閑話休題:バステト様のQ&A
王都へと向かう飛行船。
その中の、手狭な一人用のベッド付き客間。
夜の空を漂う船の中で、トントンと金属とガラスで出来た板を叩く少女が一人。
はいどうも、汐 早百合です。
無事にループを抜けた352回目の1日目。
バステト様に、今回の事と今後の事を聞きました。
以下はまだ電池の残ってるタブレットに、ざっと纏めた質疑応答になります。
結末に納得もしているし、出した答えにも納得はしているけど、色々ありすぎてまだちょっと混乱気味。
なのでこの暇な移動時間を使って、諸々再確認をしているわけです。
Q:結局ループの原因と、脱出できた切欠は?
A:原因は早百合が再生能力を持ったアンジェに「乙女の血」を定期的に与え続けた事が1つ。
そのせいで世界巻き戻すレベルの能力に進化し、彼女の死を鍵に世界がループしていた。
財布を捜しに行った際も、知らない所で必ずアンジェはシャーリーに殺されていた。
脱出できたのは、アンジェと知り合わない道を選んだから、彼女が早百合の血を得る事もなくなった。
お風呂場の蝶は要するに「そういう事」を指し示していた。
Q:シャーリーなんであんな状態になっていたの?
A:元々シャーリーはアンジェが好きだったのに、そこに早百合という別の女が来て彼女をかっさらったから。
要するにヤンデレさんが本領発揮しただけ。
たぶん早百合以外の人がアンジェと付き合っても、世界はループしないがヤンデレるのは同じ。
Q:ジャービス兄弟を救えたのはなぜ?
A:そもそも戦うという選択肢が間違いなので、早百合自身が直接戦わずに罠にかけて気絶させたから。
直接戦って気絶を狙おうとしたら、必ずジャビスもジャックも死ぬ。
Q:クリア後に鉄仮面さんは制服をみて早百合に気が付いたけど、ループ中は知ってた?
A:ループ中も「メガネをかけた日本人女性」である事には気が付いていたのでチュートリアルしてくれていた。
称号の噂で異世界人なのが確定したけど、その辺りはあまり関係のない只のいい人。
Q:ループ中の武器ってどういう流れでカトリーヌさんの手に渡ったの?
A:あの武器は、ジャービス兄弟が生きようが死のうがどう足掻いても必ず鉄仮面の所に流れる様に収束してた。
武器を放置しても、それを遺体と一緒に回収した憲兵が彼の元へ届ける。
彼元へ届けられた武器は、手入れされて、形見として必ずカトリーヌさんに届けられていた。
鉄仮面の優しさゆえにあの襲撃者という悲劇は起こっていたとも言える。
Q:二ヶ月を352回も繰り返した早百合は、精神的にはもう60近いババァなのでは?
A:ゴッドなパワーで不要な記憶の消去及び再整をして、体感を1年程度まで弄ってくれた。
残っているのは1週目と最後の数週の記憶くらいで、間の300回強はもう覚えていない。
神様としても本来5回くらいでクリアするだろうと思っていたので、不測の事態へのお詫びと謝礼。
Q:テト様は今後も早百合と旅をするの?
A:バステト様から早百合のサポート権、アドバイザーとして今後も派遣される。
詳細は後述するけど、テト様に与えられた新能力は今後の早百合にも大事なもの。
Q:今回のループで早百合は何かを得たの?
A:この世界の基本と、マトバという相棒。そして自分がまだ異世界において「外野」なのだという理解。
その答えを得る代わりに、アンジェという初めて出来た恋人が「自分を知らない未来」を選ぶ事になった。
因果修正の為に折れない心と、食いしばって前に進む強さを見定めるのが試験の内容。
一応神様的には、無自覚でもループを引き起こした事への罰は、これで受けたという事になってる。
Q:地球で早百合の因果を捻じ曲げたのは誰?
A:この世界の人間という事以外、全く分かっていない。
恐らくその人物にとって「早百合」が未来で邪魔なのではないかと思う。
神様も必至にそいつを探してるけど見つからないって事は、早百合の「左目」みたいなのを相手が持ってる可能性大。
Q:一番最初のアンジェを救うのが仕事というのは嘘?
A:本当。ループにならなくてもアンジェを救っておかないと後々大きな問題が発生する。
早百合的にではなくこの世界的に。彼女は後の歴史にとって結構大事な人。
Q:鉄仮面もとい的場さんって今何歳?
A:20歳の頃に地球から来たので、大体50歳くらいの結構いい年したオッサン。
Q:今回出会った人たちの今後は?
A:幸せにくらしましたとさ。
もしかしたら再会する人もいるかもしれない。
Q:早百合って人見知りにしては結構ちゃんと会話してましたよね?
A:異世界に来たテンションやら、初の人殺しの葛藤やら、初めての彼女やらで浮き足立ってた。
記憶を整理した弊害で、以前の様に見ず知らずの人との会話はやはり苦手な子に少し戻っている。
ただ、基本的に鬱屈した学生生活から他人の目を気にしての事でもあったので、地球に居た頃よりはマシ。
Q:小姫って今どうしてるの?
A:それは神でも答えられない。
概ね、あの町で起こった事の疑問やら結末はこんな感じ。
今の私の実感としては、それほどの回数を繰り返した事が夢の様だが、選んで進むの決めたのだから文句はいうまい。
窓の外には、日本では見たことの無い綺麗な夜空とお月様。
雲よりも高い場所に居るからか、夜中なのに随分明るく感じる。
『―――この世界には、因果を歪められた人が何人も存在している』
バステト様に言われたその言葉を思い出す。
その人達の因果を正して救い、私の因果を捻じ曲げた人物にたどり着く事。
それが私の今後の目的であり神様から与えられた仕事である。
私にしか見えない蝶を探し、そして恐らくまた、時を巡る戦いがはじまる。
『―――それを為した時、お前は元の因果へと還る事が出きるだろう』
小姫が隣に居るあの世界、あの因果へと還れる。
ならば私は、全霊を持ってこの世界を歩いていけるだろう。
勉強でも何でもそうだが、目的が明確であれば人は前に進みやすい。
勿論この世界での百合生活を諦めたわけではないが、別に目的が二つあって悪い事はない。
まぁ・・・またアンジェの時みたいな事態にならない様、気をつけては行動するけどね。
正直ちょっと、うん、初彼女に暴走してたと思うので。
自重するという言葉をちゃんと私は覚えましたよ。
「―――うにやむ・・・マタタビの宝物庫じゃ・・・―――」
広さにして2畳あればいい方の、手狭な個室。
「マタタビの宝物庫・・・妙な所で猫っぽいなぁ・・・」
そこのベッドでテト様はお腹を出して既に夢の中。
ど真ん中で堂々と寝てるけど、私の寝るスペースも考慮して欲しい。
『―――神様を信じすぎるな』
ふと脳裏に、鉄仮面・・・的場さんの言葉が過ぎる。
多分まだバステト様は、テト様にも教えていない事を隠しているだろう。
彼の言葉は、それくらいの警戒心を常に持って生きろ、という事だ。
先達である彼だからこそ言える、恐らく真理に近いアドバイス。
「(夢を見ている様な世界だからこそ、努々忘れるな・・・って事かな)」
真ん中で爆睡するテト様をそっと端に寄せ、窓のカーテンを閉じて私もベッドへ潜り込む。
目を閉じると、心地よい浮遊感の中で意識が夢の中へと溶けて行った。
夜空に浮かぶ飛行船は、ただ静かに西へ西へと進んで行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます