その少女、異界より来たる 09
この世界に来て、丁度2ヶ月が経過した。
日々忙しさに追われて暮らしていると、2ヶ月なんてあっと言う間。
夏休みが凄く早く終ってしまう様に感じるのと似ている。
ハンターになる事を決めたはいいものの、ド素人の私では仕事など出来ない。
その為、最初の1ヶ月はほぼ毎日が修行の日々みたいなものだった。
30日強に及ぶスパルタン鉄仮面X先生のご指導により、私は半月ほど前、ついにハンターデビューを果たし、今ではちゃんと自分でお金を稼いでいる。
本当にあの人のチュートリアルが無ければ今頃どうなっていた事か。
優秀な先生に最初に出会えて私は幸せ者ですよ。
デビュー戦では緊張でまともに動けず死に掛けましたけどね。
それはもう、盛大に恥を晒してきましたとも。
ですが最初に大恥をかいたので、もう怖い物なんてないのです。
たった2ヶ月で、主に私のメンタル方面が一番鍛えられた気がします。
ん? アンジェと私?
イチャイチャしてますよ?
今もガッチリ腕を組んで歩いておりますが何か?
私が異世界人という事は既に街の多くの人に知られており、今ではそれを気にする人もほとんど居ない。
順調に私がこの世界、ひいてはこの町の住人として認められてきたんだなぁと、少し感慨深い物がある。
まぁうん。
アンジェと「そういう仲」なのも公然の事実だから、そっちの方が大きいかもしれない。
領主の一人娘を口説き落とした異世界人。
ネームバリューだけなら相当な物です。
素敵な恋人に最初に出会えて私は幸せ者ですよ。
落とされたの私なんだけどね。
「本当にこの世界、同姓同士の恋愛が普通なんだなぁ・・・・・・」
「私にしてみれば、それを禁止している世界の方が不思議ですわ」
「禁止っていうよりも、良しとする人と、そうでない人が常に噛み合っていない感じかな」
LGBTについては2000年以降、多くの理解が得られていっているとは思う。
でも今だに差別的な対象として見られる事も少なくは無い。
日本などは相互認識と理解が遅れている国の一つだろう。
ジェンダーな事情に関して、あの国はまだまだ途上国だと思う。
だから私も自分の恋心を隠していた。
それを堂々と自分の愛だと言える今の生活は、凄く、幸せだと思う。
だがここは異世界。
日本にはない幸せがある分、日本には無い恐怖とか脅威もある。
職業がモンスターと戦うっていう怖い仕事じゃなければもっと幸せだと思うの!
確かにお給料いいけどさ! マジで怖いんだって!
冒険とか超憧れるわー(笑)って言ってるそこのお主。
一度「身長3メートル超えのゴリラ」と拳銃一つで戦ってみてから言って?
巨大なゴリラに巨大なウ●コ投げられる恐怖を味わってから言え!
「もしも早百合の世界に行ける事があれば行ってみたいですわね」
「あの感じだと、ちょっとだけ里帰りってのも難しそうだけどね・・・・・・」
アンジェにだけはある程度、私がどうやってこの世界に来たかを話しておいた。
恋人に隠し事はあまりしないでおこうという、この世界で決めた私の新ルールだ。
なるべく他言しないでね? 二人だけの秘密ね? というのを添えて。
ただ、最初に記憶喪失設定で来ているので「あの日」の後に「思い出したー!」という流れで話す事にしたのだ。
ほらさ。記憶喪失って強烈なショックで思い出すっていうじゃないですか。
強烈なショック、ありましたから。
それはもう、今でも鮮明に反芻できるくらいの強烈な思い出ですから。
理由はともかくとして、少なくとも彼女には私が何者でどうしたいのかを伝えてある。
「(まぁこの身体に関してだけは、全部が全部話したとは言えないけど)」
異世界にやってきて、私の身体にはいくつか明確な変化が起こっていた。
エッチな意味じゃなくてね。
エッチな意味もあるけど。
まず最初に気が付いたのは視力。
むしろこれに気が付いた辺りから「絶対におかしい」と感じるようになった。
この世界に来た当初は、まだまだ内心混乱もしていたのだろう。
アンジェと出会ったあの森、あの最初の草原で目覚めた時も私はメガネを身に着けてはいた。
ただ、そこにハメられていたレンズが屈折のない只のガラス板だと気が付いたのは、鉄仮面先生の所で射撃練習をしている時だった。
曇ったメガネを拭こうと取り外した時、裸眼にも関わらず視界が全く変わっていなかった事に。
こんな半端な細工するなら、いっそ最初からメガネだけ外して異世界に送り込めよと思ったものです。
それ以前のお風呂や就寝時にも気が付く機会はあったのだが、ナチュラルにメガネを装備する事に慣れすぎて気がつけなかった。
次に分かったのは、基礎体力が向上していた事だ。
こちらも先生によってランニングをさせられていた時に違和感を覚えた。
体育の成績など下から数えた方が早い私が、10キロもの長距離を息切れしながらも走りきれたのである。
転生してくる前なら間違いなく1キロ時点で私は死んでいた。
それくらい体力に自信の無い身体だったのですよ。
ただそれでも、ハンターとして初心者及第点といった程度の体力な辺りがさすが私。
こればかりは地道に鍛えていくしかない。
背中の傷が一瞬で治癒したのも原因は判明した。
これは間違いなく貰った能力の影響・・・・・・天使の潤いの効果だ。
・人知を超えた細胞の集合体。新陳代謝などあって無い様な物。
・いつでもキメ細やかで艶々のお肌とキューティクルを維持。
この二文を思い返してみると、少し怖い要素が含まれている事が分かる。
人知を超えた細胞の塊で、代謝などあって無い様な物。
それはつまり、人が新陳代謝だと感じる事が出来ない速度で細胞が「活性化」してるのではないか?
いつでもキメ細やかで艶々のお肌とキューティクルを維持する。
それはつまり、どんな肉体的な損傷に陥っても能力を適応した状態を「維持」または「復元」するのではないか?
最後の一文の「適応年齢を基準とするため、早めの処方が効果的」とはつまり、その状態が復元のデフォルトになるよう設定されるという意味ではないのだろうか。
試しにナイフで自分の手の甲辺りを、凄く痛かったけどバッサリやってみた。
本当に凄く痛かったんだけど、案の定私の想像通り、手の甲の傷は文字通り「瞬く間」に元の状態へ修復されたのだ。
生傷が目の前で、早送りの逆再生をされている様な治り方なのがちょっとグロかったけど、でもこれでハッキリした。
たぶん私、少々の怪我では死にません。
むしろ結構な怪我でも、たぶん死にません。
これは凄い事である。もう事実上の不死身である。
当初は「うひゃー! 本物のチートだ! やったー!」と小躍りしたくらい喜んだ。
喜んでいたのだが。
「(まさか「あらゆる怪我全てを能力適応時に戻す」とは思わないわよね)」
んー、まぁ、その、ほら。
私は2ヶ月に、こうね? アンジェとね、恋仲になったわけじゃないですか。
当然肉体関係を持った間柄で、そういう行為に及んで、まぁつまり「乙女」ではなくなる所まで盛り上ったわけですよ。
女の子同士でも、それを「捧げる」っていうのはある種、神聖な考えなワケですよ。
・・・・・・それが、後日元に戻っていたみたいなんですよね。
もしかしたら翌日には元に戻っていたのかも。
まさか「それ」まで再生されるとは思わなかった。
二回目の時に「あれ!? なんか覚えのある痛み!?」と思った時に初めて気が付き、三回目で「間違いないな」と確信を得たわけです。
こうなるとアンジェとニャンニャンする度に私はそれを繰り返す事になるわけです。
流石に、毎度毎度初めての痛みを体験して喜ぶおマゾ様な体質ではございませんので、アンジェには耐性の高さを理由にして、そういう身体であるとは話しておいた。
話しておいたのに隙あらば責めてくる辺り、やっぱこの子はS寄りなんだなって実感してしまう。
油断してたら鞭や蝋燭や三角の木馬とか登場しそうだから、彼女には改めて釘をさしておかねば。
このままだと何れ遠くない内に、私の脳が「痛い=キモチイイ」という回路を生み出してしまいそうで怖い。
ほぼ不死身のマゾとか、救い様のない生き物になる気はありません。
能力に関しては、あの説明文で決めざるを得なかったから、私の想像とは違う効果がまだまだある気がする。
なるべく調べたり実験できる物は早めに詳細を確認しよう。
いざと言う時に想定外の機能によって、余計なピンチに陥ったりしたら最悪だ。
ホント天使には、鉄仮面先生のチュートリアルさを見習って欲しい。
メガネのレンズを只のガラスに差し替えるとかそんな事が出来るなら、せめてこの能力と世界の取り扱い説明書くらい付属してくれたらよかったのに・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます