第10話 これは運命の再会!?
私こと上條美晴、愛称ミィは、先輩の篠原環さん、愛称タマさんと、ヒロこと井原宏さんの娘さんであるスーちゃんと一緒に、日曜日は東京のテーマパークで遊びまくり、女の子としての一日を楽しんでいた。スーちゃんとはほぼ同い年と言う事もあってすっかり仲良しだ。ただし私とタマキ先輩は30年後の未来から来ているので、音楽やアイドルの趣味の話となると全くチンプンカンプンだったけど。それでもこのテーマパークは30年後も健在で、キャラクター達は私もお気に入り。3人で写メを撮ったり、UFOキャッチャーでぬいぐるみをゲットしたり、ワイワイ言って盛り上がった。ひとしきり遊んでみんな帰る頃にはグッタリ。スーちゃんは家に帰ったらもうスースースヤスヤ。私達は明日からの仕事に備えなきゃ。私とタマキ先輩は、一緒にお風呂に入って念入りにお肌のお手入れ。華のOLとして働くんだから手を抜く訳には行かないわ。私は髪が短いから先に上がって洗面所でドライヤーを使おうとしたら、ドアがガラっと開いてヒロとバッタリ目が合ってしまった。
「きゃあっ!」
「うおっ! なんだ、居たのか。すまん、すまん」
「ヒロ、見〜た〜わ〜ね〜っ!」
「み、見てねーよ! 第一、お前じゃ見るトコねぇじゃねーか!」
「しっかり見てんじゃないのよっ! このラッキースケベオヤジっ! 後でタップリ踏んづけてあげるから覚えてなさい!」
「どうかそれだけはご勘弁を!」
全く油断も隙もありゃしない。第一『見るトコ無い』なんて失礼しちゃうわ。自信無くしちゃうじゃないのよ。普段から気にしてる事なんだから……。
「どないしたん? 大声が聞こえたけど?」
「なんでもないわ。ちょっと変態オヤジに覗かれただけ」
「あー、そんなん気にせん気にせん。ウチのやったらナンボでも見せたる」
ちょっとタマキ先輩? それどう言う意味ですか? ただでさえ先輩の服装は露出過多だと思うんですけど……。さて翌日の月曜日。スーツ姿に身を固めた私達は、意気揚々と朝一番で麻布の優子さんの本社へハイヒールがカッカッと乗り込んだ。
「おはようございます」
「おはよう。今日から貴女達は庶務課に勤務してもらうわ。こちらが課長の近藤さん。彼の指示に従ってね」
「ハイっ。どうぞよろしくお願い致します!」
ん? 庶務課ってどんな仕事する所だっけ? この時代の会社の事は良く知らないけど、とりあえずこの近藤課長に付いて行こう。私達が入った庶務課のオフィスはなんだか小汚い部屋で蛍光灯もチカチカしている。近藤課長は、
「詳しい仕事の内容は、チーフの坪井さんから聞いてくれたまえ」
と、早速仕事を丸投げする。課長の目線の先には、なんだか意地悪そうな中年のオバサンが座っていた。
「アンタ達が今度配属されて来たって言う新人達ね? 履歴書も何もないから怪しいもんだけど、会長さんの直接の世話だって言うから特別に面倒見てあげるわ。今日は会社に送られて来た郵便物を各部署に区分けして配達よ」
え〜っ! オフィスワークだって言うからてっきりパソコン使ってデータ入力でもするのかと思ってたけど、また肉体労働ですかぁ!? 私とタマキ先輩は、ドッサリある郵便物の宛先を一つ一つ見ながら会社の部署表と見比べて整理整頓し、今度はそれが入った箱を両手に抱えて二階から二十階までの各オフィスまで配って回る事になる。電子メールって便利な物があるんだから、何もわざわざこんなアナログ的な通信手段を使う事無いじゃない? 肉体労働だって知ってたらハイヒールじゃなくてパンプスを履いて来るんだった。配っても配っても郵便物は減らないし、もうかかとが靴ずれして来て痛いよう。お昼ご飯は、社食は満員で入れなかったので近くのコンビニでサンドイッチと飲み物だけで我慢した。
「なあミィちゃん、ウチらまたこんなんでどこまで続けられるんやろか?」
「続けるしかないでしょ? 次元転移装置が直るまで」
「いつになったら直るんやろなあ」
さあて、アテの無い話をしていても仕方が無いし、お腹も膨らんだ所で残りの郵便物をやっつけるとするか! 腕が筋肉痛でピキピキするけど我慢しながら運んでいたら、うっかりエレベーターホールですれ違った人とぶつかってしまった。郵便物がバラバラとホールに散乱する。
「おっと、すみません。大丈夫でしたか?」
「こちらこそ、ぼんやりしていてごめんなさい」
顔を上げて相手の顔を見ると、どこかで見た事のある顔だった。この人はあの角田惣壱郎社長の息子、角田惣治じゃない! 惣治さんは『ハッ』と言う顔をして私を見つめると、
「失礼ですが、私達。どこかでお会いした事はありませんか?」
と聞いて来る。そんな筈は無い。確かに別の次元で出会ってはいるけど、あれはあくまでパラレルワールドでの話。この次元での惣治さんにその記憶が残っている事は有り得ないわ。
「いえ? 初めてお会いしますけれど?」
エレベーターホールで惣治さんを待っていた引率の先生らしき人が声をかける。
「おい角田君、何をしているんだね。行きますよ」
「先生、申し訳ありませんが先に巡られていて下さい」
「うむ。急ぎなさい」
惣治さんは私に向き直ると、
「先程はご無礼致しました。私は角田商事社長の息子、角田惣治と申します。今日は大学の研修で御社にお邪魔している所なのですが、この度のお詫びをしたいので、是非とも貴女のお名前と電話番号、ラインIDの交換を……」
なんなの、このデジャヴ!? 偶然にしてはあまりに出来過ぎているわ。別次元での出会いによってこの人との因果関係が結ばれてしまったのかしら? それにこの男の私への一目惚れ、遺伝子レベルにまで刷り込まれてるとでも言うの!? あ、でも聞かれた私の名前、首から下げてる社員証でバレバレだわ。彼のコネを持ってすれば、連絡先を調べ上げる事なんて朝飯前の筈。ここは無理して断るより、素直に従っておいた方が無難な様ね。
「そんな、お詫びだなんて勿体無い。私は弊社の契約社員、上條美晴と申します。連絡先は……」
惣治さんに連絡先を教えたその日から、彼の猛アタックが始まった。熱烈メッセから住所を聞き出し、プレゼント攻撃、デートのお誘い、歯の浮く様な口説き文句の数々。私はどうせこの時代の人間じゃないんだし、いずれ未来に帰っちゃうんだからと、口には出さねどケンもほろろに断っていたのだけど、彼は打たれ強いのか鈍感なのか、はたまたM気質なのか喜び勇んですり寄って来る。最初はいけ好かない奴だと思っていたけれど、尻尾を振って付いて来る子犬の様なあの態度。私もなんだか段々彼の事が嫌いじゃなくなって来た。
「ミィちゃん、ごっつええ顔しとるで。恋するオンナの顔」
「え? そ、そう?」
ヒロはそんな私を見て呆れ顔をして、
「ミィ、お前まさか本気であの惣治さんと付き合うつもりじゃないんだろうな?」
「あら、いけない? 恋愛は個人の自由よ」
「そやそや、ヒロは他人の恋路を邪魔したらアカン」
「自分が未来から来たエージェントだって事を忘れてるんじゃねぇのか?」
「愛は時空だって超えるわ。ヒロと亜希子さんの様にね」
「マ、マジかよ?」
さっきのはちょっと大袈裟だったけど、私だってお年頃の女の子。一回くらいデートしたっていいじゃない? 早速私は惣治さんのラインのお誘いにOKの返事を出すと、デートの約束を取り付けた!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます