第11話 不本意な人物に会ってしまった!
過去に戻って、愛娘スーの彼氏とやらの前園知哉の素行を調査する事にした俺とミィ。前園君の下校時間を狙って尾行を開始したのだが……、周囲から俺だとバレない様にハンチング帽にサングラス、マスクと変装したのがかえってマズかった。オマケにミィは未来姿のまんまの赤ジャケットに赤ベレー帽。
「おいミィ、なんか俺達、通行人からジロジロ見られてないか?」
「んー、そうねぇ。確かに不審人物っぽいかも」
ちなみにミィは、俺の意識の中に現れている時には、周囲の人間達の意識の中にも現れてしまう。俺とミィは物陰に隠れると、ミィは普通のOL風に変身し、俺は髪型をスタイリング・フォームでオールバックにして黒ぶちの伊達眼鏡にしてみる。うん、これならなんとかOKだろう。再び校門の見える物陰で前園君を待ち受けていると、
「トモくぅ~ん! 待ってよぉ~」
黄色い呼び声と共に、学校帰りの前園君に駆けて来たのは澄子だった。
澄子は前園君に近寄ると、イチャイチャと楽しそうに会話している。くそぉ~、スーの奴。急に色気付き始めたと思ったら、あんなモヤシ野郎とデキてたのか! いやいや、見ようによってはスー好みの文学青年。分からんでも無い気もして来た。それに思い詰めて後追い心中するなんて、よほど惚れていたのに違いはない。父親としては神妙な思いだが、責任は重大だ。さて、スーは何故行き違いでこの文学青年を振る事になってしまったのだろう? まずはその成り行きを見定めば。この後、確かスーは進学塾に向かう筈、と思ったら二人は手に手を取って別の方向へ歩き出した。
「ん? スーの進学塾とは行き先が違うぞ?」
「このまま尾行を続けるのよ、目立たない様にね!」
二人が入って行ったのは雑木林が生い茂る
「ヒロ! まだ出て行ったらダメ!」
ミィが俺の動きを制する。すると、
「イヤっ!」
「バッチーン!」
と境内に響くビンタの音と共に、スーが神社から駆け出して行った。良くやった、我が愛娘よ。取り残された前園君はと言えば、しょんぼりするどころか目に涙さえ浮かべている。もしかしてこれが原因か? う~む、愛娘に手を出そうとしたフトドキ者とは言え、同じオトコとして気持ちが分からなくも無い。何しろスーは年頃の子と比べてもかなり発育が良い。父親ながら、風呂上がりの娘と遭遇するとドキッとしてしまう位だ。もしこれが同年代の男の子だったら、そっちの気持ちを抑えるのもままならんだろう。それに今回のミッションは、コイツの身投げを止めるのが目的だ。俺は少々ためらいつつも、そっと前園君の前に歩み寄る。
「や、やあ。君が前園知哉君だね?」
「貴方は、どなたですか!?」
「私は井原宏。澄子の父親だ」
前園君は明らかにうろたえて、
「スーちゃんのお父様!? ひょっとして今のずっと!?」
「ああ、悪いが見させてもらっていた。父親としては極めて感心せん行為だ。本当なら、『馬鹿野郎、俺の娘に何をする!』と殴りつけていた所だ」
「殴って下さいっ! いっその事!!」
「生憎と、俺は暴力は振るわない主義でね」
「自分でも恥ずかしい事をしたと思います。それで彼女を深く傷つけてしまった。ああ僕はどうしたら良いんだろう。いっそ消えて無くなりたい」
無口そうだった文学少年が、俺に思いの丈を吐露してきた。またミィが前園君をマインドコントロールしているのだろうか?
「そんな風に思うんじゃない!」
俺は思わず前園君を𠮟りつける。
「いいんです、僕なんか。彼女が居なくなったら、もう僕の人生には何の価値もありはしない」
「君はそこまで澄子の事を思っているのか?」
「はい。僕にとって、彼女はこの世のすべてだったんです。学校でいつも本ばかり読んで一人ぼっちだった僕に初めて声をかけてくれて、いつも優しく接してくれた。そんな彼女の事を、僕は心の底から大事に思っていた筈なのに!」
前園君は、ポロポロと大粒の涙をこぼしはじめた。
「俺は自分の娘だから知っているが、澄子はとても良い子だ。あの事だって、一時の気の迷いだったんだろう? だったら決して君の事を嫌いになったりしないと思うぞ?」
俺は断腸の思いで、苦肉のセリフをひねり出す。
「本当にそう思われますか……?」
「ああ、そうだとも。今すぐにでも謝罪のメッセを打つが良い。既読スルーされても打ち続けるんだ。気持ちが伝わるまでね」
前園君は、ふと顔をあげて、
「そうしてみます。ありがとうございました。それから……、本当にすみませんでした。お父様の大事な娘さんに、はしたない事をしてしまって」
「なぁに、若い頃には良くある事さ。これからは娘の気持ちを大切にしてくれよ」
前園君が去った神社にポツンと立つ俺に、ミィが声を掛けて来た。
「よっ、お父様。ミッション・コンプリート! でも、ちょっとカッコ付け過ぎじゃなかった?」
「てやんでぇ! おめぇなんかに娘を持った父親の気持ち分かってたまるかってーの! 俺は一杯ひっかけてから
俺は悔し紛れに江戸っ子のべらんめえ口調になる。
「そうですか、んじゃご自由にどーぞ。帰り方はバッジにリターンの頭文字、”R”を刻んでね」
「わーったよ!」
行きつけの下町の居酒屋で、俺はホッピーを呑みながら焼き鳥を突ついていた。
「ちーちゃん、もう一杯!」
ちーちゃんとは、この居酒屋でも若くて美人のアルバイト。看板娘の人気アイドル的存在である。
「珍しいですねー、ヒロさん。今日は呑み過ぎじゃ無いですか?」
「いいんだよぅ。たまにはこう言う日だってあるさぁ。あとタンとカシラとをタレでお願い」
「かっしこまりぃ~」
ちーちゃんの某元気娘キャラの決めゼリフがワハハと店内の笑いを誘う。その時、ガラっと店の引き戸が開いて、一人の客が暖簾をくぐって入って来た。
「らっしゃいませ~! って、ヒロさん??」
ちーちゃんの声が凍り付く。振り向いた俺の視界に入った人物は、過去の俺その人だった。
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