私の左目は蝶を観る 05(Σ348)
翌日の午前。
私はテト様と共に最初に目が覚めた草原へと来ていた。
昨晩話し合った末に、まずは「蝶」の所在が現在どこに出ているかを確認する事にしたのだ。
どうも私の記憶の中で、蝶の出現がブレている箇所がある。
確実にここでは出ているという「確定因果」と、周回によって出たり出なかったりしている「未確定因果」があるなという事に気が付いた。
なのでまずこの348週目は、因果の発生場所とその前後に干渉した人物の明確化を行う。
私も最初からハッピーエンドに辿り着けるとは思っていない。
正直しんどいけど、何度も繰り返す事で必要な条件を集めて進むしかないのだ。
秋葉原に居る狂気のマッドサイエンティストさんは神様の助け無しにこんな事を成し遂げたのか・・・
アンタ本当にすごい。そして助手はもはや神だ。
下手な神よりも的確に助けてくれてた。
皆様も私の検討を祈っててください。
エル・プサイ・コ●グルゥ。
「何かまた不敬な事を考えておるじゃろ」
「いえ、偉大なタイムトラベラーに祈りを捧げてました」
彼は別にタイムトラベラーというわけではないのか。
タイムリーパー? 鳳凰院さんは何に分類されるのだろう。
いやうん、単に観測者でいいのかな。
「何じゃお主、ジョン・タイターの信者か」
むしろテト様がタイター知ってる事に驚きだ。
タイムトラベラーと聞いて、ジョン・タイターという少しマニアックな人物が出てくるのが意外。
それこそ某ドラちゃんとか、クロノ●リガーとかそっち系の例えをしそうだけど。
「テト様タイターを知ってるんですね」
「当たり前じゃろ。あやつは世界最初の公的時間旅行者じゃし、あやつが2000年に来た時に色々助けてやったのは他ならぬワシじゃ」
何でこうこの猫は、ふわっとびっくり発現をこぼしていくのだろう。
色々あるけど、そう、色々あるけど、まずタイター実在したってのがもうビックリだ。
てかその情報私にオープンにしていいの!?って思ったけど、私もう異世界にいるし関係ないのか。
別の世界にいればタイムパラドクスも起こらないのだろう。
何よりも貴女、タイター本人の知り合いだったの。
やけにアトラクターとか因果とかバタフライ効果詳しいと思ったのよ。
本物のタイムトラベラー絡みの知識をお持ちだった。
「創作上の存在だと思っていた人が実在した事実に混乱してます」
それを言うなら、横に神が居るこの状況も大概なのだけれど。
「世の中そんなものじゃよ。さてそろそろじゃな・・・時間はしっかり確認しておくのじゃぞ」
「はい。大事な情報ですもんね」
先日話した事の中に、蝶が出た各状況での日時の確認がある。
後々、一連の因果を結ぶ図を作るには必要な情報だ。
出来ればこの世界の時計と時間を合わせておきたかったのだが、街に行ければこちら世界の時計は存在する。
ならばそれまでの間だけ、スマホの日時で覚えておけば良い。
現在は、4月1日の午前11時30分丁度。
表示を確認して鞄にスマホを戻したところで―――アンジェの悲鳴が響いてきた。
「さぁ、行きましょうかテト様」
「うむ・・・時間の迷宮攻略戦開始じゃ」
挑むのは因果。
正すのは時の回廊。
敵は強大でしかもその正体が掴めていない。
なんだろう、初めて本格的な冒険っぽい事をはじめられた気がする。
ファンタジー要素どんどん無くなっていくけど。
******
「グヘヘ、兄貴ぃ。こんな所にマブい女が転がってますぜぇ」
今にして思うと、マブい女って古典的にも程がある。
「コイツぁ神様からモテない俺達への贈り物って事かぁ?」
だそうですけど、どうなんでしょうか横の神様。
「オレ、最近溜まってたんですよぉ。一番乗りしちゃってもいいすか?いいすか?」
よくない。その子に一番乗りするの、もとい一番乗りされるのは私だ。
「ったくしょうがねぇ奴だなぁ。2、3発出したら交代しろよぉ?」
この後、2、3発で命を絶たれる男の発言としては秀逸かもですね。
・・・・・・この二人については本当に何の変化もない。
なんだろう・・・今になると懐かしさすら感じるやり取り。
何度みても、こんな典型的なやられ役は滅多に存在しないと、感心すら覚えてしまう。
しかしこう、記憶を持ち越した状態で改めて見ると印象が変わる。
当初は只の蛮族か何かだと思っていたこの二人。
鉄仮面先生が「盗賊にしてはいい武器」と言っていた様に、身なりも実はそこそこまともだ。
盗賊というよりは、ハンターに近いちゃんとした装備を身につけている。
いやまぁ私って彼ら以外の盗賊見たことないので、ハンターと盗賊の違いとか分かってないけど。
「・・・只の貧乏っていう感じでも実はないんですよね」
「まぁじゃが、ここでまずあの女子を助けねば先には進まぬ」
それもそうだ。
二人に気取られぬよう、ひそひそと会話する異世界女子高生と猫の神。
良く考えると凄い組み合わせだな私たち。
私は記憶通り大きな木を背にして、鞄の中からカッターナイフを取り出す。
タブレットは鞄に入れたまま、スマホだけは今回スカートのポケットへと移した。
まさかこの程度で因果が変わったりは・・・しないよね。うん。
「この後二人と戦うんですが、その前に・・・きました、今ここ、この辺りに蝶がいます」
記憶の中にあった最初の蒼い蝶。
丁度この場所で出現するこの蝶は「確定因果」の蝶だ。
果たしてこの蝶が示す因果とは、何に、誰にまつわる物なのだろう。
ここに居るのはアンジェ、私、テト様、そして兄貴と子分。
私以外だとあの二人である可能性もあるわけか・・・
そうだ、この蝶の時刻を覚えておかないと。
私はスマホを取り出して待機画面を立ち上げる。
現在は、4月1日の午前11時37分。
まだ7分しか経っていないのは以外だった。
凄く時間が経過した印象だったけど、記憶が無い時は特に緊張でそう感じていたのだろう。
スマホを再度ポケットに戻し、私は蝶が居る辺りに手を泳がせ、テト様に位置を知らせる。
テト様はその場所に立つと、丁度蒼い蝶が漂っていた辺りに向かう。
「―――は、―――か。むぅ・・・―――」
なにか小さな声でブツブツと言っていたが、すぐに首を振って戻ってきた。
「だめじゃ、やはりワシには観測できんし、恐らくおぬしも触ったりは出来ぬ物じゃろうな」
どうやら実際の現場にテト様が居ても、因果そのものを確認できるワケではないようだ。
そう簡単に事態は収束してくれないという事だろう。
なんとも先が思いやられる。
「結局この左目だけが頼りですか・・・っと―――」
蝶の確認を終えたところでアンジェの悲鳴が大きくなり、男の一人が馬乗りになる。
「いやぁぁぁぁ! だれかぁぁぁぁぁ!」
さてさて。
記憶の中で言えば347回も殺した相手に申し訳ないが、348回目の痛い目を見てもらうとしましょう。
えぇ、流石にもうそれは手慣れたもの。
たとえ何度繰り返そうとも、私がアンジェを助けないという選択肢はないのだから。
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