第28話 アクセサリーになった僕

 理絵はドット柄のワンピースを手に持っていた。


 この洋服は、昨日試着して似合わなかったヤツだ。


 僕はメイクに気を付けながら、着ていた部屋着を脱いだ。


「えー、またガードルを穿いてるの?もっと可愛い下着を穿けばいいのに」


 理絵は二日続けてガードルを穿いている僕の下着姿を見て残念そう言った。


 仕方ないよ…僕には股間に余計な物がついているんだから…。


 僕は理絵を無視してワンピースに着替えた。


 可愛い!凄く似合ってる!


 オフショルダーの肩にかかるカールした髪がセクシーだ…ワンピースのフワッとした胸回りのデザインが、おっぱいの形を曖昧にしているが、ゴムの入ったウエスト部分が僕の腰の細さとお尻の大きさを強調していて、ひざ丈のスカートから覗く脚が細く見える。


 でも、ブラの肩紐が見えていて残念な感じだ…。


 もし、この格好をクラスの男子たちが見たら

「ゆきりんのブラ紐が見えてる!」と言って騒ぐ筈だ。


 僕が肩にかかった髪の毛でブラ紐を隠そうとしていると、理絵が話しかけてきた。


「よし君は透明ストラップを持ってないの?」


「何それ?」


「もう!下着に無頓着ね!じゃあ、私のを貸してあげる」


 理絵は、そう言うと、着ていたオフショルダーのカットソーを脱ぎ、何故かブラも外し始めた!


 何してるの!おっぱいが丸見えだよ!凄い!揺れてる!理絵のも大きい!


 理絵の乳房は、晴香ほどではないが、巨乳に分類される大きさだ。


 僕とアンダーが同じくらいで、おっぱいは一回り大きいからE70くらいあるかも。


 でも、晴香と比較すと乳首は小ぶりで形や大きさは僕に似ていた。


 姉妹でもおっぱいの形は違うんだ。


 すると、理恵は自分のブラから透明な肩紐を外し

「よし君もブラを外して」

と言ってきた。


 えっ!僕も脱ぐの?


 て言うか、僕におっぱいを見られても恥ずかしくないんだ…。


「もう!気を付けの姿勢になって!」


 僕は理恵の気迫に負けて腕を下すと、理恵は僕のワンピースを肩からずり下げてブラジャーを露出させた。


 そして、僕のブラから肩紐を外し、自分が外したブラの肩紐を装着した。


 へえー、ブラの肩紐って交換出来るんだ。


 理絵は肩紐を外したブラを装着した。


 変わった形のブラだな…カップの下の部分が広くなってる。


「あっ、これ? ストラップレスブラっていうの、知らなかった?」


 理絵は、彼女のブラを不思議そうに見ている僕に、自分のブラジャーの説明をしてくれた。


 やっぱり、僕の事を男だと思っていないんだ…。


「オフショルの服を着る時は便利よ!ストラップなしでもズレ難いし」


 理絵はカットソーを着ると、僕のワンピースも直してくれた。


 なるほど、透明な肩紐なら見えても気にならない。


 僕はブラジャーの隠された機能に驚いていると、理絵と千尋に拉致されて、リビングに連行された。


「叔母ちゃん!見て!よし君、凄く綺麗よ!」


 理絵は自分の作品を母に披露した。


「まあ!可愛い!凄く似合ってる!」


 母は僕を見て、今まで見た事のない笑顔でそう言った。


「本当に綺麗!モデルさんみたい!」


 いつの間にかリビングに移動していた晴香も僕のワンピース姿を見て喜んでいた。


 晴香は小学五年になる僕の一番下の弟の大翔の相手をしてくれていたようだ。


 僕と晴香は小学生の頃、産まれたばかりの大翔を使ってリアルおままごとをしていたので、晴香にとって大翔は自分の子供のような存在だった。


「大翔のお姉ちゃん奇麗だね!」


 晴香は大翔を見てそう言うと、大翔も

「うん!お姉ちゃん、綺麗!」

と言ってくれた。


 僕の事を「お姉ちゃん」って呼んでくれた…なんか、嬉しいかも…。


 しかし、もう一人の弟の悠斗は、同じリビングにいるのに僕を見ていなかった。


 僕に興味がないようだ。


「ねえ!せっかくだから、この格好で外に行きましょ!」


「えっ、でも靴がないし…」


 勿論、僕は複数の靴を所有していたが、このワンピースに似合う靴を持っていないという意味だ…女性が靴やバッグを必要以上に欲しがる理由が理解出来た。


「私ので良かったら貸してあげるよ!」


 晴香がそう言うと、僕はまた理絵と千尋に拉致されて玄関に連行された。


 新品のサンダルだ…派手な理絵や千尋と違い、晴香は洋服を多く持っていなかったので、このサンダルは昨日買った物なのだろう…。


 サンダルの裏には金文字で「L」と表記されていた。


 女物のサイズって分かりにくい…靴なのに「L」って…いったい何センチなんだろう?…でも、僕にぴったりだ!「L」って24.5センチの事なのか。


「外に行くなら、ついでに靴とか買ってくれば」


 嬉しそうな表情の母は、僕に財布の入ったバッグを渡しながら、そう言ってくれた。


「でも、もう、いっぱい買ってもらったし…」


「そんな事、気にしなくても良いわよ!じゃあ、理絵ちゃん、お願いね」


 母は笑顔で僕たちを見送った。


 風で長い髪がなびいた…スカートが揺れる…肩に直接、日光が当たった…。


 新鮮な感覚だ。


 僕の右腕に千尋が絡みついてきた…嬉しそうにしてる。


 僕と一緒に歩くのが嬉しいのかな?


「さっきの男の人、ゆき姉の事を見てたよ!ほら!あの人も振り返って見てるし!」


 千尋が楽しそうだ…確かにすれ違う人たちの視線を感じる…やっぱり、見られるのって嬉しいかも。


 僕たちは駅ビルに到着した。


 うわっ、皆が僕を見てる!


 見られているのは僕なのに、何故か従姉妹たちが嬉しそうだ。


 まるで、ブランド物のバッグや高価なアクセサリーを見せびらかしている感じだ…。


 そうか!従姉妹たちは僕を見せびらかしているんだ!


 僕の容姿は、ブランド物のバッグや高価なアクセサリーと同様に、周りの視線を集める効果があった。


 綺麗な女性と、そうではない女性の二人組を、街で見かける事がよくある。


 男の僕は、綺麗な女性のメリットについては想像出来たが、そうではない女性の気持ちが分からなかった。


 一緒にいると見劣りするだけなのに…。


 そうではない女性も、綺麗な女性と一緒に歩く事が楽しいんだ…僕は従姉妹たちの自慢の持ち物アクセサリーなんだな。


 毎日のように来る駅ビルだったが、改めて女の立場で見ると、中に入っているテナントのほとんどが女性向けの店舗ばかりだと気づいた。


 そして、靴屋さんに到着した。


 今履いている晴香から借りたサンダルも可愛いが、流石にサンダルで学校に行くのはマズいだろう…。


 僕は何を買えば良いか分からなかったが、理絵がリードしてくれたお陰で、ヒールのあるパンプスを買う事になった。


 靴って意外と安いんだな…。


 僕の女物の財布には二万円も余分に入っていた。


 十分に予算の範囲内だ。


 理絵によれば、今年の流行は、太いヒールとの事だ…でも、ヒールと言っても低いヒールなので、僕の身長が180センチを超える事はなさそうだ。


 しかし、今年の流行という事は、来年はこの靴が履けないという事か…。


 女の子は色々と大変だな。


 サイズは、やっぱり「L」が丁度いい…Lサイズって24.0~24.5センチの事なんだ。


 僕は、7センチヒールのパンプスを買う事にした。


 安いから、ついでに今履いているサンダルと似てる靴も買おう。


 僕が新しく買ったサンダルに履き替えて通路を歩いていると、突然、頭が痛み出した。


 うっ!頭が痛い…ウィッグのネットが額に食い込んでる…。


「理絵ちゃん、ネットが額に食い込んで痛いんだけど…」


 僕は理絵に状況を説明した。


 何だこれ?まるで拷問だ!


 すると理絵は、通りがかったアクセサリーショップの奥に僕を連れて行ってくれた。


 駅ビルの通路から死角になっている椅子に座った僕は、ウィッグとネットを外され激痛から解放された。


 アクセサリーショップの鏡に映った僕の額には、ウィッグネットの痕が赤い線になって残っていた。


「うわっ!痛そう…ごめんね…よし君の髪の長さだったら、ウィッグネットはいらなかったかも…」


 確かにそうだ!長い髪の毛をまとめる為のウィッグネットは、ベリーショートの髪型の僕には必要のない物だった。


 気付くのが遅いよ…。


 すると、理絵はアクセサリーショップでヘアピンを買ってくれて、僕の前髪を上げた状態で固定してくれた。


 僕は直にウィッグを被り直した。


 これなら大丈夫だ。


「ねえ!ゆき姉!ついでにウィッグも買ったら」


 千尋が、嬉しそうにビニールのケースに入ったウィッグを持って来た。


 えっ、カツラって高いんじゃないの?


 あれっ、思っていたよりも安い!


「いらっしゃいませ!ご試着されますか?」


「はい!します!」


 店員さんの問いかけに、千尋が元気に返事をした。


 それからの僕は、また1/1スケールの着せ替え人形になってしまった。


「学校にも着けて行くなら、これが良いんじゃない」


 理絵はショートボブのウィッグを勧めてくれた。


 確かに可愛いかも…カールしたロングのウィッグも良いけど、こっちの方が高校生らしい…でも…。


「前髪が長すぎるよ」


 僕は、しっかりと被ると完全に目が隠れる前髪が気になった。


 前髪の長さを調整する為に、ウィッグを後ろにずらすと脱げそうになる。


「このお店ってカットも出来ます?」


 理絵が勝手に店員さんに問いかけていた。


「はい!こちらにどうぞ」


 えっ、カットしたら買わないと…まあ良いか…安い物だし…。


 僕は新しいウィッグを購入する事になり、ついでにウィッグの前髪をカスタムされる事になった。


 店員さんが持っているのは美容師さんが使う本格的なハサミだ…それに、慣れた手付きでカットしていく…ウィッグの前髪を切るのは当たり前の事なのかな?


 そう言えば、試着したウィッグは全て前髪が長い状態だった…ウィッグの前髪が長いのは、ズボンの裾が長いのと同様にデフォルトなのかもしれない。


 眉の下の長さに揃えられたウィッグの前髪は、思っていた以上に僕に似合っていた。


 それに、安いウィッグなのにテカりがなく自然な感じで、頭頂部につむじまであった。


 言われなければウィッグだと気づかれないだろう。

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