その少女、異界より来たる 04
中学に上がった頃、教室で本ばかり読んでいる人見知りボッチガールだった私は、クラスのカースト最下位に居たのだろう。
そんな私を、ある女子グループはイジメのターゲットに選んだ。
上履きを隠されたり、体育の後で下着が無くなっていたりなどは序の口。
段々とエスカレートしたイジメ―――彼女たちの暴力行為は、やがて私の肉体に対する実害を与え始めた。
何をやっても無視して本を読み続けていた私が、相当気に食わなかったのだろう。
ある日の放課後。
人気の無くなった校舎の女子トイレに連れ込まれ、数人がかりに押さえつけられ、私は髪の毛を切られた。
それはもうバッサリと。腰まであったロングヘアーは耳が隠れるかどうかの長さにまで工作用の鋏で雑に切り落とされたのだ。
髪は女の命。なんてカッコいい事をキューティクルなど気にした事のない私が言うつもりはない。
それでも、流石の私もそろそろ暴力には暴力で反撃をすべきかと思いはじめ「・・・・・・鞄の中にカッターナイフがあったな」とヤバい事を考えた時だった。
「あんたら、何してんのさ」
女子トイレの入り口で、夕日を背に受け腕を組み、仁王立ちでそう言う小姫の姿があった。
「あーし、マジそういうの笑えないんだけど?」
突然登場した彼女に驚き固まっていた女子グループを無視して、小姫はツカツカと私の元へと歩み寄り、そっと頬に手を添える。
「大丈夫? 同じクラスの汐さんだよね?・・・・・・って髪!? マジありえねー!!」
その後。女子グループを相手に大立ち回りをする小姫だったが、騒ぎを聞きつけた守衛さんによってその場は一度納まった。
私が髪を切られた事実や、小姫の証言もあって女子グループ連中が何らかの責任を負うかとも思ったが、どうやら親のコネでもみ消したらしい。
ただ、彼女たちはそれ以降学校に来ることは無く、全員が1ヶ月も経った頃には急遽転校していった。
「あーし別に何もしてないから」
あの日以来、私の友人となってくれた小姫が、何も聞いていないのにそんな事を言って来た。
つまり彼女が何か、私に見えない所で事を起こしたのだろうとは想像がつく。
その一言を自分から言わなければ考えもしなかったのに。
でもそれは彼女なりに、私に丸ごと隠しておくのが嫌だと思ったからこその発言だったのかもしれない。
優しくて、そして変なところで臆病なのだ。
「そういう事にしておく」
深くは聞かないし、聞かなくてもいい。
彼女が裏でなにをやっていたとしても、それは私の為にしてくれた事であり、それを攻める理由など何処にもない。
ただ、この日。
私が彼女に恋愛感情を抱いたのは、間違いなくこの日だった。
******
「懐かしい夢をみたなぁ・・・・・・」
小姫との出会いと、恋をした時の記憶。
今でもこんなに鮮明に思い出せるのは、まさに恋の為せる業なのだろう。
人間思い出や記憶は美化されがちだが、彼女とのこの記憶だけは変化しない。
大切だから、変化する事を私の脳が拒んだのだと思う。
彼女の事を思い出したせいか、すこし身体がムズムズしてきた。
これは一度スッキリとキモチを落ち着ける必要があるなと、再びベッドの中に潜り込んで臨戦態勢に突入しとうとしたその時。
コンコン。と部屋をノックする音。
「ひゃい!」
今まさに夢の中へ快感スペクタクルしようとしていた私は、思わず声が上ずってしまう。
落ち着け私。まだセーフ。まだ最中には至っていない。
いそいそと乱れた衣服を直し、あたかも今起きたかの様に呼吸を整えてベッドから身を起こす。
「どうぞ」
そう返事を返すと、ゆっくりとドアが開かれる。
数秒の間を空けて銀髪の美女、アンジェリカが姿を見せた。
「おはようございます早百合。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「おはようアンジェ。大丈夫、丁度さっき起きた所だから」
「ふふ。と言っても、もうお昼前ですわよ」
なんと。私はそんなにも眠りこけていたのか。
ベッドから下りて彼女の元へと行くと、両手に何やらたたまれた布を抱えているのがわかる。
「それは?」
「早百合の着替えですわ。屋敷のなるべく体格の近い者に合わせた服をもってきましたので、今日はコレを着ていただければ」
わざわざ私のために着替えまで用意してくれたのか。
何か本当に申し訳ない。
「ありがとう、着替えたら何処にいけばいいのかな?」
「では玄関前でお待ちしております、仕度が整ったらそちらへ」
「わかった。ありがとう」
着替えを受け取り、用件を伝え終わったアンジェリカは、軽く一礼して部屋を出て行く。
その何気ない仕草にも、お嬢様として徹底的に教育された育ちのよさが滲み出ている。
私には絶対に無理だ。あんな堅苦しい生活してたら肩こりで死んでしまう。
「まずは最初の第一歩。この街の事を知らないとね」
借りた服に袖を通しながら、今日から始まる新生活に私の心はワクワクしていた。
******
「まずは何処に行くの?」
「そうですね。その武器を最初に換金いたしませんか? 買出しの際に持っていても荷物になってしまうだけですし」
「わかった。じゃあ案内よろしくね」
ところで。随分と私がフランクに接している事に気が付いただろうか。
それは昨晩の事。
お屋敷の団欒室でアンジェリカ達と今後の事や、ある程度この世界の予備知識を教授してもらっていた時。
突然アンジェリカが「一つお願いがあるのですが」と私に押し迫ってきた。
おっとこれはまさかのフラグ回収。
一人目のメインヒロインはアンジェリカで決定か?と思ったのだが、残念ながらそうではなかった。
いや、まだ彼女が攻略対象から外れたとは断言できないが、少なくとも昨晩の時点では違った。
早い話が「お友達として接してください」というだけの話。
堅苦しい敬語をやめて、もっとフランクに接して欲しいというのが彼女の望みだった。
私としても距離を詰めさせてもらえるならそれに越したことはなかったので快諾したのだが。
「早百合。アチラの建物ですわ」
彼女自身の言葉遣いは、相変わらずのお嬢様しゃべりなのだ。
まぁコレに関しては素がこれなのだろうなと納得する事にした。
いけませんわ・・・・・・とか、私達お友達なのにこんな・・・・・・とか。
お嬢様言葉のままであるほうが後々私がハッピーになるかもしれない。
だから彼女には是非ともそのままの君で居て欲しいと願うばかりである。
「どうかしましたの?」
「ん?ううん。なんでもない。じゃ、入ろうか」
完全に自分の邪ワールドへ突入しかけていた意識を無理やり引き戻し、私は彼女に続いて店の扉を潜る。
カランカラン。と。
扉に備え付けられていたベルが鳴り、その店内に一歩踏み込んで、私は少し戸惑った。
「武器・・・・・・屋さん?」
店内には、壁一面に剣や銃、それに弓や槍など、どれも機械的なデザインはしているが、明らかに武具といった商品ばかりが陳列されている。
中には全く用途の想像のつかない物もあるが、この店が武具を専門とする場所なのは間違いないだろう。
良く考えたら盗賊から強奪した武器を換金しにきているのだから、武器屋に来るのは当然か。
文明が発達してようと、こういう所は妙にファンタジーというかゲームっぽさのある世界だ。
「オーナー。お客様をお連れしました」
「んん? お嬢様か珍しい。お客? そっちの黒髪の姉ちゃんか?」
言われて声のする方を見ると。
「・・・・・・・・・・・・仮面?」
そこには黒いツナギ服を身に着け、首から上が「鉄の仮面」で覆われた男。
異世界から来た私よりも遥かに怪しい見た目の人物が佇んでいた。
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