第11話 伯母、襲来

 僕は男子たちの優しさに感動しながら、いつもよりも早く帰宅した。


 すると、家の駐車場にベンツが停まっていた。


 伯母が来ているようだ。


 玄関を開けると女性の笑い声がリビングから溢れていた。


「よしのり?帰ってきたの?」


 母の声だ。


「ただいま」


 僕は声のするリビングに行くと、そこには伯母と従姉妹が座っていた。


「よし君、久しぶり!あっ、よし君じゃなくて、よっちゃんか!」


 伯母は、そう言うと大声で笑い出した。


 伯母は、母の姉に当たる人で、同じ市内に住む親戚だ。


 伯母の家族は、僕の家族とは正反対で、女ばかり三人の娘がいて、今リビングにいる次女の晴香は、僕と同じ歳だった。


「いらっしゃいませ。ご無沙汰してます」


「まあ~、暫く見ない間に綺麗になって、よし君は昔から親戚で一番の美人だった…あっ、また、よし君って言っちゃた!」


 相変わらず伯母はよく喋る人で、考えるよりも先に口が動くタイプだった。


 どうやら伯母は、僕の為に娘たちのお下がりの洋服を持って来てくれたようで、リビングにはダンボール箱が三つも置かれていた。


「良かったら、着替えてみて!サイズが合うか分からないから!よし君はスタイルが良い…あっ、また、よし君って言っちゃた!」


 もう、よし君でいいよ…。


 すると、さっきからダンボール箱の中を物色していた母が

「これなんか可愛いんじゃない?」

と言って、ワンピースを広げ、僕の体の前に当てた。


 僕は話の展開についていけなかったので、母に小声で

「スネ毛の処理が出来てない…」

と適当な言い訳を耳打ちして、即席のファッションショーを回避する事にした。


 すると伯母は、母に僕が何を言ったかを確認し

「まあ、そうよね…昨日まで男だったんだから仕方ないわね…あっ、丁度良かった!今から一緒にエステに行きましょ!」

と騒ぎ始めた。


 どうやら伯母は、僕の家に寄った後に、娘の晴香をエステに連れて行く予定だったようだ。


「お母さん!私、エステなんて行かないって言ってたでしょ!」


 晴香が初めて口を開いた。


「行かないって!もう予約も入れてるし、あんたも、もう高校生なんだから、少しは身嗜みに気を配りなさい!仲良しのよし君も一緒に行くって言ってるんだから、二人で綺麗になればいいじゃない!」、


 伯母は晴香の反論に三倍の反論で応戦した。


 と言うか、僕は一言もエステに行くとは言っていないし、晴香と仲が良かったのは小学生の頃で、中学生になってからは、ほとんど会話をした事がなかった。


 それと、もう「よし君」は言い直さないんだ…。


 暴走した伯母は手がつけられない…最終的に弟たちが留守番をする事になり、僕と母と晴香は伯母の運転する車に乗せられていた。


 伯母の家は建設会社を経営していて、伯母はその会社の専務兼経理部長だった。


「そうよね…伯母さんにも経験があるわ!その年代の男の子ってそういうものよ!よし君はスポーツブラを持ってないのね」


 伯母は僕の「揺れるおっぱい問題」の相談に乗ってくれた。


「うちの家系は、皆おっぱいが大きいから…そうだ!晴香も大きいのよ!」


「やめてよ!お母さん!」


 ベンツの後部座席に並んで座った晴香は、恥ずかしそうに俯いた。


 すると、伯母は子供たちの存在を忘れたのか、母と学生時代の思い出話を始めた。


 女同士の親子って、恋愛とかセックスの話を子供に聞かれても気にしないんだ…。


 それとも、伯母が特殊なのかな?


 僕は、そんな空気に慣れていなかったので、晴香と小声で会話をする事にした。


「はーちゃん久しぶり、去年のお正月以来だから一年半ぶりかな」


「うん…」


「一年半で、こんな感じになっちゃって驚いたよね」


「うん…でも、ゆきちゃんは昔から綺麗だったし、別に驚かないよ」


 晴香も僕が女になる事を予見していたようだ。


 三姉妹の中で、唯一大人しい性格の晴香は、長女と三女とは馬が合わないようで、小学生の頃は同じ歳だった僕と一緒にいる事が多く、夏休みになると僕の家に毎日のように泊まりに来ていて、一緒にアイドルの振り真似をしたり、お風呂やベッドも常に一緒だった。


 子供の頃の写真を見ると、僕たちはペアルックの洋服を着ていて、今考えると僕の着ていた服は女物だったのかも知れない…。


 そうだ!一緒にAKBの振り真似をしていた時は、お揃いのミニスカートを穿いてた…それに、僕をゆきりんと呼んだのも晴香が最初だった。


 もしかしたら、僕の事を心配して、わざわざ会いに来てくれたのかもしれない…。


「ごめんね、うちのお母さん強引で…」


「そんな事ないよ、丁度、無駄毛の処理をしようと思ってたから」


 やがてベンツは繁華街のテナントビルの地下駐車場に到着し、僕たちは5階にあるエステサロンに連れて行かれた。


 このお店は伯母の行き付けのようで、伯母は店員さんと親しく挨拶をしていて、僕たちは直ぐに病院の診察室のような部屋に案内された。


 この部屋はカウンセリングを受ける部屋だったが、受け答えは全て伯母がしていて、僕の事をニューハーフだと説明していた。


 ニューハーフか…確かに僕を一言で表現する言葉は、それしかないかも…。


 カウンセリングが終わり、僕と晴香は施術室に案内された。


 すると、伯母は車での会話を思い出したのか、僕を呼び寄せると

「体育用のスポーツブラね、サイズはD70だっけ?伯母さんに任せといて!」

と言うと、母を伴い僕と晴香を置き去りにして、お店から出て行った。

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