その少女、異界より来たる 07

「あ~・・・・・・酷い目に遭った・・・・・・」


「ま、まぁ仕方が無いといえば、仕方がないですわよ・・・・・・私もまだ信じられませんもの」


 ちょっと身分証明書を作りにいこう。

 それくらいの軽い気持ちで向かったハンター施設で、想像もしていない大騒ぎになった。


 ステータスの一部の異様さよりも「称号」という項目にあった二つ。


 異界より来る者、と、猫神の祝福。


 これがまぁホント、私にしてみれば迷惑極まりない二つだったわけです。

 今まで念の為、神様とか天使とか異世界人とかそういうの隠してた意味は何処へやら。


 マジ健康体とかのスキルに関して表示されなかったのが唯一の救いだろうか。


 耐性SSSというのも「本当に人間か?」という表記だったみたいで、こちらは主にアンジェが驚いていた。

 なんでも、耐性Aでかなり毒に強い人、耐性Sでほぼ毒が効かない人、といった基準だと言われた。


 つまり耐性SSSとは「絶対に毒に犯されない、ほぼ不死身に近い生物」という事だそうで。

 チートにも程がある。健康体どころの話ではなかった。

 魔王で大体、耐性Sクラスだという話なので、私は耐性だけなら魔王より高い人間という扱いに。

 てか居るんだね、魔王。


 そしてもう一つ。


 運気:xn+1=αxn(1-xn)


 こちらはギルドの受付さんが凄く難しい顔をしていた。

 何やら上司っぽい偉そうな人ともアレコレ話していたけど、結論としては「わかりません」との事。


 普通ステータスは、F-からS+までの間で表記される。

 F-、F、F+、E-、E・・・・・・といった具合で、プラスマイナスを含めた21段階表記。

 ここから考えても、耐性のSSSが異様なのが分かるが、運気ほどではない。


 まずXなんて表記はシステム上存在しないはずな上に、数字や記号、それがさらに数式の様な表示になっている。

 恐らくは「猫神の祝福」が運気を正しく表記できない様にしているのではないか? とは受付さんの言葉。

 考えるのを放棄した用にも思えるが、最終的に「たぶんバグってる」という結論で落ち着いた。


 運がバグってるって凄く不安だけど、天使に因果うんぬんの話をされてこの世界に来た私。

 もうあの時点で運とか運命とかバグだらけなのだろうからと、こちらも深く考えるのを止める事にした。


「色々。色々と自分にツッコミたい事はあるけれど・・・・・・それよりも風。まさかの風」


 魔力:E(B+)


 こっちについては私の予想が見事に的中していた。

 カッコ表記は稀にあるもので、潜在性が確定していたり、特定条件によって能力に変化の起こる人はこの表記になる。


 例として教えてもらったのが、いわゆる変身能力者。

 人狼などの様に特定の状況、つまり「満月の夜だけ狼になる」といった特性を持っている人は、こうしてステータスに潜在値が表記されるそうだ。


 つまり私は、普段はEランクの魔力しかないけど、誰かとキッスをする事で魔力を最大B+まで吸収して伸ばす事が出来る。

 さすがにあの場で「初めてのキッス」に関して言うわけにもいかず「ふ、ふーん、そうなんだー」とごまかしてはおいた。

 

 んで。私の魔法適正は「風魔法」だった。

 一応他も使えるといえば使えるけど、風魔法が10なら他は1。

 それくらい風に特化した人だったという事で、現在はアンジェと共にチュートリアル小屋ならぬ、鉄仮面先生の武器屋へと戻る途中だ。


「さすが未知の運気ですわね。もうあの時点であの武器を手にする運命が定められていたのですわ」


「やだなぁそれ。誰かの手のひらの上で踊らされてるみたいで凄く嫌だなぁ」


 それこそあの天使や、勝手に加護を与えてきた猫神の掌の上かもしれないと考えると、凄く嫌だ。

 あーでも、猫の掌の上ってことは肉球の上なのかって思うと、少しほっこりする。



 ―――異界より来る者

 

 要するに異世界から来た人の証明。

 ただコレについては「ごく稀に現れる」ものなので、物珍しいなぁ!くらいの話で済んだ。

 先日アンジェも異世界人が勇者になるとか何とか言っていたので、前例があるのだろう。

 前例があるという事は、指標があるという事で、つまりデータが存在する。

 それ故に「珍しいけど然程騒ぐ事でもない」というのが皆さんの感覚だそうです。


 問題はもう一つの方。



 ―――猫神の祝福


 これが曲者というか、大問題というか、大騒ぎになった。

 

 私がナウしてる異世界で「祝福」という加護を与えてくれる存在は大きく分けて3つ。


 一つは「精霊」という、魔法の大元を司る存在達。

 火、水、風、地、影、光の6種類の精霊さんが存在して、この世界の人にいわゆる「自然現象」を与えているという。

 詳しくは分かっていないけど、大気中の酸素が燃焼して火が起こりますみたいなルールを作ってるのが精霊だと思っておこう。

 

 二つ目は「魔王」による祝福。

 そもそも魔王が祝福って何ぞ?と思ってしまうのだけど、魔王というのは現人神の様な物らしい。

 影の精霊さんとは別に「死」とかそういう物騒な事柄に関する祝福を行えるのが魔王と教えてもらった。

 それ、死神って言わないですか? とも思ったけど面倒な事になりそうなので黙っておいた。


 んで、三つ目が「神」の祝福。

 文字通り神様に祝福された、選ばれし人間の称号みたいなもので、歴史上私で二人目だそうだ。

 一人目の人がどんな恩恵を受けていたのかは分からないが、その人は「救世主」として歴史に名を残した。

 何でも隕石が落ちてきて世界が滅ぶ運命にあったのを、隕石叩き割って救ったらしいですよ。

 その人、サイ●人だったんじゃないの? って思うくらいの事を成しているんだけど、私にそれを期待しないでほしい。絶対無理。

 ちなみにその一人目さんが持っていたのは「闘神の祝福」だったそうです。

 やっぱサ●ヤ人だと思うよその人。


 さて。私が持っているのは何でしょう?

 そうです「猫神の祝福」です。


 ハンター施設に居た皆さんも「・・・・・・で、猫神って何をするんだ?」と困惑していました。

 一応神様なので何か凄い事が出来るのは間違いないんでしょうけど、それもしかして猫基準じゃないのかな、って思うわけです。

 これで祝福の中身が「行く先々でマタタビを手にする」とか「猫じゃらしを無限に生やす」とかそんな効能だったとき、私はどうすればいいのか。


 多分いただいたスキルとは別の「何か」があるとは思うのだけど、その内容が凄くガッカリな能力に思えて仕方が無い。

 だって、あの天使から来るこれまでの流れですよ?

 期待しろって言う方が無理でしょう?


 あぁでも、猫と会話できる能力とかなら、ちょっと嬉しいかも。

 そういうメルヘンなのは異世界だからこそ受け入れやすいし、憧れもある。


「猫神様が私になにをさせたいのか、出来ればそれを知っておきたいなぁ」


 


******




「なるほど異世界人やったんかー。まぁそれは別にどうでもええわ。で、買うんやろ?」


 さすが鉄仮面先生、どうでもいいのか。

 

 武器屋さんに戻ってきた私達は、鉄化面先生にハンター施設での詳細を話しておいた。

 さすがに「神の祝福持ち!?」という部分には驚いていたが、それ以外に対しては通常運転で対応された。


 この人の神経の図太さというか、安定感は私も見習おうと思う。


「その前にまず、魔力の使い方云々を覚えないと駄目なんですけど・・・・・・」


 正直もうマトバは欲しい。

 自分が風に適正が高くて、印象も悪くない異世界の道具なのであれば、それは良い出会いなのだと受け入れてしまいたい。

 結局の所、私はハンターをやってみる事にしたわけだしね。


 もちろん覚悟なんて全く出来ていない。

 モンスターと言えども自分に果たして生き物を殺す事ができるのかも分からない。

 だが、ハンターというお仕事がこの世界で土台を固めるのに最適なのも間違いはなかった。


 要するに、お金がいいお仕事なのだ。

 すごく、儲かっちゃうお仕事なのだ。

 危険な分はお金で解決されちゃうお仕事なのだ。


 嫌な例えだけど、エッチなお仕事よりも遥かに儲かるのだ。


 地球でも命をかける仕事は相応に対価が高いというのを本で読んだ覚えがある。

 リアルに傭兵という職業が存在すると知った時には自分の目を疑ったものだ。

 逆に自衛隊さんとかが固定給であんな過酷な仕事をしているのも尊敬する。


 だからまずはやってみる。

 折角の異世界なのだから、少しは冒険をしてみる。

 勿論「だめ死ぬ」と思ったら即効で辞める。

 受付さんも、それくらいでいいと言ってくれたので、まずは一度チャレンジをしてみる事にした。


「そういう事ならまた地下に行くで。簡単な魔法の基礎くらいは教えてやれるし、マトバを気に入ってくれたんや、こんくらいはサービスしたる」


 いやほんと先生、マジチュートリアル。

 至れり尽くせりで申し訳なくなってくる。

 鉄仮面先生が女性だったら私のヒロインリストに名を連ねていたくらい。




******




 端的に言って、先生はスパルタでした。


 地下室に着くなり「魔法。その大元になるエーテルを知るには体感するのが一番いい」と言い出して、私は鉄仮面先生に風魔法をぶちこまれた。


 吹き飛ぶ私。

 錐揉みする私。

 地面を転がる私。

 後頭部を強打する私。


 正直「何しやがるこの鉄板野郎」と言いたくなったが、痛い目を見た甲斐はあった。

 魔法を身体で浴びた直後から、私は自分の目でエーテルだと思われる大気中の「それ」を見ることができるようになったのだ。


「こう・・・・・・ぬぬぬ。こう?」


「せや。そのまま、ぎゅっと押さえ込んで筒を作るイメージや」 


 マトバを構えながら、私は必至に自分の体内にあるエーテルを、円筒形の固まりに練り上げるイメージを繰り返す。


 魔法とは想像力。

 魔術とは想定力。


 エーテルを、元素の形に、どういった形状で発現するかを想像する。

 それが魔法というものを扱う為の入り口だと教わった。


「で・・・・・・これを、銃にセットする、イメージ!」


 カシャンカシャンとマトバのシリンダーが回転する。


「ふあー! だめだ二回しか動かなかった・・・・・・」


「いや。今日始めて魔法に触れて、二発装填出来てるだけでも大したもんやで」


 スパルタだが褒めて伸ばす系の鉄仮面先生。

 やはりこの人のチュートリアルは分かりやすい。


「試しに撃ってみていいですか?」


「おう」


 私は射撃場の人形に向かって銃を構える。


 初めての射撃。初めての銃撃。

 

 魔法の世界の魔法の銃とはいえ、これは人を害せる、生き物を害せる道具。

 その事にすこし身体が震えてしまうが、何度か深呼吸をして、視線を人形に戻す。


 ゆっくりと指をトリガーにかけ―――勢い良く人差し指を引き込んだ。


 ―――ッン、という風切音と共に人形の・・・・・・脇に風の針が当たって消える。


「・・・・・・当たらないもんですね」


「・・・・・・要練習、やな」


 魔法が使えるようになっても、当たらなければ意味が無い。


 ハンターとして私がデビューするには、まず「射撃」の訓練をしっかりと行う必要があった。

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