第15話 やはり元凶はここだった!
包丁を構えた亜希子がいる俺の家からすんでの所で逃げ出し、ようやく近所の公園で一息付きながら俺は考えていた。ミィに現在からやり直せと言われてみた物の、俺には
「ミィ。あの写真には全く身に覚えが無いんだが」
ミィは首をかしげながら、
「そうだなぁ、あり得るとすれば混線次元、かしら?」
「なんだそりゃ?」
「ヒロが過去のヒロと
「って事は、この世に俺や優子が二組いるって事か?」
「だってヒロは優子さんと浮気はしてないんでしょ?」
「天地天命にかけて、してねぇ!」
「だったら、可能性としてはそれしか無いわ。その二人を見つけてヒロの無実を亜希子さんに証明するのね」
そう言えば、さっき優子からヘンなメールが入っていたっけ。現在、俺は二つの携帯を使い分けている。元から持っている私用のガラケー携帯と、社長になってから優子に買ってもらった社用のスマホ。メールが入っていたのは私用の方だ。メールの履歴を見てみると、いつのまに蓄積されていたのだろうか、優子と過去の俺との怪しげなやりとりがズラッと出て来た。待ち合わせのホテル名まで書かれている。これは間違いない。この優子もその混線次元とやらの優子さんだろう。よく見ると、登録された電話番号やメルアドが異なっている。あちらの次元の優子さんにも俺が未来から来た事は説明済みだったが、この複雑な状況は明日、現場に出向いて直接説得するしか無いだろう。今日はとりあえずビジネスホテルにでも泊まるとするか。あ、でもミィと一緒はマズい。
「ミィ。頼むからここではサラリーマン風にでも化けてくれないかな?」
「え? ああ、それもそうね。これ以上誤解を生むと余計にややこしくなっちゃうし」
ミィは公園のトイレに入ると、一見どこにでも居そうなサラリーマンに変身して来た。俺達はビジネスホテルのツインルームに入ると、
「ねえヒロ? 部屋の中だけでも元の姿に戻って良い?」
「構わんが、どうしてだ?」
「別の姿に変身している時って、かなり精神力を消耗するのよ。疲れちゃって眠れない」
「そうだったのか」
「あ、それから何度も言うけど、寝る時は何も着ないで寝るから、こっち見ないでね」
「分かってるよ!」
くっそ~、ミィの奴ぅ~。いつもいつもオヤジ心を弄びやがって! ツインベッドの背後では、全裸の美少女が横たわっている……。まったく昨日と言い、今日と言い、寝不足気味は勘弁して欲しい。
翌日、ミィ扮するサラリーマンは俺と一緒にフィットネスクラブで汗を流すフリをし、偽のビジターIDでIT企業の社長室でブラブラ過ごし、ちょっと早めに退社すると、目的のホテルのある場所へとやって来た。ホテルの前で待ち構えていると、案の定優子さんともう一人の俺が仲良く手をつないでやって来た。
「やあ、ヒロさん」
俺は迷わず声を掛ける。優子さんともう一人の俺は、ちょっとビックリしながらも、
「あれ、ヒロさん? その節はどうもお世話になりました。それで今日はどうしたんです、こんな所で?」
「それがちょっと事情がありまして。込み入った話なので、場所を変えてお話出来ませんか?」
さすがにラブホに入るのは避けたい。高級ホテルに移動すると、スィートの部屋を取って二人を案内する。もう一人の俺は、サラリーマン姿のミィを見て、
「ヒロさん、こちらの方は?」
「ああ、ご紹介がまだでしたね。ミィ、もういいぞ」
ミィは元の美少女の姿に変身する。二人はキツネにつままれた様な顔をしている。
「まだまだこんなんで驚かれてはいけませんよ」
「ちょっと失礼しますね」
と言ってミィは二人の身体をすり抜けると、二人は悲鳴を上げる。
「まあまあ落ち着いて下さい。真実を聞いてもらうにはこれくらいしておかないとと思いましてね」
スィートルームにあったブランデーを飲んで落ち着いた二人は、俺やミィが話していた事を半信半疑で聞いていたが、ようやく事態を飲み込めた様だった。もう一人の俺が口を開く。
「それで、俺達の写真を見て、貴方の奥様が貴方の浮気と誤解なさったと?」
「そう言う事らしいんです」
「じゃあ、簡単じゃないですか。俺達が奥様の前に堂々と出て行って、実は俺達でしたと言えば良い」
「お願い出来ますか?」
「もちろんですよ、なあ優子?」
「ええ、いいわよ」
話は案外すんなりとまとまった。あとは亜希子の様子を伺うだけだ。電話してみるが、やはり着信拒否されている。仕方なくスーに掛けてみる。
「プルルル、プルルル、ピッ、あ、パパ?」
「おう、スー」
「どうしたの? 昨日は帰って来なくって。心配してたんだよ?」
「ああ、すまんすまん。ちょっと色々あってな。それで亜希子の事なんだが」
「うん、ママも様子が変なの。今日は朝から会社を休んで、ずーっとお酒ばっかり飲んで酔っぱらってる。ケンカでもしたの?」
「そ、そうか。まあ、実はそんな所なんだ。それで今から帰ろうと思うんだが、亜希子は話が出来そうな状態かな?」
「どうだろう? なんか寝ちゃってるみたいだけど」
「う、ちょっと待っててくれ」
俺はミィに話しかける。
「亜希子は今、酩酊状態だそうだ」
「大丈夫。私が処置する」
「助かるよ」
俺は再び携帯を手に持つと、
「もしもし、スー? とにかくパパはお客様を連れて今から帰るから、スーとカースケはおとなしく部屋でじっとしていなさい」
「分かった。信じてるよ、パパ」
さあて、いよいよだ。あの亜希子が一筋縄で納得してくれれば良いのだが。ミィ、イザと言う時は頼んだぜ!
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