第3話 告白作戦は大迷路!

 翌日の麻生和佳奈さんは、同じクラスのグループ女子の堀川さんと竹井さんと三人で行動する事になっていた。彼女達の高校であるF学院と言えば、中学、高校一貫教育でも有名な私立の由緒正しい名門学校だ。俺もタマとミィとでさりげなく話を合わせて麻生さん達と行き先を一緒にする事にし、どう角田惣治君を誘い出そうかとアイディアを巡って頭をひねっていた。


「う~ん、私は惣治さんの電話番号もラインIDも知らないし、男子と女子は朝から別行動だから……」


 すると、俺とタマを目敏めざとく見つけた角田惣治君が近寄って来る。


「おや? 君達は昨日の。はて、一緒にいる貴女は……、もしかして上條美晴さんでは?」

「そうよ。まさかスケバンの格好で街を歩くのも恥ずかしいじゃない」

「あの颯爽さっそうとした姿も素敵だったが、清楚な制服姿も可憐かれんで美しい」


 俺はなんだかコイツのセリフを聞いているだけで身体中がムズムズして来た。


「今日は僕らも自由行動です。お許し頂けるならご一緒しても宜しいですか?」

「お許しも何も、ここは自由の国よ。勝手にすれば?」

「では、仰せのままに」


 これはちょうど良い。どこかで麻生さんと角田君を二人きりにさせて、麻生さんに告白するチャンスを与える事が出来る。飛んで火にいる夏の虫だ。


「それで、ミハルさん達はこれからどちらへ?」

「テーマパークへ行くのよ。混みそうだから急ぐわよ」

「でしたらその必要はありません。父が大株主なのでコネでロイヤル・エクスプレス・パスが入手出来るんです。待ち時間無しでどれで入れますよ」

「あら、あなた意外と役に立つじゃない?」


 むぅ、コイツ、キザなだけじゃなくて金持ちのボンボンだったのか。ますますムカついて来た。俺は心の中でミィに話しかける。


「おいミィ。あんまり調子に乗るなよ。俺達の目的はあくまで麻生さんと角田君をカップルにする事なんだからな」

「分かってるってば」


 タマは麻生さんに耳打ちする。


「和佳奈ちゃん、これがチャンスや。しっかりと角田君の心をゲットするんやで!」

「ハ、ハイ!」


 テーマパークに入場して様々なショーやライドを体験し始めたのは良かったのだが、俺達の人数は9人と多くて中々麻生さんと角田君を隣り合わせに座らせる事が出来ない。タマが見かねて麻生さんのクラスメイトの堀川さんと竹井さんにもこっそりと耳打ちする。


「なあなあ、和佳奈ちゃんは角田君に惚れとんねん。なんとかあの二人をくっつけられへんもんやろか?」

「え~っ? なんかそうかなとは思ってましたけど、まさか本当にそうだとは」

「今日告白するつもりらしいで」

「それは私達も応援しなくちゃ!」


 堀川さんと竹井さんは普段から麻生さんと仲が良いらしく、ノリノリで支援体勢になってくれた。次の体験アトラクションである大ザメが襲って来る奴では、角田君の友達二人を無理やり引っ張って横に堀川さんと竹井さんがそれぞれ陣取り、俺はタマとペアを組んで座った。角田君は麻生さんとミィに囲まれて両手に花。このスリル溢れる体験に乗じて角田君の心の隙を狙い、ミィに角田君の心をマインドコントロールして麻生さんに目を向けさせようとする作戦だ。じわじわと恐怖感を煽るBGMと共に、本物の水しぶきを上げて凶暴な牙を向けた大鮫(これは精巧な作り物)が迫り来る。


「キャーッ!」


 女の子達があまりの恐ろしさに悲鳴を上げる。麻生さんも思わず角田君の腕にしがみつく。


「今だ、ミィ!」

「あれ? 角田君の心が全然動揺していない」


 角田君は平然とした顔をしてミィの方を向き、


「ミハルさん、怖くはないですか? 僕、これ去年も観たんですけど、そろそろ演出変えた方が良いですよね」


 なんだと? どこまで生意気な奴なんだ!? その後、世界でもお墨付きのジェットコースターに乗るも、角田君はスースー顔。どうも彼はこのテーマパークは毎年の常連で、すでに慣れっこになっているらしい。俺は何回乗っても怖かったんだけどなあ。ランチタイムではテーマパーク内にある大阪名物のアツアツふわふわたこ焼きを皆で頬張る。ミィとタマはもちろん食べている幻覚を皆に送り込んでいるだけだが、タマはそれを良い事にどんどんお代わりをしている。


「アッツぅう~、でもこれがホンマもんのたこ焼きや~。久しぶりに食うた~」


 俺は心の中でタマにささやきかける。


「タマ、そんなに喰って平気なのか?」

「喰ってもウチの腹には入らんから太らへんし。そやけど美味ウマさだけは味わえるから、ミッションで喰える食事はサイコーやわ~!」

「こらこら、そんなに呑気な事言ってる場合か?」

「そやった、そやった。なあミィちゃん。どないしよ~?」

「彼は中々手強いわ。この私にもマインドコントロールする隙を見せない。ヒロには何か考えは無いの?」


 そんな時に場内に迷子のアナウンスが流れる。これだ!


「そうだ! 角田君が駄目なら、彼の友人達をマインドコントロールして、麻生さんと角田君を二人っきりで広いテーマパークで迷子にさせるってのはどうだ?」

「それはなかなか妙案ね。早速やりましょう」


 ランチを終えると、次のアトラクションに向かうフリをして秘かに俺達は角田君と麻生さんを先に向かわせ、気が付かれない様にひっそりと姿をくらます。堀川さんと竹井さん、角田君の友人二人のスマホの電源も切らせておいた。俺達7人が居ない事に気が付いた角田君が、


「あれ? ミハルさん達が見当たらないが。どこに行ってしまったんだろう?」

「堀川さんと竹井さんも居ない。ちょっと電話してみるね……、おかしいな、圏外になってて繋がらない」

「俺の友人達の方もそうだ」

「きっと違うアトラクションに行っちゃったんだよ。勿体無いから私達だけでこれに入らない?」

「それもそうだな」

「私、実は結構怖いの苦手なんだけど、これ大丈夫かな~。でも角田くんと一緒なら平気かも」


 一方、俺達は堀川さんと竹井さんを角田君の友人二人とくっつけて別のアトラクションに乗せると、麻生さん達の動向を伺っていた。やったぞ、二人はゾンビが出て来るホラーハウスに入っていった。これは今年から始まった最新の奴なので、流石の角田君だって初体験の筈。俺とタマ、ミィは気が付かれない様にバッジのパワーで一般人に姿を変えて、麻生さん達の後から迷路型のホラーハウスに入って行った。これは入場する前に誓約書にサインさせられる正体不明のレベル10の最悪恐怖ハウス。俺と亜希子が来た時にもさすがに敬遠していた物だった。入ってみたは良かったが、元々ホラーが苦手な俺はあまりの恐怖に心身喪失寸前。瀕死の思いをしてゼェゼェ言いながら出て来た。さて肝心の角田君はと言えば、ケロっとした顔をていて、今にも泣き出しそうな麻生さんにハンカチを渡している。


「どう? 楽しんでくれたかな? 僕は無類のホラー好きでね。このアトラクションの演出も父に頼まれたので、僕が協力してシナリオ書いたんだよ。結構評判良いらしくて喜んでるんだ」


 どんだけ小癪こしゃくなガキなんだよっ! あれほど決心を固めていた麻生さんもヒィヒィ状態で告白どころでは無い状態だ。角田君のあまりの無敵ぶりに、俺達はなす術も無く言葉を失っていた。

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