第10話 新たなループが始まった!
待て待て待て! 俺と
「ゆ、優子! ちょっと落ち着け。なんでそうなる?」
俺は優子の手を振りほどこうとするが、優子はさらに押し迫って来る。
「ヒロくんと久しぶりに会ってピンと来たの。『ああ、この人がやっぱり私の運命の人だった』って。あのラブレターにはお返事出来なかったけど、今なら言える。『ずっとずっと、好きだった』って事!!」
なんですと!? じゃあ、俺達は小学生の分際で両思いだったって事か? なんと言うもったいない事を。もしそう知っていたらあのデカパイをあんな事やこんな事……。いや、今その様な不埒な事考えている場合では無い!
「キ、キミも知っての通り、今の俺には愛する妻も子供もいる。付き合うなんて無理だってば」
「そっちの事なら簡単よ。離婚の慰謝料くらい幾らでも払えるわ」
「いや違う、そう言う問題じゃ無くてだな」
「今の私、魅力無い? これでも精一杯頑張っているつもりだけど」
優子はそう言うと、ベッドにゴロンと横になっておもむろに着ている服を脱ぎはじめるではないか!
「や、止めろ、優子! 君は着たままでも充分魅力的だよ!!」
つい、口から出任せ、と言うか、半分は本音が出てしまった。
「あら、せっかく部屋まで取ったのにつれないわね。でもありがとう。ちょっとは希望がありそうね。いきなり無理言っちゃってゴメンなさい。さっきの言葉は頭の片隅にでも良いから置いといてね♡ それから代表取締役の話は本気だからヨ・ロ・シ・ク」
これはつまり、優子は俺と愛人関係になる条件として、破格の待遇でIT企業とやらの椅子を用意してくれると言う事らしい。だが表面上は、あくまで幼馴染のよしみだと言っている。さて、どうした物か。妻の亜希子には、【フィジカル・ハイダーズ】の仕事の話は契約社員なので、俺はフリーターみたいな物だと思っている。優子の紹介とは言え、IT企業の社長になったと言えば、決して悪い顔はしないだろう。そもそも俺は、優子と浮気しようなんて考えはこれっぽっちも持っていない。
良し。決めた。かくして数日後、不似合いなアルパーニのスーツに身を包まれた俺は、渋谷の高層ビルの一角にあるIT企業の社長椅子にどっしりと座っていた。専属の美人秘書がいそいそと美味しいコーヒーなど運んで来てくれるのは嬉しいのだが、パソコンで業務報告とやらを送って来るのには参る。何せ俺は大のパソコン嫌い。キーボードの打ち方すら分かりゃしない。それでも優子の言っていた通り、優秀な部下達が察してくれて、俺はお飾り的な存在で居られる様だ。しかし小耳に挟んだ話では、この社長の椅子は優子の気分次第でコロコロと座る人物が入れ替わっているらしいから、俺もうかうかはしていられない。
午前中は相変わらず優子のフィットネスクラブで過酷なトレーニングの毎日が続いている。少しは慣れて来て、たぷんたぷんだったお腹も少し引っ込んだ気がする。
「ふわぁ~あ」
本革張りの社長椅子の居心地の良さに加え、何もする事が無いのでつい眠気が俺を襲う。もう一杯ブルーマウンテンのコーヒーを頼むとするか。お茶請けの高級洋菓子も美味い事だし。デスクの電話の内線で秘書を呼び出すと、間もなく「コンコン」とノックの音と共に秘書が入って来た。
「失礼します」
だが、秘書がテーブルにコーヒーカップを置こうとしたその瞬間、彼女はマネキン人形の様に凍り付いた。まさか。またかよ? 未来から来た美少女エージェント、ミィが俺の前に姿を現す。
「ヒロ、仕事よ」
「……、了解」
どんな仕事かは分からんが、汚れ仕事に決まっているのでアルパーニのスーツからボマージャケットに着替えて、俺達は別の時間軸へタイムスリップした。
着いた先はとある高層アパートの最上階。俺はミィから持って来る様に言われた望遠マイク付きの双眼鏡で、向かいのアパートにいる女子高生らしき人影が床に花束を捧げるのを見守っていた。
「トモ君。御免なさい。私、何も分かってなかった」
聞き覚えのある声。すすっと上げたその顔。それはまさしく我が愛娘、
「ミィ、これは一体どう言う……」
「今回の依頼者は未来のヒロ自身。と言うのはね。
俺は父親として愕然とする。『また身投げかよ』と言うツッコミ以前に、これは我が愛娘の命に関わる重大な問題だ。何故最近の若者達は、親からもらった命をそこまで粗末にするのだろうか?
「俺のスーが!? そんな馬鹿な! それにスーに彼氏がいるなんて話、聞いて無いぞ?」
「娘さんは父親にそう言う事話しづらいんじゃない? だからヒロ、このミッションをクリアするには、過去に戻って前園君の身投げそのものを阻止するしかない」
むむむ、娘の彼氏を助けるだと? 父親としては何とも複雑な心境だが、愛娘を救う為とあっては何としても遂行しなきゃならんだろう。てか、なんで未来の自分が依頼して来るんだ? 俺はミィに聞いてみる。
「未来の俺が依頼主なら、自分で解決すりゃあ良いだけの話じゃねーか?」
「それは時間軸が変わる前の話。ヒロが【ハイダーズ】になった時空とは次元が違うのよ。依頼があったのは
「パラ、何だって?」
「この宇宙には、分岐点から別れて無限の時空が展開し、存在し続けてるって事。どうせヒロには難しい理屈なんて分かりっこないだろうから、さっさとミッションを実行しましょ!」
しかし、どうしてミィは落ちるミッションばかり俺に振って来る? キリストクロスの切り方だけは練習しておこう。もう二度と身代わりになって落っこちるのだけは御免だぞ!
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