第22話 僕以外の…

 僕は大人の女性たちに見送られ、帰宅する事にした。


 そして、上履きを履き替える為に下駄箱を開けると、中には三通の封筒が入っていた。


 何だこれ?


 僕は封筒の一つを開いてみると、それはラブレターだった!


 えっ!何だこれ!


 すると、大人の女性たちが僕の周りに集まり、僕を冷かしてきた。


 彼女たちの中には、生徒からラブレターを貰った経験のある人もいて、僕の貰った封筒と便せんは購買部で売られている物だと教えてくれた。


 なるほど、それで三通とも同じ封筒なんだ…それにしても、ラブレターって…。


 僕の学校は、スマホや携帯電話の持ち込みが禁止されていた。


 中学時代の僕は、メールやLINEで告白された事があったが、ラブレターは初めてだった…勿論、男から告白される事も初めてだったが…。


 僕はカバンに封筒を入れ、テンションの高い女性たちと別れて校舎を出た。


 すると、今度は一人の生徒に呼び止められた。


「柏木さんだよね…ちょっといいかな?」


 えっ!直に告白!何だこれ?


 僕は彼を無視して逃げようと思ったが、告白ではない可能性もあったので、彼の後をついて行った。


「突然ごめんね…あっ…私は二年二組の小嶋と言います…何て言うか…柏木さんって凄いね…感動したよ…私には、そんな勇気ないから…」


 自転車置き場の裏に連れて来られた僕に、小嶋先輩は意味不明な話をした。


 えっ?何を言ってるの?


「私も柏木さんと同じなの…性同一性障害なんだ…」


 え~!何それ!


 小嶋先輩は、聞いてもいないのに自分の生い立ちを話し始めた。


 僕は突然の告白に動転して、何も言葉が出なかったが、小嶋先輩の話を要約すると、先輩は生まれた時から心が女性で、その事は誰にも告白していないとの事だった。


 結構ヘビーな告白だ…こんな場所でする話じゃない…皆がジロジロ見てる。


「分かりました…取り合えず、人のいない場所で話をしませんか?」


 親にも話した事のない重大な話を聞くには、学校の自転車置き場はオープン過ぎる。


 小嶋先輩は、僕の提案を聴き入れてくれたが、並んで公道を歩いていても、話をやめる事はなかった。


 なるほど、この感じは伯母と一緒だ…先輩の心が女性というのは間違いないだろう。


 先輩の話は、伯母と同様に話題があっちこっちに飛び散っていて、僕の洋服を見て「可愛い」と言ったり、子供の頃の辛かった体験を話したり、取り留めのない物だった。


 それにしても、僕に人生を左右するような相談をされても困る…。


 本当に困った…こんな事なら、普通の告白の方がマシだ。


 駅前のファストフード店に場所を移しても、小嶋先輩の話は止む事はなかった。


 やがて、小嶋先輩は僕が羨ましいと言い出し、僕みたいに性転換手術を受けたいと言い出した。


 驚いた事に、学校では僕に対する間違った噂が流れていて、僕が学校を一週間休んでいる間に、タイで性転換手術を受けた事になっていた!


 僕は即座に噂を否定し、男性器は押し潰しているだけだと説明した。


 すると、小嶋先輩はあっさりと僕の話を信じてくれて

「そうだよね。成人にならないと性別適合手術は受けられないし、変だと思ってたんだ…柏木さんってガードルでタックしてるんだ!私はテープとか接着剤を使ってるよ!」

と股間の成形方法についての説明を始めた。


 男の股間を女性化させる事を「タック」って言うんだ…。


 すると先輩は突発的に泣きそうな表情になり、話題を変え重い悩み相談をしてきた。


 情緒不安定過ぎるよ…先輩…。


 僕は何もアドバイスをする事が出来なかったが、先輩は一頻り喋ると落ち着いてくれた。


 要するに小嶋先輩は、普段から隠れて女装をしていて、学校にも女子の制服を着て通いたいようだ。


 また、普段から女として生活したいが、女物の洋服を多く持っていない事にも悩んでいた。


 家族に内緒で女装をしている先輩は、女物の洋服を洗濯出来ないと言った。


 その気持ちは分かる…僕も胸の膨らみを押し潰すサポーターを洗濯出来なかったので、使い捨てにしていた。


 先輩の取り留めのない話が終わり、僕が喋れる状況になった。


 僕に言えるアドバイスは「まず、親に理解してもらう事が先決」という事だけだった。


 親に理解して貰えれば、少なくとも私服を女物にする事は可能だ。


 小嶋先輩は、僕の当たり前のアドバイスを落胆の表情で受け止めた。


 可哀そうだが、それ以外に解決策は見当たらない。


 僕は落ち込んだ先輩を励ます為に、お下がりの洋服をあげると約束すると、彼は尋常じゃない程に喜んだ。


 お店にいる皆が、こっちを見てる…恥ずかしいから落ち着いてくれよ…。


 先輩は、女性になりたいのか?女性の服を着たいだけなのか?僕には分からなくなった。


 僕は、明日の放課後に先輩と会う約束をして彼と別れた。


 何の解決策もアドバイス出来なかったが、先輩は嬉しそうに帰って行った。


 あれが、本当の性同一性障害なのか?


 僕は性同一性障害ではないのかもしれない…。


 でも、お医者さんは僕が性同一性障害だと言ってるし…心の性別って難しい…。

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