第16話 思いも寄らぬドンデン返し!
ここは俺のいた時代から30年後の未来。と言っても直接チャペルを備えたホテル会場の中に素粒子移動して来たのであまり違和感は感じない。俺が廊下を歩いていたら、教会の係の人に、
「井原宏様ですね? 先程から花嫁がお待ちかねですよ。さあ、こちらへどうぞ」
と、俺を花嫁の待合室の前まで案内された。
「コンコン」
「どうぞ」
「ガチャ」
俺がドアを開けた先には、純白のレースの花嫁姿のドレスに身を包んだミィが、後ろ姿からこちらを振り返った。あの赤革ジャケットの赤ベレー帽の腕白娘とは見違える様に、半透明のベールに包まれた細身の小顔が美しい。俺は思わず溜め息を漏らす。
「おぉ……」
「な、何よ」
「い、いや。綺麗だ。本当に綺麗だぞ、ミィ」
「ば、馬鹿! いきなり照れる事言わないでよ! でもありがとう。来てくれて」
係の人から呼び出しがかかる。
「花嫁様、お時間です」
ミィは準備してあったブーケを手にすると、
「行きましょう、ヒロ」
と俺に言った。
礼拝堂のドアが開き、俺はミィの右腕を組み、足を揃えてウェディングマーチと共にバージンロードをゆっくりと歩き出す。礼拝堂の席からは、ミィのあまりの美しさに感嘆の声が漏れる。その中にはドレス姿で着飾ったタマも居た。そして、俺が新郎の立つ場所に居た人物は、何故か見覚えのある顔をしていた。あ、あいつは! 間違いない。年齢は俺より年上に見えるが、あの顔付きは……。それより俺の目に入った式場に下げられた垂れ幕には
「角田惣治・美晴 結婚式」
と書かれている。
ミィがテレパシーで俺にささやきかける。
「そうよ。惣治さんは30年の間、誰とも結婚しないでこの私をを待ち続けてくれていたの。実は私も麻生和佳奈さんと同じ私生児だった。誰とさえ知らない父を恨んで、『生まれて来なきゃ良かった』なんて思ってた時さえあったわ。でもそんな私を見つけて、少女の頃から可愛がってくれたのがあの惣治さん。私がヒロに言った通り、愛は時空を超えたのよ」
決して俺にはそんな素顔は見せなかったミィだったが、あのドSっ気はファザコンの裏返しだったのか。そう考えたらこれまでのセクハラも可愛く思えて来て、目頭がジ~ンと熱くなって来やがった。バージンロードがにじんで歩きにくいじゃねぇか。こんちくしょうめ、ミィの奴。今更、
「惣治さん、あなたは美晴さんを妻とし、神の導きによって夫婦にならんとしています。汝健やかなるときも、病めるときも……、誓いますか?」
「はい、誓います」
「美晴さん、あなたは惣治さんを夫とし、神の導きによって夫婦にならんとしています。汝健やかなるときも、病めるときも……、誓いますか?」
「はい、誓います」
こうして二人の結婚指輪の交換が終わると、今度は会場を移して披露宴が始まった。さすが角田財閥の披露宴だけあって集まった顔ぶれも政界から経済界、芸能界など豪華な面々の様だ。花嫁の幼少からの回想録では、【ハイダーズ】の活躍シーンなどもあったが、俺のドジな所を助けるミィの姿ばっかりが映し出されて会場の爆笑を誘っていた。勘弁してくれ。さて、高級フランス料理をたらふく食べて腹も膨らんだ所で、独身女性達がお待ちかねのブーケトスだ。会場の外へと向かっていると、他の結婚式のカップルの姿が目に入った。その親族達の顔に親近感を覚えた俺は、目をこらしてよく見ると、なんと30年後の俺と妻の亜希子だった! と言う事は、そこに連れ添っている中年の両親の女性の方は澄子! 背がえらく伸びて筋骨隆々の甲子雄夫妻もいる。これは俺の孫の結婚式だったのか。是非覗いてみたい衝動に駆られたが、楽しみは30年後に取っておこう。そんな光景を見ていたら、タマがテレパシーで俺に語りかけて来た。
「そうやで、ヒロ。カースケは可愛い嫁はんもろて立派なメジャーリーガーになったんや。ウチはちと悔しいけど、この時代でもっとええオトコをゲットしたるさかいに見とれや!」
ホテルを出ると、そこにはきらびやかなガラス張りの高層ビルやタワーが立ち並ぶ未来都市の風景が広がっていた。空には流線型のエアカーが往来している。きゃいきゃい騒ぐ独身女性達を背にして、ミィがせーのでブーケを後ろに投げる。我れ先にとばかりにタマがブーケをキャッチしようとしたその瞬間! 周囲の空気がピタっと凍り付いた。ミィとタマの姿もマネキン人形の様に固まって動かない。そこに素粒子から還元されて現れたのは、ピカピカに黒光りする革のボンデージ姿に身を包んだ優子だった!
「お楽しみの所を悪いんだけど、次の依頼が入っているのよね。ヒロくん、来て」
「ゆ、優子? お前、いつから【ハイダーズ】に?」
「あら、ミハルさんから聞いてなかったかしら? やっぱり仕事を管理する身としては、実務も体験しておかなければと思ってね」
混線次元での惣治さんと違って二人目の優子が出現しなかったのはそう言う訳だったのか!
「どう、この格好。似合うでしょう?」
「……、似合う似合わないの問題以前に、単なるお前の趣味だろうがっ!」
「何言ってるのよ、ホントは好きなクセに」
優子は手に持った革の鞭で俺の尻をひっぱたく。
「俺にそっちの
「しらばっくれちゃって。ミハルさんからちゃんと報告は受けてるけど? それじゃあ次のミッションに向かうわよ!」
優子はハイヒールのかかとの先で俺のつま先をグイと踏んづけると、俺の手を無理矢理掴んでバッジに手を触らせた。
「あーっ!」
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