第6話 美少女に弱みを握られてしまった!
私の名前は
上司からの指令を受けて、過去の時代の
案件の対象である自殺志願者、
梨花さんは今、上野公園のベンチで鳩にパン屑をやっている。時刻はもう高校の下校時刻をとっくに過ぎているし、やっぱり梨花さんは家には帰らないのかしら? ご両親だって私達に依頼してまで彼女の命を取り戻そうとする位だから、心配していない筈は無いじゃない。
ここは一つ、ヒロの腕試しと行くか。
「ヒロ、何かいい手はないの? ナンバーワンのヒーローさん?」
ヒロはしばし思い悩んでいる。
無理も無いかな。
前回の反応だと彼女は相当のオヤジ嫌いか男性恐怖症の様だし。
「そうだ、ミィ。お前は姿を変えられるんだよな、ひょっとして何にでも?」
「何にでもって訳じゃないけど、未来のデータにある物くらいになら」
「じゃあお前、子猫になれ」
「え、子猫? なんでよ?」
「未来にだって子猫くらいいるだろ。さっさとやってくれ。なるべく可愛らしい子猫だぞ」
私はイマイチ意図が理解出来ないでいながら、シュシュっと小さくなってキジトラの子猫に姿を変える。
「おお。まるでウチの飼い猫のミィそっくりだな」
「ふにゃあ?」
「よし、上出来だ。そのまま彼女に近づいて行け」
「ふにゃにゃん」
私は子猫の姿のまま、トットットッと梨花さんに接近する。
だが、梨花さんはここで思わぬ反応を示した。
「キャアっ!」
「なんだなんだ?」
ヒロは心の中で叫ぶと梨花さんに駆け寄る。
「どうしました?」
「そのケダモノを近づけないで!」
どうやらヒロは、
「ヒロ、こうなったら強行突破よ!」
ヒロは私を小脇に抱き上げると、
「すみません、ウチのミィが。普段甘やかせているせいか、誰にでもなついちゃうんですよ」
「アタシはチョー猫アレルギー持ちなのよっ! お願いだからどっかに行って!」
これでは話の進めようが無いじゃないのよ。
困り果てたヒロがつぶやく様に私に、
「どうするよ?」
と話しかける。あたりの景色を見渡した私の頭に、あるアイディアが閃いた。
「いい考えを思いついた。ちょっと見てて」
私は公園の木々にとまっていたカラス達をマインドコントロールすると、梨花さんめがけて襲いかからせる。
「ギャアァッ! ギャアァッ!」
「わわっ! なんなのっ! 怖いっ!」
梨花さんはとっさにベンチの陰に身を隠す。
「ニャウっ!」
カラス達の大群に立ち向かう子猫の私。
「フガーッ! フガフガッ! ガゥオォゥゥゥン!」
私はカラス達の脳に、子猫が大きな虎に変貌する幻覚を送り込む。カラス達は、私の姿に恐れをなして退散して行った。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
ヒロの問いには答えずに、梨花さんはベンチの影から身を起こす。私は再び子猫の姿で梨花さんに近づき、身体にすり寄る。
「ごろにゃぁん?」
「え? この子が、アタシを助けてくれたの?」
幸い、虎に変身した姿は見られていなかったみたいだ。
「ニャァン。ゴロゴロ」
梨花さんは思わず私を撫でる。
「ごめんね、ケダモノなんて呼んじゃって。あれ、おっかしいなぁ。チョー猫アレルギーだった筈なのに、全然平気だ」
私はここぞとばかりに梨花さんの心の中に入り込んで、マインドコントロールで身投げの理由を自白させる。
梨花さんはポツリポツリと語り出す。
「ウチの台所の軒下にお母さん猫が住みついて、子猫をたくさん産んじゃったの。家族のみんなは喜んで飼い始めたんだけど、猫アレルギー持ちのアタシだけが居づらくなっちゃったんだ。そいで公園やネカフェを転々としてたんだけど、エロいオヤジ達から
そう、そう言う訳だったの。思い出してみれば、尾行中に何人かの男から声を掛けられていたのを目撃していわ。
純粋な少女相手にけしからぬ輩も居る物ね。それに帰る場所が無かったり、孤独になると言うのは確かに辛い物でしょう。猫アレルギー言えばと、ヒロは自分の経験談を話し出した。
「実はウチの娘も猫アレルギー持ちだったんだけどさ。病院でアレルギー治療したり、家の中をこまめに掃除してたら全然平気になったよ?」
それを聞くなり、梨花の顔はいきなりパァっと明るくなる。
「ホントにそんな方法あるの? じゃ、アタシもやってみよっかな。ウチの人に相談してみる」
「ああ、そうしてみ」
ここでヒロは、梨花さんの高校の話を振ってみる。
「あれ、その制服。ひょっとして君、D高校?」
「そうよ。三年生だけど」
「偶然だなあ。ウチの娘もD高校の三年生だよ。
「あー、前におんなじクラスだった。割と成績良い子だよね」
「ちょうど良かった。娘にも話しておくから友達になってやってよ」
「そーだね。同じ猫アレルギー同士、話合うかも。あ、アタシは小林梨花ね」
「よし、じゃあミィ。そろそろ帰ろうか」
ヒロが梨花さんに近寄って私を抱き上げようとすると、なんと梨花さんはヒロをいきなりローキックで蹴り飛ばした。ヒロはすっ転んで道に倒れる。
「あてっ! こ、小林さん? いきなり何を!?」
「あ、ゴメン。つい反射的にやっちゃった。アタシはオヤジアレルギー持ちなの。これだけはどーしても治らないみたい」
そう言うと梨花さんは立ち上がり、ヒロの肝臓あたりに全体重を乗せてグッと踏んづけた。
「ぐあ」
「あースッキリした。これまでの
なんとも滑稽な風景に、私は笑いをこらえきれない。
子猫の私をちょこんとベンチに置くと、梨花さんはスタスタと家路に着いて行った。
「うう、俺とは関係ねぇだろ……」
ヒロは腹部の痛みを押さえてようやく立ち上がり、服に付いた砂ホコリをパンパン祓いながら人間の姿に戻った私に文句を言う。
「ミィ、梨花をマインドコントロールして身投げの動機を聞き出せるなら、なんで最初からそうしてくれなかったんだ?」
「ヒトの心をマインドコントロールするのって、そう簡単に出来るものじゃ無いのよね。今回は梨花さんが子猫の私に心を開いた瞬間に入り込めたのよ」
「そうなのか?」
「梨花さんが猫アレルギーだったなんて情報は未来にも無かった事だから。言ってみれば、ヒロのアイディアのケガの功名って所かな」
ヒロは不満げな顔をしながら私に問う。
「あんまり自慢出来ない功名だな。ところでミィ、今回の俺は【フィジカル・ハイダーズ】として本当に活躍出来たのか?」
「ちゃんと役に立ってたよ、肉体を持つ実存体として」
「それって、どんな風に?」
「梨花さんのストレス発散のお相手! ヒロもまんざら心地悪そうな顔してなかった様に見えたけど?」
ヒロの弱点、見ぃ~つけた!
「どーゆー意味?」
「何なら私も踏んであげよっか?」
「………………! 俺にそっちの
私は「ミッション・コンプリート!」と言いつつ、横目でヒロをチラ見しながら「ニヒヒ」と笑った。
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