祈りの巫女・6
祈りの儀式の準備は進む。
機嫌を損ねたサラだったが、大役をまかされて上機嫌だった。しかも、サラにとっては三度めの儀式。これは非常に珍しいことだ。
秘められた巫女姫が、表舞台に出る唯一の機会。それが祈りの儀式である。
ムテの多くの少女たちがその神々しい姿を見て憧れ、多くの若者たちが将来ひとつ心を分け合い、ともに歩む女性に……と望むのだ。
サラは、祈りの象徴となる。
彼女こそ『巫女姫』としてふさわしいと、誰もが褒め讃えるだろう。そして、大きな名誉を得て村に凱旋する事になるだろう。
三度も大役を果たした偉大なる『祈りの巫女』として、ムテの歴史にサラの名は刻まれるのだ。
エリザもすっかり安静を心がけて、医師の指示に従っている。
サリサには、儀式の準備であまり様子を見にいく暇はないが、リュシュからは報告を受けている。
「それが……故郷に帰ったら、お姉さんにも産着を分けてあげたいとか言って、今度は張り切っているんですけれど……」
「あう、誰にも言うなって言ったのに!」
サリサは頭が痛かった。
霊山にいる限り、嘘がばれる可能性は少ないが、その分、ばれたら……嘘つき確定である。
「でも、正真正銘嘘つきなのですから、仕方がないのではないでしょうか?」
大真面目にいうリュシュの言葉は、何のフォローにもなっていない。
その時である。
最高神官の仕え人が、シェールからの手紙を持ってきた。どうやら緊急の手紙らしい。
「緊急って何ですか? もう、頭が痛いことはやめて欲しい!」
悲鳴を上げながら、サリサは手紙を読み始めた。が……。
『サリサ様、たいへんお困りのようですね。私からの助け舟は、この手紙です。どうぞ、御自由にお使いください』
サリサは、手紙の中を次から次へと、読みまくって……。
そして、リュシュに最高の笑顔で微笑んだ。
「誰が正真正銘の嘘つきですか?」
翌朝、エリザの元に一通の手紙が届けられた。
「これは、内々ですよ。特別に最高神官が許可したのですから」
と言って、リュシュがにこにこしながら渡した手紙は、何と兄からだった。
エリザは驚いて封を開いた。
今まで家族のことであってさえ、霊山の巫女姫に届けられた手紙といえば、母の旅立ちだけだった。つまり、巫女姫には不幸なことしか伝わらない。
悪いことでなければいいのだけど……。
だが、それは取り越し苦労だった。
エリザへ。
約束を守れないことを許して欲しい。
『祈りの儀式』に行くつもりで準備してきたのだけど、妻に子供ができて遠出が出来なくなってしまった。
無理しても行きたかったのだけど、やはり妻と子供の体を第一に考えたい。シェール様と相談して、諦めることにした。
おまえが帰ってくる頃には、四人で迎えることができると思う。
楽しみに待っているから。
エオル。
エリザは、兄の手紙を読んで、ふふふ……と笑った。
「お兄さんったら。私がこの情報を一足先に知っていたなんて、きっと思ってもいないでしょうね」
ムテは実りの秋を迎えていた。
=祈りの巫女/終わり=
*銀のムテ人=第三幕・下 に続く
銀のムテ人 =第三幕・上= わたなべ りえ @riehime
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