第27話 フルメイク…覚醒した魅力

 僕が家に帰ると、車庫にはベンツが停まっていなかった。


 伯母は来ていないようだ。


「おかえり、もう少ししたら理絵ちゃんたちが来るみたいよ」


「えっ、何しに来るのかな?…あっ、学校から書類を預かってたんだ」


 僕は教頭先生から預かった家庭環境調査票を母に渡し通称名の話をした。


「そう…でも、せっかくだから自分で考えてみたら」


「えっ、自分で自分の名前を決めるの?変だよ」


「そんな事ないわよ、母さんより、よしのりの方が、そういうの得意でしょ」


 自分で自分の名前を考えるのは恥ずかしいな…。


 すると、玄関の呼び鈴が鳴った。


 僕が玄関のドアを開くと、従姉妹の三姉妹が揃って立っていた。


 晴香の雰囲気が変わっている…あっ、髪の毛を切ったのか…可愛くなってる、と言うか垢抜けた感じだ。


「こんにちは!もう帰ってたんだ!じゃあ早くしよう!」


 長女の理絵は、そう言うと僕の背中を押して、二階の僕の部屋に侵入してきた。


「へ~、シンプルな部屋ね!準備するから、よし君は顔を洗ってきて!」


 伯母の遺伝子を色濃く受け継いでる理絵は僕にそう言って、ドレッサーの前に座ると、持って来たバッグから化粧品を取り出した。


 僕は取り合えず部屋着を持って自分の部屋を出ると、晴香が後をついて来た。


「ごめんね!お姉ちゃんも強引で…」


「あはは…あっ、はーちゃん、髪切ったんだね!可愛いよ!凄く似合ってる!」


「ありがとう!私もゆきちゃんを見習って女らしくしようと思って」


 僕が女らしい?…確かに僕は女らしいかも知れないけど…男を見習って女らしくするって変だよ。


 僕が洗面所に入ると何故か晴香も一緒に入ってきた。


 今日は個室に誰かと一緒に入る日なのかな?


 僕と晴香はお互いの裸を見せ合った仲なので、僕は彼女を気にせず洋服を脱いだ。


「やっぱり、ゆきちゃん奇麗!」


 僕の下着姿を見た晴香は、そう言いながら体を触ってきた。


 しかし、彼女の触り方は女同士の触り方だったので、狭い洗面所にはエロい空気は流れなかった。


 僕は頭にパイル地のヘアバンドを付けて、エステで教えて貰った洗顔方法で顔を洗い、化粧水と乳液を塗って、パイル地のTシャツとショートパンツに着替えた。


「可愛い!ゆきちゃんって脚が長くて、本当にスタイルがいいね!」


「そんな事ないよ」


 僕は一応謙遜した。


 僕が部屋に戻ると、ドレッサーの上にはおびただしい量の化粧品が並べられていて、僕のベッドの上には自分の部屋のように寛いでいる三女の千尋の姿があった。


 千尋ちゃん…パンツが丸見えだよ。


「ゆき姉!可愛い!」


 千尋は僕を見ると興奮してそう言った。


 僕の事を「ゆき姉」って呼ぶんだ…そんな事より、ちゃんと座りなさい、パンツが丸見えだよ…。


 すると、弟の悠斗がトレイに乗せたジュースとお菓子を持って僕の部屋に入ってきた。


「これ」


 悠斗は面倒くさそうに、僕にトレイを渡すと部屋から出て行った。


 照れてるのかな?


 あれっ、千尋が股を閉じて座ってる。


「今の悠斗の顔見た?千尋の事をエロい目で見てたし…キモい」


 千尋は、同じ年の悠斗の事は異性として意識しているようだ。


 僕は部屋のローテーブルの上にトレイを置き、頭に巻いたヘアバンドを取ると、理絵は

「あっ、代わりにこのウィッグネットを付けて」

と言って、僕に筒状の黒いネットを渡してきた。


 用途はヘアバンドと一緒か…髪の毛をまとめる為の物なんだ。


 理絵は嬉しそうに僕のドレッサーの上に、化粧品やメイク道具を並べていた。


 やっぱり、僕にメイクをして遊ぶつもりだ…昨日の続きをする気なんだ。


「あの~」


「あっ、大丈夫だよ!電話で叔母ちゃんから一時間だけって言われてるから!だから、早く座って!」


 なるほど、一時間だけ我慢すればいいのか…。


 僕がドレッサーの前に座らされると、理絵は液体の入った小さなケースを渡してきた。


 何だ?これ…コンタクトレンズ?…模様が印刷されてる、あっ、カラコンってやつか。


 僕は視力が良かったので、コンタクトレンズを装着した経験かなかった。


 僕が戸惑っていると、理絵は別のカラコンを自分に装着してお手本を見せてくれた。


 目の中に異物を入れるのは怖いな…女性は本能的に体に物を入れる事が平気なのかな?


 僕は涙を流しながら、何とか片目にカラコンを装着する事に成功した。


「えー!待って!何これ!凄いよ、よし君!」


 理絵は僕の目を見て驚いていた。


 僕は鏡で自分の目を確認したが、特に変化はなかった…。


「凄い!このカラコンって14.5ミリなのに、よし君の黒目の方が大きい!」


 カラーコンタクトレンズの本来の用途は、瞳の色を変える事にあったが、ほとんどの女性は、瞳を大きく見せる為に使用していた。


 しかし、僕の瞳は普通の女性よりも大きいようで、14.5ミリのカラコンでは僕の瞳を覆う事は出来なかった。


「よし君には15ミリとか、もっと大きなカラコンが必要ね」


 これよりも大きなカラコンを目に入れるのは無理だよ…。


 僕は苦労して装着したカラコンを外す事になったが、コンタクトレンズは、装着するよりも外す方が簡単だったので助かった。


「でも、よし君って凄い!二重の幅も広くて綺麗だし、まつ毛も長くてフサフサだよ…これならアイプチもツケマもいらないね!ずるい!」


 理絵は僕にキスが出来そうな距離に顔を近づけ、僕の目をマジマジと見てきた。


 すると、ベッドでスマホを弄っていた千尋が僕の足元に座って、僕の顔を覗き込み

「本当!綺麗な目!羨ましい!」と言ってきた。


「そんな事ないよ、ちいちゃんの方が可愛いよ」


「えー!本当?」


 千尋は、分かり易く照れて、ショートパンツから剥き出しになっている僕の太ももに絡みついてきた。


 僕の脚に千尋の乳房が密着した。


 まだ中二なのに、ボリュームがある…やっぱり、この子も女なんだ…。


 でも、猫みたいで可愛いな。


 僕は太ももの上に乗っている千尋の頭を撫でてあげた。


 嫌がらない…僕の事を女だと認識しているんだ。


「じゃあ、これを顔に塗って!」


 理絵は僕に肌色の液体の入った小瓶を渡した。


 モイスチュアライジング・ファンデーション・プライマー?…何だこれ?…プライマーという事は下地って事か…要するにガンプラの塗装下地に使うサーフェーサーと同じ役目をする物かな。


 僕は無駄な抵抗をしないで、理絵の命令に素直に従い顔にプライマーを塗った。


 塗っても変化がないけど、いいのかな?


 すると理絵は、ステンレス製の痛そうな器具を持つと、僕のまつ毛をその器具で挟んできた。


「凄い!ビューラーをしただけなのに、目が大きくなった!」


 鏡に映った僕のまつ毛は上向きにカールされ、目がぱっちりとした印象に変わっていたが、当然、眼球の大きさ自体に変化はなかった。


 目元がぱっちりする事を「目が大きくなる」と表現するようだ。


 その後も理絵は、僕の顔に色んな化粧品を塗って来たが、その都度、驚きの声を上げた。


 こんなに、ガッツリとメイクされるのは初めてだ…でも、なんか変…化粧される度に顔の印象が男っぽくなる…いや、男と言うよりも宝塚の男役みたいだ。


 これなら、スッピンの方が女らしいかも…。


 あれっ、晴香がいない。


 僕がメイクをされている間に、晴香は僕の部屋から出て行ったようだ。


「うん!じゃあ、ウィッグをするから、ここを手で押えててね」


 理絵は僕の頭にカツラを被せた。


 何だ!これ!凄い!全くの別人だ!


 鏡にはカールした暗いブラウンの髪色をした美人が映っていた。


「ちょっと待って!凄い!よし君、奇麗!」


 興奮した理絵と千尋は、僕に抱きつきながら騒ぎ始めた。


 確かに凄い!髪型が変わっただけで、見た目の印象がガラッと変わった…。


 濃いと思ったメイクも、長い髪だと違和感がない…二十五歳くらいのセクシーな女性に見える。


 女性にとって髪型は重要なファクターだと痛感した。


 髪は女の命…確かにその通りだ…僕の女らしさが10倍(当社比)くらい上がっていた。


 この顔に、このスタイル…完璧だ…。


 髪が長くなった僕は無敵になっていた。


 世界中の女が束になってかかって来ても勝てそうだ!


 僕は世界一の美人かも!


「…ねえ!聞いてる?早く着替えてよ!」


 あっ!自分に見とれていて理絵の声が聞こえていなかった…。

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