重なり合う二つのトライアングル

第39話 女の子になって…一週間

 日曜日の朝がやってきた。


 今日ほど、メイクが上手くなりたいと思った日はない。


 もう、三回もメイクを落として、一からメイクをやり直してる。


 やっぱり、メイクも勉強しないとダメだな…。


 僕は従姉妹の理絵に連絡をして、メイクの方法を確認したが中々上手く出来ない。


 結局、僕は母にメイクをしてもらった。


 ありがとう、母上様。


 さあ、何を着て行こう…昨日の晩に考えたコーディネートが、朝見るとダサく感じる。


 女物の洋服はバリエーションが多すぎる…それに、ウィッグを手に入れた僕は無敵になっていて、似合わない洋服がなくなっていた。


 意外かもしれないが、女物の洋服は背の高い方がよく似合った。


 選択肢が多すぎる事が、こんなにも大変だなんて…。


 よし!決めた!


 結局、僕はスモーキーピンクの七分丈のニットに黒がベースの花柄のロングスカートを合わせる事にした。


 ただ、ロングスカートと言っても、僕が穿けばミモレ丈になってしまうが…。


 体に張り付くタイトなニットと、ふわっとしたスカートの組み合わせが可愛い。


 それに、大人っぽいセミロングのウィッグとの相性も良さそうだ。


 特に、薄い生地のニットは、僕の形の良いおっぱいを強調していた。


 Vネックの襟元から胸の膨らみがチラっと見えてる…きっと、田中は喜ぶだろうな。


 あっ、時間がギリギリになってしまった…。


 僕は母に借りたバッグを持って、黒のソックスに7センチヒールのパンプスを履いた。


 うん、完璧だ!


 僕は待ち合わせ場所の駅前広場に到着したが、中田さんも仲川さんもまだ来ていなかった。


 良かった、女の子を待たせちゃダメだからね。


「お姉ちゃん!一人?一緒に遊ばない?」


 えっ、誰?…ナンパ!


「いえ…友達と待ち合わせです…」


「じゃあ、友達と一緒でもいいよ!一緒に遊ぼう!」


 なんだ!こいつ!馴れ馴れしい!それに、上から目線!


「僕、男ですけど、それでも良ければ」


「えっ!……な、何だ?…オカマかよ!紛らわしい格好してんじゃねえよ!」


「いい歳して、ナンパなんかして恥ずかしくないの!」


「何だと!オラー!…痛っ…痛っ…痛っ」


 ナンパ男が、僕が苦労して選んだスモーキーピンクのニットを掴んで来たので、僕は男の腕を掴み関節を決めて地面にひざまずかせた。


「二度と右ひじが曲がらないようにしてやろうか?…それとも、ケツ掘ってやろうか?」


 僕が男に小声で呟くと、男も小声で謝罪して来たので、寛大な僕は男を許してあげた。


 僕の母の実家は合気道の道場もやっていて、子供の頃は道場が遊び場だった事もあり、僕には合気道の心得があった。


 もっとも、孫のなかで一番強いのは従姉妹の晴香で、彼女は今でも合気道をしていて、全国レベルの選手だ。


 因みに、我が家で一番強いのは、師範の資格を持つ母で、次に強いのは、今も道場に通っている三男の大翔だった。


 従姉妹の晴香は大翔の母親的な存在だったが、同時に同じ道場に通う師弟関係でもあった。


 ナンパ男が去って行くと、何故か周りから拍手が起こった。


 しまった…やりすぎた。


 すると、中田さんと仲川さんがやって来て、周りから拍手をされてる僕に手を振った。


 僕が逃げるように、二人に近づくと、仲川さんが

「美花音ちゃん!凄い!カッコイイ!」

と言いながら抱きついてきた。


 恥ずかしい、見られてた…。


 やがて、仲川さんの興奮が収まったので、僕たちは改めて挨拶をした。


 今日の中田さんは、白のニットにピンクのスカートで、顔の可愛さにマッチしたコーディネートをしていた。


 また、仲川さんはオフショルのワンピース姿で、三人の中で一番露出の多い格好をしていた。


 しかし、高校一年の彼女たちには幼い印象が残っていた。


 二人とも可愛い…でも、僕の方が女としての完成度が高く、大人のセクシーな女に見える…負けてない…ダメだ、僕は何を考えているんだ?


 僕は、同性として彼女たちを敵視した自分に驚いた…今までの僕は、女性をそんな目で見た事がないのに…。


「じゃあ、行こうか」


 僕が駅に向かって歩き出すと、仲川さんが僕の右腕に絡みついてきた。


 女同士ってこんな感じなのかな?


 従姉妹の千尋もそうだったけど、やたらと体を密着させてくる…。


 もし、男女でこんな感じで歩いていれば、周りの注目を集める筈だが、すれ違う人たちは、僕たちを見ても表情を変えずにスルーしていた。


 誰も僕の性別が男だとは気づいていないようだ。


 そして、電車で繁華街までやってきた僕たちは、中田と待ち合わせをしているお店に向かったが、仲川さんがお店に行く前にトイレに行きたいと言い出し、デパートに寄り道する事になった。


 駅にもトイレがあったのに…そうか、デパートのトイレの方が綺麗だからか。


「私は、ここで待ってるから」


 僕は、デパートの女子トイレの前で彼女たちと別れようとすると、仲川さんが

「えー、美花音ちゃんも一緒に行こうよ」

と言って、僕の右腕を離してくれなかった。


 僕は性同一性障害と診断されていたので、もし、女子トイレに入って建造物侵入の罪で警察に捕まっても許される状況だった。


 一応、財布の中にコピーした性同一性障害の診断書を入れているけど…。


 僕は、女性しか入る事が許されない、女子トイレに生まれて初めて入った。


 うわっ、混んでる…こんなに並んでるんだ…。


 えっ、なんで小便器があるの?…小さい…子供用かな?…あっ、そうか、子供を連れているお母さんの為の小便器なんだ。


 どこを見たらいいんだ?…個室の中から放尿する音が聞こえる…洗浄音で誤魔化さない人がいるんだ…凄い顔で化粧直しをしてる…あんな顔を彼氏が見たら冷めるだろうな…。


 でも、どうしよう「男が女子トイレに入ってる!」って騒がれたら…。


「どうしたの?体調が悪いの?」


 緊張してトイレの入口で立ち止まっている僕を見て、中田さんが心配してくれた。


「女子トイレに入るの初めてで…」


 僕は小声で中田さんに囁いた。


「そんな事を気にしてたの?大丈夫よ!美花音ちゃんは、女にしか見えないよ」


 中田さんは、微笑みながら僕を励ましてくれた。


 そうかな…?


 僕が周りを見渡すと、確かに僕よりも女らしくない女性が数多くいた。


 と言うか、女子トイレにいる女性の中で僕が一番女らしくみえる…。


 僕は女子トイレにいる女性を無意識の内にランク付けしていた。


 いや!今だけじゃない…電車に乗っている時も、道を歩いている時も、僕は常に周りの女性と自分を比べていて、女としての優劣をつけていた。


 今まで、女性をそんな目で見た事ないのに…。


 他の女性も僕を女としてランク付けしているのかな?


 身長172センチ、バスト85センチ、ウエスト55センチ、ヒップと股下が88センチの僕に勝てる女性は多くないだろう。


 そうだ、僕を見た目だけで男だと判別出来る人はいない筈…緊張しなくてもいいのかも?


 すると、中田さんが僕の手を握って

「一緒に並びましょ」

と言ってくれた。


 えっ、中田さんの方から手を握ってきた!…いいの?…でも、柔らかい手…。


 男に興味がない筈の中田さんが嬉しそうだ…僕の事を同性だと思ってくれているのかな?


 僕は中田さんと一緒にトイレの順番を待つ女性の列に並んだ。


 女子トイレは個室の数が多いせいか、思ったりも早く僕の順番が巡ってきた。


 僕と中田さんは、同時に空いた個室に並んで入る事になった。


 ふーっ…やっと、一人になれた。


 僕は男子禁制の女子トイレに入った事で、かなり緊張していたようで、ため息をつくと体から力が抜けた。


 えっ、隣の個室から中田さんが洋服を脱ぐ衣擦れの音がする…便座に座る音がした…洗浄音に混ざって中田さんの放尿音が聞こえる…当たり前だけど、可愛い子でも普通におしっこをするんだ…意外と大きな音だ…。


 やっぱり、尿道口の構造が男とは違うから女性からは大きな放尿音がするんだ…中田さんの女性器はどんな形状をしているんだろう?


 ダメだ!…エロい事を考えたら…。


 僕は自分のスカートの中に手を入れて、ショーツを膝まで下ろすと、捲ったスカートを体の前で束ねて便器に腰掛けた。


 スカートでおしっこをするのは厄介だな…両手でスカートを抑えておかないと…。


 おちんちんを割れ目から取り出さないと…でも、女子トイレの中でおちんちんを出すのも変だし…挟んだまま出来ないかな?


 僕はペニスを大陰唇に挟んだまま、小便をしてみる事にした。


 あれっ、おしっこが中々出てこない…やっぱり無理なのかな?…あっ、尿道が膨らむ感触が…。


 すると、女の子の膣の位置に移動した僕の亀頭の先がら、チョロチョロと小便が溢れてきた。


 やっぱり、おちんちんを折り曲げているので勢いが弱い…あっ、おしっこが割れ目を伝ってお尻全体に拡散していく。


 僕のお尻は自分の小便でビショビショに濡れてしまった。


 おしっこが、じわじわ漏れる感じだ…これなら音がしないし、洗浄音で誤魔化す必要はなさそうだ…段々とおしっこの勢いが強くなってきた…良かった、これなら後ちょっとで終わりそうだ。


 すると、いきなり小便の勢いが強くなり「シャー!」という女性特有の大きな放尿音を伴って小便が一本の水流になると、勢いよく便器の水たまりを直撃し「ジョボ!ジョボ!ジョボ!」という音が女子トイレ中に響き渡った!


 ヤバい!恥ずかしい!


 僕は座っている位置を変えて、おしっこが水たまりを直撃しないようにした。


「シャー!」


 僕の股間からの放尿音は静かになったが、隣の個室からクスクスと笑う中田さんの声が聞こえた。


 聞かれた!恥ずかしい…。


 そうか…尿道が圧迫されているから、ホースの先を指で潰した時と同様に水流が強くなったんだ。


 でも、何だか嬉しい…僕も普通の女の子と同じ大きな放尿音がするんだ。


 やがて、僕の尿道からの小便が止まったが、僕のお尻は悲惨な状況になっていて、トイレットペーパーで拭かないとショーツが穿けなくなっていた。


 普通の女性も小陰唇の奥に尿道口があるので、おしっこをした後は今の僕と同じ状況になっている筈だ…だから、女性はおしっこの後でもトイレットペーパーを使うのか…。


 僕は生まれて初めてトイレットペーパーでおしっこの後始末をしたが、ショーツを穿くために中腰の姿勢になると、尿道に残っていたおしっこが漏れてきて、綺麗になったお尻がもう一度濡れてしまった。


 複雑な経路になった尿道のせいで、男の時のような小便が出来ないようだ。


 結局、僕は大陰唇の割れ目からペニスを取り出し、綺麗におしっこを拭く事になった。


 でも、大陰唇におちんちんを挟んだ状態でも、おしっこが出来ると分かった事は収穫だ…それに、女の子と同じ放尿音がする事も…。


 僕が個室のドアを開けると、中田さんがニヤニヤしながら立っていた。


「音が聞こえたよ」


「やめてよ…恥ずかしい…」


 照れてる僕を、中田さんは弄って来たが、なんか二人の距離が近づいた気がした。


 そして、田中と待ち合わせたお店の前まで来ると、そこには何故か前田の姿があった。


「何してるの?」


「あっ!久しぶり!」


 昨日会ったばかりだよ…。


「みかりんにお昼を奢る事になったからって、田中に財布要員として呼ばれたんだ」


 なるほど、高一に三人分の食事代は負担が大きかったようだ。


「田中君は?」


「先に中に入ってるよ」


 良かった!輝に会える!


 僕の胸は高鳴った…昨日までは普通の同級生だったのに、妄想の中でセックスをした田中と会える事は少し恥ずかしく、そして嬉しい事だった。


 お店に入ると、奥のテーブルに輝がいた…顔が熱い…。

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