第13話 涙のキス

 僕にとって初めてのエステだ。


 僕は頭にタオルを巻かれ、洗面台の前に連れて来られると、正しい洗顔方法をレクチャーされながら顔を洗う事になった。


 えっ、スネ毛を脱毛するだけなのに…。


 その後、施術台に仰向けに寝かされると、顔担当と体担当の二人が僕の施術を行う事になった。


 僕の顔や足には、色んな液体が塗られ、プロの指使いで気持のいいマッサージをされた。


 スネ毛の脱毛もされている筈だったが、足元で器械の音がするだけで全く痛みがなく、時折、冷たい器具を足に押し付けられるだけだった。


 僕は一日中緊張していたせいで疲れていて、マッサージの気持ちよさで、いつしか眠っていた。


 しかし、僕は突然の胸の痛みで目を覚ました。


 痛い!


 僕が自分の体を確認すると、僕はガウンを脱がされ紙パンツ一枚で仰向けに寝かされていて、エステティシャンの人にテカテカと光った胸を揉まれていた。


 えっ!どういう状況なの?


「あっ、痛かったですか?少し我慢して下さいね…今、リンパマッサージをしていますから…」


 リンパマッサージ?


 スネ毛の脱毛だけじゃないの?


 僕は自分の体を確認した。


 あっ、スネ毛がなくなって綺麗になってる…。


 て言うか、ほぼ全裸だ!それに紙パンツがもっこりしていて、アソコの形が丸出しになってる!


 僕は複数の女性に裸を見られていたが、状況から考えて随分前から裸を見られていたので、今更恥ずかしがるのも変だと思えた。


 そして、隣の晴香を見ると、彼女はまだ脱毛の施術中だった。


 僕の脱毛の施術と違う方法だ…体にハチミツみたいな液体を塗られてる。


 晴香は僕よりも毛深かいから大変そうだ。


 あれっ…胸を揉まれても痛くなくなってきた…。


 僕の胸が痛かったのは、リンパのせいだったのかな?


 やがてリンパマッサージが終わると、僕はうつ伏せになるように指示された。


 うつ伏せは少し苦手だ…胸が圧迫される…僕よりも胸が大きい晴香は、いつもどんな姿勢で寝ているのかな?


 僕は施術台に開いた穴に顔をはめ、うつ伏せになると、また眠ってしまった。


 次に僕が起こされた時は施術が終わった後だった。


 あれ、仰向けに寝ている…いつ寝返りをうったのだろう?…寝ぼけていて、覚えてない…。


「随分、ぐっすり寝てたね」


 僕が声がする方を向くと、ガウン姿の晴香が施術台に座って微笑んでいた。


「エステの人も、ゆきちゃんの体が綺麗だって褒めてたよ」


「あっ、ごめん…待たせちゃった?」


「全然。私って毛が濃いから、今脱毛が終わった所。私もアロママッサージとかを受けたかったな。じゃあ着替えて帰ろうか」


 晴香は、そう言うと着ていたガウンを脱いで全裸になった。


「凄い!はーちゃん!お肌がスベスベだよ!」


 何故か紙パンツを穿いていない晴香の肌は、施術前にあったムダ毛や赤い斑点が消えていた。


「ありがとう。でも、ゆきちゃんの方がもっと綺麗になってるよ」


 えっ、確かにスネ毛はなくなった筈だけど…。


 僕がガウンを脱いでみると、僕も紙パンツを穿いていない状態で、肌は皮膚を一枚剥いだかように綺麗になっていた。


 何これ!まるで赤ちゃんみたい!凄い!肌がツルツルしてる!あれ…乳首を触っても痛くない…。


「凄い!ゆきちゃん綺麗…」


 晴香はそう言って、床に立つと彼女の全身が露になり、彼女の陰毛がなくなっている事が分かった。


 施術前は、紙パンツがゴワゴワの陰毛で盛り上がっていたのに…。


「はーちゃん!全部なくしちゃったの?」


「なんか、ゆきちゃんのを見てたら私もツルツルにしたくなって…変?」


「全然変じゃないよ!凄く綺麗!」


「嬉しい!ねえ、ゆきちゃん…昔みたいにキスしてくれる?」


「うん…いいよ」


 僕たちは全裸でキスをした。


「私、ゆきちゃんの事が本当に大好きだったの…でも、今日からは女同士の友達だね」


 晴香は泣いていた。


 僕は晴香が僕に恋をしている事を知っていた。


 でも、従姉妹同士という事で、小学校の高学年になるとお互いに距離を置くようになっていた。


 晴香は今でも僕の事を想っていてくれたようだ。


 そして、僕が女になる事を知って、ケジメを付ける為にやって来たのだろう。


「うん!はーちゃんとは親友だよ!一生仲良くしようね!」


「うん…」


 晴香は涙を流し続けた…僕は晴香の唇に、もう一度自分の唇を重ねた。


 僕と晴香との最後のキスは涙の味がした。

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