第17話 乳頭が硬くなってる…

 生物の授業が終わった。


 やはり、女子にはクッションが必需品だと痛感した。


 木製の椅子に直に座った僕は、最初は冷たい椅子が気持ち良く感じていたが、徐々に椅子と接する太ももの裏が汗ばんで来て、授業の最後の方は椅子が自分の汗でヌルヌルになっていた。


 夏場でもクッションは必要…と言うか、夏場こそクッションが必要だ。


 僕は前田に荷物を持ってもらい、自分の教室に急いだ。


 火曜日の時間割はタイトだった。


 特に、この二時間目と三時間目の間は、移動教室からの体育だったので、ほとんど余裕がない。


 男の時でさえ、余裕がないのに着替えに時間が掛かる女子には厳しい物だった。


 僕は急いで特別教室の校舎を出ると、渡り廊下は多くの生徒で溢れていた。


 避難訓練でもしてるのか?


 渡り廊下に集まった生徒たちは、僕を見ると歓声を上げた。


 えっ、僕を見に来たの?


 きっと、前の休み時間に僕を見た生徒が噂をバラまいたに違いない。


 さっき集まっていたは、同じ学年の生徒が主だったが、今は上級生もいて全校生徒が集合しているように思えた。


 皆、笑顔で僕を見ている。


 緊張する…でも、アイドルになった気分だ。


 あっ、こんな事をしている時間はなかった…急がないと。


 僕が渡り廊下に差し掛かると、風が僕のスカートを煽ってきた。


 あっ!忘れてた…ここは「風の谷」だった!


 夏服の薄い生地のプリーツスカートは、風で簡単に捲れ上がった。


「おー!黒だ!」


「フー!サービスいいね!」


 僕を見た男子たちから一斉に歓声が上がった。


 僕は自分の記憶力のなさに絶望しながら、男子たちの歓声の中を逃げるように走り抜け、自分専用の更衣室に駆け込んだ。


 僕は閉めたドアにもたれ掛かって呼吸を整え、内側から鍵を掛けた。


 何人の…いや、何百人の男子にパンツを見られたのだろう…。


 顔が熱い…でも、ガードルで股間を平らにしておいて良かった。


 僕は自分のスカートを捲って、自分の股間を確認した。


 僕の下半身は、何段ものフリルで装飾された黒のペチコートパンツで覆われていて、男の下半身には見えない状態だった。


 良かった…もっこりした股間を見られなくて…本当に良かった。


 皆、僕を見て嬉しそうだったな…。


 恥ずかしいけど、気持ちいい…自分の女としての魅力を認められたみたいだ。


「エロかったな!ゆきりん!」


「黒いパンツが丸見えだったよ!」


「見ろよ!あいつ、トイレに入って行くよw」


「分かり易いな!早速、ゆきりんをオカズにしてシコるつもりだぜw」


 廊下から男子たちの声が聞こえた。


 えっ!僕をオナニーのオカズにするの!?


 何それ!


 誰かが、僕とセックスをする妄想でオナニーをしてる…?


 僕は足が震え、顔と体が更に熱くなった。


 僕とセックスがしたいの?


 そうか…女になるって事は、男とセックスをするという事だ…。


 僕が成人したら受ける予定の性別適合手術…俗に言う性転換手術は、僕の男性器を切除するだけではなく、男を受け入れる為の膣も作られる予定だ…。


 勿論、現代医学では子宮を作る事は出来ないので、僕が妊娠をする事はないが…。


 僕の膣は、男を悦ばせる為だけの器官だ…そう、男とセックスをする目的の為だけに作られる…。


 僕は脳が痺れるような感覚がした。


 えっ、僕が男に抱かれるの?…キスされたり…おっぱいを揉まれたり…男の勃起したペニスを挿入されたり…。


 興奮した男が僕の体内に射精する…。


 その時、僕のお腹の奥が疼くような感覚がした。


 えっ、子宮が疼いたの…?


 僕は、男にはある筈のない子宮が疼く錯覚を起こしていた。


 何を考えているんだ!ダメだ!冷静になろう!


 僕は熱くなった体を冷ます為にも、着ていた制服を脱ぎガードルだけの格好になった。


 この格好で廊下に出たらどうなるのかな…。


 あれっ?乳頭が硬くなってる?


 僕は恐る恐る、自分の乳首を触ってみた。


 やっぱり痛くない…コリコリしてる…うんっ!…あっ!…き…気持ちいい…勝手に体が痙攣する…。


 僕は両手で左右の乳首を触った。


 何だ!この感じ…頭が痺れる…あんっ…男の時の乳首の感覚と全然違う…背中に電気が走った…うんっ…はっ…んんっ…体が仰け反る…立っていられない…。


 んんっ…あんっ…あんっ…。


 僕は自分の胸を揉みながら崩れるように教室の床にへたり込んだ。


 あっ…あんっ…んんっ…あんっ…あんっ…んんっ…。


「うんっ!…あっ!…ダメ!…」


 僕の体の奥で何かが弾けた!


 しまった!声が出た!廊下にいる男子に聞かれたかも!


 僕は冷静さを取り戻し、体の動きを止めて耳を澄ました。


 リアクションがない…良かった…喘ぎ声を聞かれていなかった…。


 ダメだ!こんな事をしている場合じゃなかった…早く着替えないと。


 冷静になった僕はバッグから、昨日買って貰ったスポーツブラを取り出した。


 スポーツブラは普通のブラと違い、下着というよりも水着に近い物だった。


 そう、競泳用水着の上半分を切り取ったようなデザインで、素材も水着とよく似ていた。


 普通のブラとの違いは、背中のホックや肩紐の長さを調節する金具がなく、一体型になっている事だ。


 また、サイズ表記も異なり、このブラのタグには「M・CD」と表記されていた。


 恐らく、MサイズでカップがC~Dの大きさという意味だろう。


 本当に揺れないのかな?


 僕はシャツを着るように、頭からスポーツブラを被ってみた。


 ブラに顔のメイクが付かないように気をつけないと…。


 スポーツブラって、普通のブラと違って、おっぱいを全体的に押し潰す感じなんだ…男の時に使っていたサポーターに近いかも。


 硬くて薄いパッドが入ってる…なるほど、乳首の突起が浮き出ないようになってるんだ。


 僕はジャンプしてみた。


 凄い!全く揺れない!


 でも、胸が少し苦しいかも…。


 結局、胸の揺れを抑えるには、おっぱいを押し潰すしかないのか…。


 それにしても、下着感が全然ない…このまま外を歩けそう。


 あっ、そうだ、陸上部のユニホームを穿いてみよう!


 僕はガードルの上からビキニパンツを穿いてみた。


 やっぱり、これは陸上の短距離用のユニホームだ、ぴったりと体に張り付く。


 うん、水着のビキニみたい…と言うか、オリンピックの陸上選手に近いかな…カッコいいかも!


 すると三時間目の始業チャイムが鳴った。


 ヤバい!


 僕は、取り合えずスポーツブラの上からTシャツを着て廊下に飛び出した。

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