もう戻っていいぞ」


 先生はそう言うと、僕のお尻をポンと触った。


「生意気」「お前」…何だろう、見下されている…。


 でも、この程度の事で騒ぐのもおかしいし…きっと、女性はこんな感じでセクハラをされているんだ…。


 尾崎先生からは、罪悪感のような物は感じられず、平然と授業を再開した。


 こんな格好をしている僕も悪いが、意味もなく体を触られる事は不快な事だった。


 尾崎先生は、普段の授業でも自分が夜のお店に行った時の話をするような人だった。


 男子校では、そんな話は生徒の受けが良く、尾崎先生は生徒から人気があった。


 しかし、先生の言葉の端々には女性を「下」に見ている感じがした…いや「下」と言うより女性を「物」として見ているようだ。


 女性を性処理の道具だと思っているのか?


 僕は女性の格好をした事によって、尾崎先生の中で人格のない「物」にランク付けされたようだ。


 僕は腹が立ったが、何もする事が出来ない…。


 やがて、数学の授業が終わった…。


 結果的に、前に出て問題を解いたのは僕だけだった。


 すると、尾崎先生は僕を呼びつけ腰に手を廻すと

「困った事があったら、相談に乗るよ…2万くらいでw」

と耳元で囁き、僕のお尻を触った。


 何でだろう?泣きそうだ…。


 僕が尾崎先生の手を解いて、自分の席に戻ろうと歩いていると、後ろから先生が男子に話し掛ける声が聞こえた。


「おい、お前ら、あいつともうやったのか?ニューハーフはフェラが上手いらしいぞw」


 僕は席に戻らず、そのまま教室を出て、更衣室に駆け込みセーラー服を脱ぎ捨てた。


 そして、涙を流しながら、体育の授業の前に着ていた制服に着替えた。


 女として生きていくという事は、こういう事なのか?


 尾崎先生は女性や僕みたいなタイプの人間を、セックスの対象としか思っていないようだ…。


「2万くらい」「あいつ」「ニューハーフ」「フェラ」


 僕の心には尾崎先生の放った言葉の一つ一つが突き刺さっていた。


 心の傷からでた血は、涙となって僕から溢れ出した。


 男の格好をしていた時には気付かなかった…尾崎は最低の男だ…そう、最低…最も低い男だ!


 すると、更衣室のドアがノックされた。


「ゆきりん!大丈夫か?」


 クラスメイトたちの声だ。


 僕は涙を拭った。


 そして、笑顔を作って扉を開け

「何が?全然、平気だよ!そんな事より、お昼にしよう!」

僕は、精一杯の元気を振り絞って、そう言った。


 せめて皆には、僕が尾崎に影響を与えられたと思われたくない!


 あんな男に泣かされたと思われたくない!


「そうか…じゃあ、弁当にしようか!俺も腹が減って死にそうなんだ」


 前田は笑顔でそう言ってくれた。


 前田は他人の気持ちの分かる良い奴だ。


 僕は女の魅力という魔法の力を手に入れて調子に乗っていた。


 女として生きて行く事は、こう言う事に耐え続ける事なのかもしれない。


 男のプライドを捨てないと生きていけないのかも…。

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