その少女、異界より来たる 10(Σ347)
鉄仮面先生の武器店から、東に5件目の建物。
この街に何店かある「女性向けの防具屋」の一つに私達は訪れていた。
「いらっしゃいませぇ~☆ あぁんらぁ、アンジェェ!早百合ぃ! お☆ひ☆さっ!」
扉に設置された来店を知らせるベルがカランカランと小気味良い音を立てると同時に、店の奥からそんなしなった「男性」の声が響いてくる。
その人物は男性とは思えない、優雅なモデルの様な歩き方で、店に入った私とアンジェを出迎えてくれる。
なんかこう、申し訳ないけどもうその様子を目にしただけで頭痛がしてる。
「・・・・・・こんにちわ。って近い近い! だから距離感おかしいってばぁ!」
「あらやだワタシったら! ごめんなさいねぇ☆」
ただ単に出迎えてくれただけなのだけど、こう、どうにもこの人の距離感は慣れない。
初めて会った時からとにかくグイグイと来るんですよ。
そういう意味ではアンジェに似てる部分があるかもしれない。
カトリーヌ防具店。
身体は男、心は乙女の店長。
すなわちオネェのカトリーヌさんが営む女性冒険者向けの防具店。
防具をどうするか鉄仮面先生に相談したところ、彼の紹介で訪れたのが切欠だ。
初日から「貴女が噂の異世界人! いいじゃない! 想像以上にいい素材してるわよ!」とグイグイ来られて少し引いてしまったのはお察し。
たぶん悪い人ではないし、真剣にこちらの要望も聞いてくれる良い職人だ。
私の戦い方や基礎能力を配慮した上で、一月ほど前に盗賊との戦いで破れてしまった制服一式を渡し、それを修繕できないかと依頼したのだ。
異世界の服だし無理なら無理でいいかなと諦め半分ではあったが、多少素材が変わっても良いなら可能という事だった。
既に採寸も済ませ、更に制服に合わせたマトバちゃん用のホルスターなども合わせて作ってくれるという。
細かい事にも気が回るデキル女。いや男性だけど。
で。本日はその完成した新しい制服の受け取りに来たわけです。
「オーナー、どいてください。超邪魔です」
「ああん最近ワタシの扱い酷くない!?」
私の前で未だクネクネと謎の動きをしていたカトリーヌさんを押しのけて、一人の女性が奥から現れる。
クネクネすな、落ち着いて、できれば奥に戻って!
「こんにちわ、ミス・早百合。ご注文の服をお持ち致しました」
カトリーヌさんとは別の意味でキリリとした佇まいのメイド服を身に着けた女性は、紙製の箱を手にこちらへとやってきた。
「こんにちわ、シャーリーさん。その箱が?」
「はい。早速試着をお願いいたします。何か問題があれば調整致しますので」
言って彼女は店の奥にある試着室へと私を誘導する。
シャーリーさんはこのお店でカトリーヌさんの弟子兼スタッフとして働いている。
私よりも5つ上の20歳だが、背丈は私と同じくらい。
少し表情に乏しいというか基本無表情なのが勿体無い感じの、落ち着いた美人さんだ。
胸についてはアンジェの勝ちで私の圧倒的敗北だとだけ言っておこう。
なぜか常時メイド服を身に着けているのだが、どうやらこのメイド服はカトリーヌさんが出した課題として自作したものらしい。
彼女・・・・・・でいいかもう。彼女曰く「一流の裁縫士はメイド服の腕で決まる」という事らしく、日々新たなメイド服を作って腕を磨いているらしい。
普段から着用しているのは、そのメイド服の完成度を自分で確かめる為だと言っているが、カトリーヌさんは「別にそんな指示は出していない」と言っていた。
要するに着ているのは単に彼女の趣味なのだろう。
人の趣味に口を出すつもりはないので、色々と突っ込みたい気持ちはあるが何も言わないでいる。
成長したのですよ、私も。
ちなみに、私の服の採寸も彼女が行ってくれた。
このお店に来るお客さんは大きく分けて二通り居る。
一つは私の様な女性。もう一つは―――カトリーヌさんと同じ「身体は男だが心は女性」のお客様だ。
昔からカトリーヌさんを知っている人なら別に抵抗は無いらしいが、私の様な一見様は、さすがにオネェといえど男性であるカトリーヌさんに採寸されるのは抵抗がある。
そういった事情も込みでシャーリーさんが雇われている面もある様だ。
いやほんと悪い人ではないんだけどね。
それは、それ。
これは、これ。
「おー、すごい。見事に復元されてる・・・・・・補強入ってるからかな、むしろ元の制服より丈夫そう」
試着室の鏡に映るのは、2ヶ月ぶりに目にする制服姿の私。
もはや懐かしい姿に思えてくる。
ただ実際は、銃のホルスターやこちらの世界で購入した靴、腕に装備しているライトバックラーなどがあるため、何と言うか「武装した女子高生」という感じになっている。
改めて着てみて感じるのは、制服というものが相当に動きやすく作られていたんだなという事。
こちらの世界に来てから今日まで制服が無かったので、当然この世界の服を毎日来ていた。
加えてハンターのお仕事を開始するにあたって、仮とはいえ仕事着として調達した服も日々身に着けていた。
だがどうにも馴染まない。馴染めなかった。
多分慣れの問題なのだろうけど、どうにもこの世界の服は窮屈に感じたのだ。
「まぁそうだよね。中学からとはいえ3年も毎日着てたんだから、こっちのほうが馴染むのは当然か」
何度か身体を捻ったり伸ばしたりしてみるが、特に違和感は無い。
むしろ元の制服よりも自分の身体にフィットしている感じがあって凄い。
「腕は確かなんですよね・・・・・・なのになぜオネェなのか」
いやうん生粋の百合属性かつ現在進行形で彼女持ち女の私が言えた話ではないか。
「ありがとうございます、バッチリです」
「それは良かった」
油断大敵。
突然向けられたシャーリーさんのレアな笑顔に思わず私の中の獣が目を覚ましそうになる。
お馬鹿! アンタにはアンジェリカというステキな恋人が居るでしょう! この浮気者!
「―――っ・・・・・・??」
内心でこっそりと浮気心を漂わせた罰だろうか。
頭に小さな頭痛が響いてきた。
「ふふ、初めて会った日を思い出しますわね」
私の浮気心も知らずに制服の復活を喜んでくれるアンジェ。
ごめんねハニー、私今別の人の笑顔にちょっとグラついてた。
こんな私を許して・・・・・・たぶん罰は今受けたから。
そういえば、アンジェに制服を着せたらそれはそれでとても素晴らしいのではと閃いた。
銀髪巨乳のアンジェと制服プレイ・・・・・だと?
それは下手をすると戦争が始まってしまうのではないか?
邪である。私は相も変わらず邪な女である。
邪である事を誇りに思う!
******
「ところで早百合。貴女を素敵なハンターと見込んでお願いがあるのよぉ」
「きょ、巨大なゴリラ退治以外なら・・・・・・」
もうゴリラは嫌だ。
もう巨大なウ●コは嫌だ。
マジゴリラ怖い。
ゴリラ恐るべし。
「ちっがうわよぉ! ただ、手紙をある人に渡して欲しいのよぉ」
「手紙ですか? 別にそれくらいならいいですけ―――どっ―――?」
また頭痛だ。何だろうさっきから。
もしかして風邪でもひいたかな・・・・・・
でも手紙なら普通に郵便を使えばいい気がする。
この世界には普通に郵便を配達する人たちがいるのだから。
そう思っていたのだが、どうやら特殊な事情があるらしい。
「その人ってハンターなんだけど、いま何処に居るのか分からないの・・・・・・」
「あー。つまり頼みってのは人探しですか?」
「そうなるわねぇ。ハンターギルドって個人の情報を一般に開示してくれないじゃない? だから同じハンターの早百合にお願い出来ないかと思って」
鉄仮面先生から習った「ハンターの心得」にそんな項目があった。
正直同じハンターからよりも鉄仮面先生から教わってる事の方が多いの気のせい?
ハンターの情報、いわゆるステータスなどは原則として一般に開示されない。
いや私が異世界人とか知られまくってるじゃん! とは思っのだが「お前は特殊すぎるだけや」と一蹴された。
私だけ扱い酷くない!? と抗議したい所だが、一応ステータスの詳細、特に称号系については私が話した人やあの時ギルドに居たハンター達以外には伝わっていない。
この辺りはハンターの共通認識というかマナー、リテラシーとして徹底されている事らしく、そういう情報を漏らす人は資格を剥奪されたりもする。
実際は人の口に戸は立てられないといった感じで見過ごされている部分もある様だが、所在地なども非公開。
基本的にハンターへの依頼はギルドを通せよ? という事なのだろう。
ならばここで、私が個人的にカトリーヌさんの頼みを引き受けるのはマズいのでは?
とも思ったのだが、服を仕上げて貰ったのだから人探しくらいならコッソリやれば良いやって事にした。
アンジェが居たら「もう、安請け合いしてはいけませんわよ!」とか怒られそうだけど、現在彼女はシャーリーと更衣室で自分の服を試着してる。
カトリーヌさんもこのタイミングだからこ話してきたのだろう。
「わかりました。どなたに手紙をお届けすればいいんですか? 流石に名前は・・・・・・分かってますよね?」
あの日見ただけの愛しの君にこの手紙を渡して欲しい、とかそんな依頼だとさすがに困る。
情報が少なすぎて異世界2ヶ月程度の私にどうこう出来る話ではなくなる。
それこそ人探しのプロ雇ってくれってなるわけです。
「この手紙を・・・・・・ジャニス・ジャービスっていう人に渡して欲しいの」
ジャニス・ジャービス・・・・・・なんだろうどこかで聞いたことある?
んん・・・・・・思い出せない。
「わかりました。ジャニス・ジャービスさんですね。外見的特長とか―――っ」
・・・・・・気のせいかな? 何か急に左目がズキリとした。
「っつ―――い、いだだだだ・・・・・・」
ちがう、気のせいじゃない!
何コレ!? 左目が物凄く痛みはじめた!
「いたたた・・・・・・っあぁぁぁぁぁイタイイタイ痛い!」
あまりの痛さに堪えきれなくなって声をあげてしまう。
まって、マジなにこれ、こんな痛み始めてなんですけど!?
何か眼球の奥をグリグリされてるような、とにかくヤバイ痛みが続いてる。
「ちょ、ちょっとどうしたの早百合!? しっかりおし!」
「なんか左目が急に・・・・・・んっあぁぁぁぁ!! はぁっ!はぁっ! いだいいだい!」
「どうなさいましたの早百合!? オーナー、一体何が!?」
「ワタシにも何が何だか、急に目が痛み出したみたいで・・・・・・と、とにかく病院、まずは病院に連れて行きましょう!」
私の急変に周囲は大慌て。
だが当の私は、もはや痛みに耐える事も出来そうに無いほど意識が朦朧としはじめていた。
ドサリ。とその場に膝から崩れ落ちる。
「さ、早百合ー!!」
私は生まれて初めて、痛みで気絶するという事を味わった。
******
音がする。物凄い騒音がしている。
周囲が騒がしすぎて考えがまとまらず、思考も全く安定していない。
何?何て?ごめん聞こえてるけどわかんないんだよ。
「―――・・・・・・―――・・・―――」
日本語でお願い。
「――――――・・・・・・―――・・・―・・・――」
だから、日本語でお願い。
「―――・・・・・・これでかなりマシになるじゃろう」
その言葉がやっと自分の頭に届いた時、周囲で鳴り響いていた騒音が収まった。
まるで数千人に同時に話しかけられていて、しかもそれから耳を逸らせない。
そんな拷問の様な音の渦からやっと回復したのだという事も理解できた。
大丈夫。思考だってもう普通にできている。
身体は・・・・・・何かちょっと重たいけど、動かせない事はないかな。
「よっこい―――しょっと」
起き上がって周囲をみると、そこは見慣れた場所。
私が住まわせてもらっているアンジェの屋敷の私の部屋だった。
「そっか。そうだ私お店で倒れたんだ。てかさっきの声は誰?」
意識が覚醒する直前に聞いた声。
あれは全く聞き覚えの無い声だった。
地球に居た頃も、こっちの世界に来てからも。
間違いなく一度も聞いた事がない、初めて耳にする声だ。
「誰も・・・・・・居ないよね・・・・・・ん?」
部屋の中には誰も居ない、私だけなのは確実だ。
ただ、窓の外に―――月の光を浴びているのか、蒼い光を纏った一匹の蝶が漂っていた。
綺麗な蝶だ。
確か、モルフォ蝶というのがまさにあんな色をしていた気がする。
―――あれ? なんか
しばらくその蝶を眺めていたが、ふわふわ漂う蒼い蝶は、そのまま何処かへと飛んでいってしまった。
「なんだろう。何か凄く気持ち悪い。悪寒? 虫の知らせってやつかな」
自分の中に妙なしこりの様な物が残っている気がしたが、今はそれよりも身体の心配をしよう。
「ふむ・・・・・・特に痛みもない、よね。よっと―――」
ベッドから降り、軽くストレッチを試みる。
どうやら本当にどこも痛みは無いようだ。
あの時お店で感じた左目の痛みらしきものも、今は綺麗に治まっている。
いやほんと何だったんだろうアレ。
あんな痛いの初めてだった。
それこそアンジェに奪われた「初めて」の痛みが可愛く思えるくらい痛かった。
・・・・・・こんな時にまで何を思い出しているんだ私は。
「あっ!・・・・・・さ、早百合!! 気が付いたのですね!よかった!本当に良かった・・・・・・!」
「アンジェ。ごめんね心配かけて・・・・・・もう大丈夫みたいだから、ね?」
何時の間にか部屋に入ってきていたアンジェが、涙を流しながら飛び込んでくる。
胸の中ですすり泣く彼女を抱きしめ、頭を撫でながら私は何度も「大丈夫だよ」と声をかける。
そのままゆっくりと真横にあったベッドに腰を下ろし、尚も縋り付いてくるアンジェを抱きしめ続けた。
こんな時だというのに私は・・・・・・いや、こんな時だからこそ、か。
愛しの彼女を安心させてあげるのも、彼女の務め。
愛しの彼女を慰めてあげるのは必然の事なのだ。
甘やかに、艶やかに、時に激しく、優しく。
震える彼女に「私はもう大丈夫だよ」と全身で彼女に証明するのだ。
二人きりの夜は―――まだ長い。
******
夜の帳。時間的には丑三つ時と呼ばれる頃。
私は夜の街道を一人歩いていた。
「ぬぬぬ・・・・・・まさか大事な財布を落とすとか何やってんの私・・・・・・」
目を覚ました私に、縋り付いて泣き続けるアンジェを慰めた後。
数回、全身で慰めた後。
数日振りの充実した倦怠感を纏いながら、明日の準備だけしようと手荷物のチェックを始めて、私は自分の財布が無い事に気が付いた。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「ど、どうかされましたの!? まさかまた目が!?」
思わず出てしまった変な声にアンジェが目を覚ましてしまう。
「違う違う。ごめんビックリさせて・・・・・・えっとね」
起こしてしまったついでなので、どうやら財布を無くしたらしい事を説明する。
彼女にも今日の記憶を色々と辿ってもらい、少なくともカトリーヌさんの店では財布を持っていたという所までは思い出した。
「となると、病院に運ばれる途中で落としてしまった可能性が高いですわね・・・・・・ごめんなさい気が付かなくて・・・・・・」
「アンジェのせいじゃないわよ。ほらもう泣かないの」
移動中、私の荷物を運んでくれていたのは彼女らしい。
だがそれで彼女を攻める理由など私には無い。
いやまて、おしおきと称して「攻め」る理由にはなる。
いっそもう一回戦・・・・・・とかは流石にしません、はい。
誰かが財布を拾って警備さんやギルドに届けてくれている可能性も考えた。
だが平和な日本ならばまだしも、この世界で財布を拾って親切に届けてもらえる可能性は低い。
全財産ではないにしろ、今日はそれなりの金額を入れてあったので尚更である。
仕方が無い、探しにいこう。
アンジェには「倒れた直後ですし、夜の一人歩きは危険ですわ」と止められたが、これでも一応ハンターでございます。
自分の身くらい守れるよと言い残し、私は念のため制服とマトバちゃんを装備して現在財布の捜索中というわけである。
謎の痛みで気絶した奴が、偉そうに何を言ってんだって話かもしれないが。
「おーい、お財布ちゃん。どこよー、出ておいでよー・・・・・・」
落とした財布に音声認識機能なんて備わっていないのだが、こう、気持ちの問題である。
無くした財布をトレースできる機能とか開発したら一角千金になりそうだ。
逞しくも逃避気味に、そんな考えを巡らせつつ視線をうごかしていると―――
「およ? さっきの蝶かな?」
ふと私の視界に、さきほど目にしたのと同じ?かもしれない「モルフォ蝶(仮)」が漂っていた。
何だろうなぁ・・・・・・この蝶に物凄い
気になるなぁ、思い出したいなぁ。
そんな事を、呆然と蝶を見ながら考えていた時。
「―――え?」
―――ドスリ、と。突然背中に強烈な違和感を感じた。
「―――――――――え?」
そのまま自分の視界がグラリと揺れて下がっていく。
何が起こったのか分からない。
いや分かっている、これはあれだ、痛みだ。
背中から身体の内側にかけて、鈍く、強烈な痛みが走っている。
「―――なん―――なに―――が」
状況は未だ理解できていない。
背中に痛みがあるという事は、考えられるのは何らかの攻撃を受けたのだろうという事。
だが、誰が? いつの間に? どうやって?
思考は相変わらず纏まらないまま、どんどん意識だけが混乱していく。
いやまて、何だこの感じ。
こんな時なのに、先ほど感じた既視感がとても強く、濃くなっている気がする。
ちがう、今はそれどころじゃ・・・・・・っ!
「―――うえっ・・・・・・また目が・・・・・頭が割れる・・・・・!」
突如自分の視界が、それも左目側だけがグルグルとすさまじい速度で回転し始める。
グワリ、グワリと。
グルン、グルンと。
回る、回る、回る、回る。
廻る、廻る、廻る、廻る。
周る、周る、周る、周る。
回る回る回る回る回る回る
廻る廻る廻る廻る廻る廻る
周る周る周る周る周る周る
回回回回回回回回回回回回
廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻
周周周周周周周周周周周周
回回回回回回回回回回回回
廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻廻
周周周周周周周周周周周周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
回廻周回廻周回廻周回廻周
どれくらい回転する世界を見せられていたのだろう。
時間の感覚が全く分からなくなるほどに廻る。
―――やがて目の前が弧を描いた光の渦の様な物で埋め尽くされ。
私の意識はそこで「ブツリ」と途切れた。
******
「なるほどのう・・・・・・こういう事じゃったか。どうりで」
「参りましたね、いかが致しますか●●様」
声だ。誰かの会話する声が聞こえる。
「こうなってしまったら、ワシが後を追って対処するしかあるまい」
「・・・・・・仕方ありませんか。わかりました、私はどうしましょう?」
二人?と思われる声の会話は、耳には届いている。
だが何と言うか現実感がない。
どこか遠くで私の噂話をされている様な、そんな感覚だ。
「お主は一度もどっておれ。ワシが追って座標を示す」
「はい。ではまた後ほど」
「うむ」
二つの声。そのうちの一つには聞き覚えがあった。
先ほど寝室で聞いた「これでかなりマシになるじゃろう」という声と同じだ。
言葉遣いも同じお婆さん喋りなので間違いないだろう。
この人物?が誰なのかはわからない。
だがその答えに近い可能性を、私は「もう一人の声」から推測していた。
「いいか、良く聞け。目が覚めたらその場から動くでないぞ? 状況を理解したとしても絶対にその場を動くな。事情は「あちら」で説明してやる。案ずるな、聞こえてくるはずの声は聞こえぬ様に調整しておく。それくらいは出来るからの」
説明してくれている様で、全く説明してくれていないこの感じ。
鉄仮面先生を見習えと何度も文句を言って来た、あの感じ。
「ではの、
そう。この雑な情報の出し方に、あの声は―――
「(マジでちゃんと仕事してよね・・・・・・神に類するくせに雑なのよ・・・・・・)」
天使と、それに関連した誰かである事は間違いなかった。
そして私の意識は闇に消えていく。
何が起こっているのか、今度こそキッチリカッチリ説明してもらおうじゃありませんか?
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