私。異世界で百合してくる。

T翼

第0章

差し当たり



 異世界にやってきた。



 否―――異世界にやってくる羽目になってしまった。



 これまでの現実が通用しない別の世界。

 これまでの現実を気にしなくて良い理想の世界。

 これまでの現実を忘れなくてはならない異なる世界。


 私にとってそれは、理想郷だ。


 でも好きな人と離れ離れになってしまった。


 現実。つまり日本に大好きな人が居た。

 その人に別れを言うことも出来なかったのが、唯一心残りかもしれない。


 折角頑張って勉強して、好きな人と同じ高校へ進学したのも無駄になった。

 あの努力を応援し、合格を心から喜んでくれた家族や友人には申し訳ないと思う。


 だが悪い事ばかりではないだろう。


 この世界ならば、私は私の在り方を突き進んで生きていけるかもしれない。

 この世界ならば、私は私の欲求に素直に生きていけるかもしれない。

 この世界ならば、私は私が好きな人に「好き」と言っても許されるかもしれない。


 この世界ならば。 


 今日から始まる新生活。

 安全な通学路も、治安の良い町も、見知った人の待つ家もない。


 待つのは異世界。剣と魔法とモンスターが渦巻くファンタジーの代名詞。

 右も左も分かっていない外国ですらない世界で、私は私の生き方を探すのだ。



 まるで小説の中の様な、まるでゲームの中の様な出来事。

 だがこれは、私にとって紛れもない現実であり、事実なのだ。


 受け入れて、そしてはじめよう。私の物語を。



 差し当たり。


 今日から始まる生活を小説にでも例えるならば、冒頭の一文はこれが良いだろう。





 私。異世界で百合してくる。

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