第20話 職員室に呼び出し…
昼休みに教室でお弁当を食べていると担任の高橋先生がやって来た。
「柏木、昼飯を食い終わってからでいいから、職員会議室まで来てくれないか?」
僕は先生に呼び出しを受けた。
何だろう?思い当たる節は…沢山ある…。
恐らく、この制服の事だろう。
「はい…今からでも行けますけど…」
「そうか、じゃあ付いて来てくれ」
僕は食べ掛けのお弁当に蓋をして席を立った。
「俺たちも付いて行こうか?」
前田がそう言ってくれた。
「いいよ、一人で行くから」
僕がそう答えて教室を出ていくと、後ろからクラスメイトたちがゾロゾロと付いてきた。
皆、優しいな。
あっ!しまった!スカートを穿いたまま来ちゃった!
まあ、いいか、今更着替えてもスカートを穿いていた事実は変わらないし。
僕は職員会議室に入った。
中には、教頭先生と生徒指導の渡辺先生、それに会った事のない大人が二人座っていて、テーブルに広げた資料を見ながら話をしていた。
僕が担任の高橋先生と職員会議室に入ると、皆が資料を片付けて一列に座り直し僕だけを向かいの席に座らせた。
すると教頭先生が話し始めた。
「昼休み中に悪いね…実は、君も知っているかも知れないけど、本校は再来年度から男女共学になるんだが…」
噂は本当だったんだ…少子化の時代だから仕方ないね。
「今、新しい制服の選定中で、君の意見を聞きたいと思ってね」
えっ、そんな要件だったの?男子校なのにスカートを穿いている僕に文句を言う為じゃなかったんだ。
僕は学校から「登校する服は自由で良い」と言われていたが、本当に自由で良いんだ。
自由の解釈は難しい…この世界に無制限の自由なんて存在しないからだ。
例えば、僕がバニーガールやメイドの格好で登校したら、学校はアウトと判定するだろう。
取り敢えず、スカートはセーフで、かなり短い丈でも許されるようだ。
「今、候補に挙がっている制服が、これなんだが…」
教頭先生はそう言いながら、僕が会った事のない大人に目配せすると、その大人たちは付箋が貼られた制服のカタログを僕に見せてきた。
カタログには女子の制服の写真が載っていた。
へえ、意外と今風のお洒落な制服だ。
「可愛くて、良いと思いますよ」
僕がそう答えると生徒指導の渡辺先生が
「こっちは、どうかな?」
と言いながら、別の資料を僕に見せて来た。
うん、悪くないかも、オーソドックスだけど清楚な印象だ。
「こっちも良いと思います。清楚な感じがしますね」
すると、生徒指導の渡辺先生は満面の笑みを浮かべ教頭先生を見ながら
「でしょ!若い世代にも、この制服の良さは分かるんですよ!」
と言った。
びっくりした!渡辺先生って笑うんだ!
僕は初めて渡辺先生の笑顔を見た。
普段から厳しい表情をしている生徒指導の渡辺先生は、笑顔を作る為の表情筋が退化しているものだと思っていたのに…。
先生たちは、僕を無視して制服の話を続け
「それでは、この二案に絞るという事で」
と言い、僕の方を見て
「悪いんだけど、柏木君には、制服のモニターをお願いしたいんだけど」
と言ってきた。
どうやら僕は、二種類の制服を実際に着て、その感想を言うモニターに選ばれたようだ。
僕には断る理由がなかったので、先生たちの申し出を受け入れた。
すると、僕が会った事のない大人がメジャーを持って立ち上がり
「採寸をさせて頂いても、よろしいでしょうか?」
と言ってきた。
この人たちは、制服メーカーの人なんだ。
僕はメーカーの人に体のサイズを細かく測られた。
「スタイルが、とてもおよろしいですね!」
生徒にお世辞を言わなくてもいいのに…それに「およろしい」は日本語として合っているのか?
僕は立ったまま、する事がなかったので、間を持たせる為に先生に話し掛けた。
「モニターって具体的に何をすればいいんですか?」
「校内で制服を着て授業を受けて貰うだけだよ。それで、制服の着心地とか気がついた点とかを言って貰えれば助かるかな」
「通学もですか?」
「いや、通学は今まで通りでいいよ。君の気遣いには感謝しているよ」
「本当!目立たないように女子事務員の格好で通学してくれるとは…男子校に一人だけ女子学生の格好で通学されると目立つからね」
先生方は勘違いをしていた…僕にはそんなつもりはなく、単なる気まぐれで登校時の洋服を選んでいただけなのに。
しかし、確かに男子校に一人だけ女子生徒が通学していれば目立つし、変な噂も立つだろう。
「分かりました。制服の感想はレポートにして提出します」
「ありがとう!そうして貰えると助かるよ」
すると僕の採寸をしていた業者さんが話し始めた。
「はい、採寸が終わりました。ありがとうございます」
「サンプルの納品はいつ頃になる?」
「こちらのお嬢様は、大変スタイルがよろしくて、工場でのオーダーメイドになりますので…二週間程、お時間を頂けましたら…」
「二週間!夏服だけならもっと早く出来るだろ?」
「夏服だけでしたら、来週にでも…」
「納品日が決まったら連絡して」
「了解いたしました」
制服メーカーさんは逃げるように職員会議室から出て行った。
「昼休み中に突然呼び出して悪かったね。ありがとう」
「いえ、大丈夫です」
「何か困った事があったら、私か渡辺先生に遠慮なく言いなさい」
教頭先生は笑顔でそう言ってくれた。
当然の事だが、先生の言葉は社交辞令で、実際に困った事があっても相談してはダメなパターンだ、でも…。
「ありがとうございます。クラスメイトも担任の高橋先生も良くしてくれていますので、困った事は…数学の尾崎先生から、お尻を触られたり、二万円でどうだ?って言われたり、ニューハーフはフェラチオが上手いんだろ?と言われたりした事くらいです」
僕は教頭先生に遠慮なく困った事を伝えた。
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