私の左目は蝶を観る 07(Σ348)

「はぁ・・・酷い目にあった・・・」


「ま、まぁ仕方が無いといえば、仕方がないですわよ・・・私もまだ信じられませんもの」


 そうだねマイハニー。

 私も未だに信じられないよ。


 こんなのを無意識に347回も経験していたなんて。

 そりゃあ発狂もするよって思う。


 こちらも予定通り、ハンターギルドにて私の身分証発行とステータス確認が行われた。

 ステータスの内容見ますか?



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名前:サユリ・ウシオ


職業:無所属

階級:------


膂力:C-

魔力:E(B+)

耐性:SSS

知能:D

器用:E

敏捷:C

運気:Xn+1=αxn(1-xn)


称号:ブレイバー

   異界より来る者

   猫神の祝福


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 えぇ。はい。

 何一つお変わりない、何一つ隠蔽されておりませぬ私のステータスでございます。

 もはやステータス欄が全裸で歩いてる感じです。

 ホントこれが一番の問題。


 テト様もどこかでコッソリと見ておくって言ってたけれど、今頃は頭でも抱えているのではないかな。

 ちょっとだけ、ざまぁみろ感あるのは内緒です。


 ステータス登録を開始してから「まさかタイムリープ的な表示出たりしないわよね」と不安になったが杞憂だった。

 さすがに「時をかける少女」とか出てきたら誤魔化しようが無くなるし、それこそマジでタイムパラドクスに陥る。


 一応難は逃れた、という事にしておこう。

 隠蔽が解かれている件については結局何も分からなかったしね。


 周囲に気を配っていたけど、蝶も出ては来なかった。

 つまりこのループと隠蔽解除に連動性は・・・多分ない。

 要するに別件だと思われるのだが、それはそれで余計な仕事というか不安要素が増えてる気がする。

 そこら辺はテト様に頑張ってもらおう。


 今更なのだけど、私の称号のトップにある「ブレイバー」とかいうカッコいいやつ。

 これは「初陣で悪人を討伐した勇敢なる人」っていう意味らしく、珍しくはないけど「こいつ人生初の戦いで人殺してやがる」という違う意味でヤバい称号でした。

 ギルドにいた胸以外筋肉で出来た女船長みたいなハンターさんなんかは「大人しそうな顔して何てエグいお嬢ちゃんだ・・・」ってドン引きしてました。

 私も正直自分に引いてます。


「(ここだけが、全く別の事件になっているのも不気味だよなぁ・・・)」


 そもそも、神様が仕掛けた隠蔽工作をどうやって解除しているのだろうか。

 テト様の事だから雑な処理してたり、この世界の機械の方が有能で隠蔽が敗北してたとか普通にありそう。


 ・・・って話を先日したら「お主いくらなんでも神をナメすぎじゃね!?」って怒られました。

 だってさぁ・・・ねぇ?


 現状陥っているループも勿論、神様からして原因が分かっていない緊急事態ではあるのだが、私個人としてはこちらの方が実は怖い。

 神様ですら欺く何かが別途居る可能性が既に存在してて、それが敵か味方かも全く分からない。


 それってもう敵味方以上に、存在その物の関与という事実がヤバイ気がするんだけど。



 

******




 皆様、お待たせ致しました。

 すなわち、致す時間でございます。


 ギルドを出て、鉄仮面先生のスパルタ風魔法教育を受け、アンジェとご飯を食べて帰宅。

 夕食までダラダラ~からのお風呂の流れを経ての現在。


「では―――理性なんて捨ててしまいましょう早百合」


 うん、捨てる捨てるぅ!


 台詞が微妙に変わってはいたけど、致す事に変わりはありませぬ。

 絶対に変わらない物がここにある。

 それは愛ですよ、愛。ラヴ。


 宜しくお願い致しますって実は凄くエッチな言葉ですよね。


 この瞬間だけは何度だってループしたい。

 ここだけ自由にループできるチート能力欲しいなぁ。


 

 閑話休題。

 姦和宮内。



「ん・・・・・・んぅ・・・・・・スー・・・スー・・・」


 隣で眠るアンジェを起こさない様、私はそ~っとベッドから降りる。

 コソコソと部屋着を身につけて、忍び足で寝室のバルコニーへ。

 夜のバルコニーは少し肌寒かったが、ふいに周囲から寒さが消えて快適な温度になる。


「さすがに外は冷えるからのう。制限されておってもこの程度はお手の物よ」

 

 バルコニーの手すりに、月明かりをバックにした黒猫の姿がある。

 どこかの迷い込んだ野良猫・・・ではなく、勿論テト様だ。


「さて、本日の報告を聞くとしよう」


 本日の流れの中で私は蝶を目にしたのか?


 答えはYES。

 残念ながら本日も蝶を目にしてしまった。


「正直最悪です・・・同時に二匹出てきました・・・」


「おま・・・マジなのか・・・」


「私だって見間違いだと思いたいですよ・・・」


 そう。

 今日は何と蝶が同時に二匹も出現した。


 鉄仮面先生の時といい、想定外の蝶増えすぎてて正直考えるのが面倒になってくる。


 さきほど、お風呂場にてアンジェにずずいっと迫られている最中。

 

 流石に何度も経験した記憶のある私は、焦っているフリをしながらも冷静でいられた。


 ・・・本当に冷静だったよ? 

 私が何回彼女と致したと思っているのか。


 なんなら今回の初夜に至っては私が攻勢に出ていたくらいですよ。

 アンジェの弱点なんて、そりゃあもう知り尽くしてますからね!

 攻めるのも攻められるのもOKな万能彼女っすよ。

 ネコでもタチでもバッチ来いのリバーシブルな女ですよ!


 おっと誰ですか今「なんてタチの悪い女だ」って言ったの。

 座布団なんてあげませんからね。


 ちがう、そういう話じゃなくて。

 バタフライ。蝶の話をしているのです。


 お風呂で言い寄られている最中、じっとこちらを見つめるアンジェのその背後。

 やっぱ綺麗な髪だなー、綺麗な瞳だな、唇に吸い付きたいなーとか考えていた直後。


 向かって左奥、彼女の右後ろに蒼い蝶が出現していた。

 ふよふよと漂いながら、どこに止まるでもなく宙を泳ぎ続けている。


 たぶん今までも出ていたけど私が見落としていた可能性が高い。

 そのタイミングは必ず私が、これ以上彼女の顔を見ない様にしなきゃ!と、全く違う方向を向いていた場面だからだ。

 そして必ず直後に、お風呂場から逃げる様に去っていた。

 勿論去る時に蝶を見た記憶は無い。


 だが今回は彼女の背後に漂う蝶を目にした事で、少し逃げ出すまでの時間を延ばしてみた。

 こう、ドギマギしながらも彼女から目が離せないで居るみたいな演技を少し続けてみたのだ。

 演技ですよ? 単に「このままいっちゃおうか」とか思ってたわけじゃないです。

 その流れで視線が落ち着かない様に、左へ、上へ、下へ、そして右へと動かしていました。


 んで、そしたら案の定。

 もう一匹居たんですよ、蝶が。


 私の右手―――そう、右目側にもう一匹の蝶が居たのです。

 こちらは本当に私の右耳辺り、かなりの至近距離を漂っていました。

 正直ちょっと近すぎてビックリしましたね。


「二匹・・・確認するが、風呂場にはお主ら二人だけなのは間違いないの?」


「はい、さっき本人に確認したら人払いしてたみたいですし、間違いないと思います」


 アンジェはお風呂で私に言い寄る為、屋敷の人に誰も近づくなと言いつけていたらしい。

 姉さんそんなところにまで手を回してのお風呂攻撃だったのかと、ちょっと恐ろしくもなる。

 

「となると、今回の蝶はあの娘とお主それぞれで1匹ずつという可能性が高いか」


「そうですよね・・・もしかしてあの場から逃げ出さないが正解なんでしょうか・・・」


 つまり因果は、ベッドではなくお風呂場で初めてを迎えろと言っているのか。

 べ、別にそういうの嫌いじゃないけど、雰囲気とかムードって大事なんだからね!

 いやむしろお風呂の方が雰囲気は濃厚だったか・・・ちがうそうじゃない。


「わからんが、一応メモ、じゃな。にしてもお主、ちょっと引くくらい激しいの。大人しい顔して魔獣の様な交尾じゃったぞ」


「ストップ! 交尾とか言わないで下さい。てか出刃亀してたんですか!?」


 この猫、人様の秘め事をバッチリ覗いていやがった!

 いくら神様といえども、見てはいけないシーンというのが存在するのですよ!?

 自分で言うのも何だけど、かなりのシーンだったはずですよ!?

 地上派とか絶対無理な愛しさと切なさと心強さと、あと邪さを発揮していたはず。


 それに何ですか魔獣って。

 少々欲望に忠実である自覚は持っていますけど、そこまでではないです。

 

 たった15回致した程度で魔獣呼ばわりされていたらたまりませんよ。

 魔獣に失礼ですよ魔獣に。


「まぁ人の営みにアレコレ言うつもりはないが、初夜に15回も攻め苦を受ける女子の身にもなってやれ・・・」


 反省はする。だが自重はしない。

 ここで我慢なんてしていたら何の為に異世界に来たのか。


 私。異世界に百合しにきたんですよ?

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