第4話 部屋とYシャツと僕
僕は通学時の制服を自由にして良い事になっていたが、目立つ事が嫌だったので、今まで通り男物の制服を着るつもりでいた。
しかし、家に帰ってブラジャーの上から制服のワイシャツを着てみると、立体的に膨らんだ胸に、男物のワイシャツが適していない事が分かった。
それは、ワイシャツの胸のボタンが弾けそうになっていて、ボタンとボタンの隙間からブラジャーが見えていたからだ。
しかも、少し動いただけでボタンが弾け、ブラジャーが剥き出しになってしまう…まるでエッチなコントだ…こんなエロいシャツ、学校に着て行けない…。
僕の胸は、ブラジャーをしても容積的な変化はない筈だったが、胸の脂肪を寄せ集めた事で、トップバストの胸囲が大きくなっていた。
それと、僕のD70のカップには、パッドと呼ばれる上げ底が装着されていて、その事も乳房のボリュームを大きくした要因の一つだった。
男だった僕は、レモンのような形状をしたパッドは、胸の小さな女性が見栄を張る為に装着する物だと思っていた。
しかし、実際は違っていた。
ブラジャーのサイズ展開は段階的で、ぴったりとサイズが合う事は稀なのだそうだ。
実は、僕の乳房もCとDの間の大きさだった。
僕の乳房は、C70だとカップからはみ出し、D70だとカップと胸の間に僅かに隙間が出来ていた。
女性下着業界では、前者を「はみブラ」と呼び、後者を「うきブラ」と呼ぶそうで、どちらの状態も、ブラジャー本来の性能を十分に発揮出来ないそうだ。
しかし、カップの内側にあるポケットにパッドを挿入したD70のブラジャーは、僕の乳房にジャストフィットした。
ブラのパッドはアジャスターの役目をしていた。
僕は、勘違いをしていた…胸が小さい全ての女性に謝罪したい気持ちだ…。
貧乳の皆さん、ごめんなさい…。
そして、僕は父のワイシャツを借りて試着してみる事にした。
胸周りには余裕があるけど、全体的にブカブカだ…まるで彼氏の部屋にお泊りに来た女の子だ…エロい…。
ブラジャーをした僕と、男物のワイシャツとの組み合わせはエロくなるようだ…。
僕は仕方なく、女物のブラウスを買う事にした。
僕はもう一度、母と買い物に出かけ、先ほど行った女性下着専門店に立ち寄った。
それは、胸の膨らみにフィットしたブラジャーと違い、セットで買った女物のショーツに問題があったからで「普通」の大きさのペニスがある僕には、女性用のショーツは小さく、勃起した時に上からはみ出してしまう危険性があったからだ。
と言うか、女物のショーツと、もっこりとした股間の組み合わせは、変態にしか見えない…。
それに股上の浅いショーツは、直ぐに脱げそうで、著しく穿き心地の悪い物だった。
僕はウエストのゴムが骨盤の上まである下着しか穿いた経験がなく、ローライズの下着は常に脱ぎ掛けのような感覚だった。
女性は、こんなに脱げやすい下着をつけてるのか…不安じゃないのかな?
僕は男の下着と形状が似ているガードルを試す事にした。
先ほど、試着する事が出来なかったショーツと違い、ガードルは下着の上からなら試着が可能だった。
逆三角形をしたショーツと違い、四角い形をしたガードルは、普通のショーツよりも大きく穿いていて安心感があった。
それに、伸縮性の高いガードルは男性器を押し潰す効果もあり、僕の股間は本物の女の子のようにスッキリとした形状になった。
でも、重ね穿きした下着がゴワゴワして気持ち悪い…。
僕は母にガードルの違和感を伝えると、横にいた店員さんが
「そのガードルは1枚穿きも出来ますので、ゴワゴワした感じはなくなりますよ」
と教えてくれた。
ただ、色や柄のバリエーションが豊富なショーツと違い、ガードルは何故かベージュや黒の単色で、おばさんの下着のイメージが強い物だった。
それは、ガードル本来の目的が、崩れた体形を補正する為なので、そういったイメージがついたのだろう。
まあ、他人に見せる物ではないので、僕はオーソドックスなベージュのガードルを買う事にした。
お会計を済ませたガードルを、試着室で1枚穿きしてみると、確かにゴワゴワとした感覚はなくなり、穿き心地はかなり良く感じた。
鏡に映った僕の下着姿は本物の女の子に見えた…でも、何だろう…顔の男らしさが目立ってる…。
まるで、出来の悪い合成写真を見ているようだ…グラビアの写真に自分の顔を貼り付けたみたい…。
そして、女性下着専門店を出た僕は、スーツを売っている洋服屋さんに入った。
女物のブラウスは、男物と違いボタンが逆に付いていて着用時に違和感があったが、胸周りに余裕があり、ボタンが弾ける心配はなさそうだった。
また、ウエストを絞ったデザインになっていたので、彼氏の部屋にお泊りに来た彼女感もなかった。
僕は試着室で自分の姿を確認した。
何だ?…これ…女か男か分からない…。
上半身だけが女らしくなった僕の姿には違和感しかなかった。
男物を着た僕は、女らしさが違和感として目立ち、逆に女物を着ると男らしさが強調されていた。
僕は女として生活していく自信がなくなった。
今からでも、男性ホルモンの治療に変更しようかな…。
僕の元気のない様子に気付いた母は、僕に学校の制服とよく似た柄の女物のパンツスーツを勧めてくれた。
男物との違いがないように見えた女物のスラックスだったが、女性はチャックを下ろして立小便をする必要がないので、短いチャックが上の方にしかついていなかった。
それに、女物のスラックスは、お尻の大きな僕の体形にぴったりで、僕の見た目は一気に女らしくなった。
すると今度は顔の男らしさが目立ち始めた。
可愛くない…と言うかブスだ…やっぱり、女になるのをやめよう…。
僕は落ち込み…そして、何故か涙が溢れてきた。
「やっぱり、胸を切除して男性ホルモンの治療を受けるよ…」
「何で?」
「だって…可愛くないし…」
僕は今まで女性を見た目で判断していた事を反省した。
誰だって可愛くなりたい筈なのに…僕は最低だ…。
落ち込んだ僕を、母は美容室に連れて行った。
僕は、女にしては長くない髪を切られる事に抵抗があった。
これから女として生活するなら髪は長い方が良いのに…。
しかし美容師さんは、僕を可愛く出来ると自信満々に言い切った。
僕は、鏡の中で変化していく自分にドキドキした。
ベリーショートにカットされた僕の顔は、運動部の元気な女の子に見えた。
凄い!さすがプロだ!髪の毛が短くなったのに女らしくなった!
と言うか女の子にしか見えない!
美容師さんは自分の作品を眺め
「凄く可愛い!この髪型は美人にしか似合わないのよ!」
と言って、自分のカット技術を謙遜し、僕の顔の素材の良さを褒めてくれた。
すると、自慢の「娘」を褒められた母は気分を良くして、美容師さんに僕をメイクするようにお願いした。
美容師さんは僕をメイクしながら、何度も「可愛い!」と言ってくれた。
僕はその都度嬉しくなった。
笑顔の方が女らしく見えるんだ!
それに、笑顔の方が可愛い!
女の子は「可愛い」と言われると必ず否定する…。
それは、どんな可愛い子でも、自分自身が可愛く見えないからだと思っていた…。
違う!可愛い子は自分でも自分の事を可愛いと感じている!間違いない!
今、僕は自分の顔を見て、可愛いと感じている。
勿論、美容師さんから「可愛い」と言われても否定するが…それは謙遜だ。
心の中では自分が可愛いと思っている。
僕は可愛い女の子が自分の可愛さを否定する気持ちが分かった。
それに、女として可愛くなる事は、とても嬉しい事だった。
可愛くなる事は、第一志望の高校に合格した時よりも嬉しく感じた。
鏡の中で僕の表情は明るく変わっていった。
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