第10話 男の子って馬鹿だけど優しい…
専用の更衣室に戻った僕は、着替える事にした。
僕の体は、そんなにハードな運動をしていないのに汗ばんでいた。
一回ブラを外そう…。
気持ちいい!
やっぱり、ブラジャーって窮屈な物なんだ。
うわっ、おっぱいの下が蒸れてる…。
僕はタオルで汗を拭いて、ブラジャーを付け直した。
うっ、冷たい…汗で濡れたブラが気持ち悪い。
体育の授業がある時は、替えのブラが必要だな…。
僕はブラジャー姿で大きくジャンプしてみた。
本当だ…痛みは感じないけど、胸が揺れてる…。
どうしよう…胸が揺れないブラってあるのかな?
こんな事、誰に相談したらいいんだろう?
取り合えず、女の先輩である母に相談するか…。
僕は脱いだ体操着をバッグに仕舞いながら、そんな事を考えていると、教室の後ろにあるロッカーが目に入った。
あっ、このロッカーって、全部僕専用って事?
ラッキー!一クラス分のロッカーが全部使えるんだ!
僕は48個もある空のロッカーの一つに体操着を仕舞い、ジャケットやネクタイも、この教室のロッカーに仕舞う為に隣の教室に向かった。
自分の教室の前に立った僕に、中にいるクラスメイトたちの声が聞こえてきた。
「お前が余計な事を言わなければ、ずっとゆきりんの揺れるパイオツが見られたのに…」
やっぱり、僕の思惑通り、大島が責められているようだ。
ざまあみろ!
「でもさあ、本当にゆきりんの胸ってデカイよな。確実にEカップはあるよな」
「いや、Fはあるんじゃない?」
「揉みてえ~」
「お前ら分かってないな、ゆきりんの魅力は、あの大きなケツだよ」
「そうそう、あのプルンとしたお尻が良いんだよ!着替えが一緒じゃなくなって、あのお尻が見れなくなるなんて…」
やはり、クラスの男子たちは僕を性の対象として見ているようだ。
「…Fカップはないよ」
「いや、絶対にFはあるって!」
クラスメイトたちは、僕が同じクラスの生徒である事を忘れている様子だった。
「残念ながら、Fカップもないよ」
僕は教室に入りながら彼らの会話に参加した。
教室は静まり返った。
僕は黙って自分のロッカーを開け、ジャケットとネクタイを取り出すと教室から出て行った。
そして、荷物を更衣室代わりの教室のロッカーに仕舞ってからドアの鍵を閉めた。
クラスに戻るのは気まずいな…。
僕が教室に入ると、クラスの空気は固まったままだった。
そして、僕が席に着くと前田が
「ごめんな柏木…皆、悪気があった訳じゃないんだ…」
と申し訳なさそうに話しかけてきた。
「謝らなくていいよ、こっちこそ、こんなキモい体で学校に来て、皆に迷惑掛けてるし…」
「そんな事ないよ!キモくなんてないし!」
「そうだよ!病気だから仕方ないじゃん…あっ、病気っていうか…あの…」
ホローしようとした宮崎が言葉を詰まらせて、教室にまた沈黙が流れた。
僕は自分が腫れ物扱いされるのが嫌だった、
「病気で間違ってないよ。先天性の染色体異常だから…それに、学校を辞めるつもりだし…」
「辞めなくていいよ!」
「でも、男か女か分からない奴がいると迷惑でしょ?」
「柏木は女だよ!女として生きて行くんだろ!」
「そうだけど…でも、まだ完全な女じゃないし…将来的に完全な女になれる訳でもないし…」
「そんな事ないって!正直、そこら辺にいる女よりもずっと女らしいし…」
「そうだよ!俺なんか、入学式の時にゆきりんを見て、何で男子校なのに可愛い女子がいるんだって思ってたくらいなんだから」
「俺も!入学式の時からゆきりんの事を女として見てたよ」
「そうだよ、本物のゆきりんよりも全然可愛いし」
クラスメイトたちは、僕が思っていた以上に、僕に理解を示してくれていた。
確かに、僕が高校に入学した二ヶ月前と今とでは、僕の見た目が大きく変化した訳ではなかった。
入学した時から、クラスメイトたちは僕と自然に接してくれていた。
「ありがとう…」
僕は涙を流していた。
すると三時間目の始業チャイムが鳴った…。
その日は、クラスの皆が僕に優しく接してくれた。
と言うか、今考えてみれば、僕は入学した時から、お姫様扱いを受けていて、重い物を持った記憶がなかった。
クラスメイトたちにとって、僕が女として生きて行く事は、意外な事ではなく当然の事だったようだ。
人に理解される事は嬉しい事だった。
そして、放課後になり、僕はバドミントン部の部室に向かった。
勿論、退部する為だ。
しかし、ここでも僕は退部を思い留まるように説得された。
皆、優しい。
でも、僕の決意は変わらず、結果的に退部する事を受け入れてもらえたが、部員の皆は、いつでも自由に練習に参加してもいいよ、と言ってくれた。
本当に皆優しい。
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