私の左目は蝶を観る 20(Σ352)
あのループについても、テト様と天使さんは当然承知していた。
と、思っていたのだが、そこだけは事情が違うらしい。
「元々我らの予定では、もう一月、つまり三ヶ月ジャストに世界が巻き戻り、そしてお主は二週目にはそれに気が付くはずじゃった」
とは、バステト様の談。
そう。ループそのものはあらかじめ計画されていた、私に対する試験。
だが・・・この繰り返した二ヶ月というループは、神様も想定していなかったプチ緊急事態だったというのだ。
あの状況をプチで片付ける辺りが憎い。憎らしい。
「最終的な原因は、まぁ案の定お主の軽率な行動なのじゃが、発狂したのを察知した際には正直焦ったの。いきなりどうした!?ってなったわ」
元々、3ヶ月周期を二週目で自覚して、そこから私が事実にたどり着いて解決するまでを見守る。
それが本来予定されていた試験の内容。
だが何故か私は二ヶ月目で謎のループに陥り、347回も自覚なく繰り返した事で発狂。
その事態の確認と、試験内容の変更、調整こそがテト様と天使の仕事になったわけである。
「試験の目的である、因果を整えてループを抜けるは変わらんからのう。町の人間の諸事情を利用した形にはなったが継続する事にしたわけじゃ」
本当になんて迷惑な・・・ごめんよ町の皆。
「まぁ結局その中心におったのがお主なのじゃから、相当な因果の持ち主なのは間違いないのう。なんせ誰かに地球史から消されたほどじゃ」
全く喜べない、神様直々のお褒めの言葉である。
基本的に蝶を追っていくのも正解。
そして蝶が「すでに手遅れ」のサインであるのも正解。
だが一つだけ、実は彼女達・・・いや、バステト様以外誰も辿りつけていない問題が残っている。
どうやらコレについてはバステト様も教えてくれないみたいだ。
「・・・結局、ループの根源って何だったんでしょう。私に結構な原因があるみたいなんですけど」
「ワシもわからんのじゃよ。そして主は教えてくれぬのじゃ・・・」
テト様と二人で、地面に相関図を描きながら、ああでもない、こうでもないを繰り返す。
この作業も今となっては少し懐かしい。
「多分私、アンジェ、シャーリー辺りに何かありそうなんですけどね・・・蝶が残ってるのそこだけですし」
「じゃのう。しかし出会わないでクリアしてしまうという事は、出会った後に因子があるのじゃろうな」
「となると私達の関係性・・・うーん・・・」
いまいちピンと来ない。わからない。
うんうん悩む私達を見て、バステト様は楽しそうに笑っている。
くそうさすがこの猫の主。
いい性格をしている。
「・・・・・・あー、そういえば別件なんですが」
そういえば、ふと頭に過ぎった別の疑問があったのでついでに聞いてみる。
「私の回復能力って、アレもうちょっと何とかなりませんか?」
「ん?どういう事じゃ?」
少々、理由というか事情が個人的、それも性的すぎて躊躇ったが、まぁ神相手に今更かと割り切って話してみる。
「えっとですね。私こう、ループの中でまぁそのアンジェと、性的なアレになったじゃないですか」
「うむ、文字通り魔獣じゃったな。神である我もちょっと引く」
テト様だけでなく、バステト神にまで引かれた。
どんだけなの私の性欲。
まぁそれはいい、それよりもだ。
「つまりその・・・回復能力が高すぎて毎回「膜」がですね、再生するんですよ。正直困ってたんですよ。アンジェも変なプレイに目覚めるし」
「ちょいまち、なんじゃそれは。そんな機能ついておらんぞ?あれはお主が自覚的に「治れ」と思わぬ限り復元などされぬ能力じゃ。もしも毎度「膜」が復元されていたならば、それはお主が望んだが、他の外的要因にほかならぬ」
ちょ~っとまって。
ちょいまって。
今、私の中でとても嫌な想像というか、想定というか、結論が出てきそうになった。
いやいやいやいや。
いくらなんでもまさかそこまで。
そんな事、本人に隠してコッソリやるぅ?
何度も、そんな事するぅ?
・・・・・・やりそうだな彼女なら。
「もしかして、なんですが・・・アンジェの力って「他人の怪我」も直せたりしますか・・・」
「うむ。あの小娘の再生能力は微弱ながらも珍しい部類じゃな。他者に干渉できるのは結構希少じゃぞ」
それはテト様が答えてくれた。
再生能力の有無を調べてくれたのもこの猫なのだ。
恐らくだが、私が「耐性SSS」について開示した後に思いついたのだろう。
私自身が、怪我の再生が早いという事実の中に、己の再生能力を隠蔽してしまう事を。
そして、多分元から持っている性的趣向の一つである「初めての血」を舐めるという行為に、継続性と理由を獲得した彼女は、その行為を延々と続けた。
全て、私の体質故に起こっている行為なのだと言い訳をして。
「ねぇテト様、バステト様。今の私って神様の目が入った、ちょっと人間離れした奴なんですよね」
「うむ、その通りじゃな」
ならば―――ならば、だ。
「もしも、そんな人間の「血」を定期的に摂取したらどうなるんでしょう。それこそ儀式的に、数日に一度」
「ふむ・・・普通の血を飲んだところで神に近づく、などという事はないぞ。その程度で神代の力に至れるほど神とは甘くない」
「例えば、何か別の似たような事柄で、偶然にも神様に匹敵する力を得たとしたら・・・「時間を再生」とか可能だったりします?」
「何を馬鹿な・・・まぁそうじゃの。それこそ数多の「乙女の純血」を定期的に、直接乙女の身体から飲み続けるくらいの凶行でも行わぬ・・・か・・・ぎり・・・」
テト様は言いながら、何かに気が付いたようにギギギギっとこちらに首を向けてくる。
錆びた機械の様な動きが、正直凄く怖い。
「・・・・・・・・・・・・」
私は何もいえない。
ただテト様の言葉を待つ。
「のう。ワシ。もしかしたら原因を突き止めたかもしれんのじゃが、聞くかのぉぅ?」
「・・・・・・はい」
私の中で100%それは正解だと思います。
他に、もう他に、原因が思いつかない。
というか、これで間違いないだろう。
さっきから後ろでバステト様が大爆笑している。
おい天使、何お前まで笑い堪えてんの?
堪えきれてないよ? 肩が恐ろしく上下してるよ?
「いや、どうやらお主も気が付いておる様じゃしー? 解決編は主人公であるおぬしに譲ってやろう!ほれ!謎を解いてみせよ!」
この猫実は神の使いじゃなくて、悪魔の化身なのではないだろうか。
「えっと・・・・・・えっとですね・・・」
神の祝福を受けた私の血液―――処女の血。
それは、ある種の神聖を備えた聖遺物に匹敵する物。
今回のループでも分かるように、備えている、背負っている因果が特異すぎる。
故に本来その人は神の関係者である事を隠さねばならず、また安易に己の力を他人に開示したり貸し与えてはならない。
なぜならそれは「神の祝福」を他人に分け与えるに等しい行為だからだ。
つまり―――
「・・・一応聞いてやる。つまり?」
そんな人間の「血液」を二ヶ月もの間、定期的に恋人に経口摂取させている「神の関係者」もとい変態がこの世には実在する。
えぇ!?そんなやっべぇ奴が実際にいるの!?って思うでしょう?
います。はい―――ここに。
「つまり、このループの一端・・・根源に・・・私自身がめっちゃ関わってました・・・」
「もう、呆れて何も言えんわ」
「すみません・・・ドスケベ変態クソ女で本当にすみません。こんな私を誰か罰して!」
ループの根源。
諸悪の根源。
それは―――復元される処女の血を、二ヶ月に渡って彼女に飲んだり舐めたりされる事に快感を覚えた奴。
すなわち、この私。
そして―――その「初めての血」を好き好んで摂取していたアンジェリカこそが「時間を再生」していた本人だった。
本当に、本当にごめんなさい。
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