第2話 スケバン美少女大乱闘!
角田惣治からタマへの突然の申し出に、タマも目を泳がせて戸惑っていた。
「え、え~っと。それはどないゆう事でっか?」
「いきなり失礼な事お尋ねしているのは承知の上です。ですがどうやら僕は貴女に一目惚れをしてしまった様だ」
この角田君の大胆発言に、麻生和佳奈さんの顔はすっかり青ざめきっている。
「そないな事アカン! ウチにはこの井原宏っちゅう
「あ、ああ。すまないが角田君とやら。篠原環は俺の彼女なんだ」
「それは気が付きませんでした。ですがこの恋心はどうした物でしょう? もうタマキさんの美しい姿は心に焼付いて忘れられそうにありません」
よくもこんな歯の浮く様なセリフが出て来る物だな。俺は心の中でタマに話しかける。
「随分と厄介な事になって来たぞ。お前、コイツをマインドコントロールでなんとか出来ないのか?」
「ウチは人の心のマインドコントロールは苦手やねん」
「何言ってんだよ? ミィより先輩のクセして」
「人には得手不得手っちゅうのがあるんよ! ヒロも男なんやからなんとかせえな!」
俺だって仮にも自分の彼女にそこまで言われては腹も立とうと言う物だ。
「おいおい、さっきから抜け抜けと何様のつもりだ? 通りすがりの馬の骨が。いい加減に諦めろ」
「諦めるのはそちらの方じゃないんですかね?」
角田君がパチっと指を鳴らすと、彼の手下と
「おい、
角田君が手下に命令を下す。タマはパニくっていて何も出来ない。ヤバい。緊急事態だ! 俺はバッジに手を当てて叫ぶ!
「ミィ~~~っ!」
奈良公園全体の空気が凍り付き、辺りの鹿や人間達の動きがフリーズする。明らかに不機嫌そうな顔をして現れたミィが、
「な~に~よ~? せっかくのバケーションを満喫していた所だったのにっ!」
「ご覧の通りの状況なんだが……」
ミィは周辺を見渡し、俺が事情を話して事態を把握すると、
「タマキ先輩は一体何をしているのかしらぁ?」
「ゴメ~ン、ミィちゃん。ウチ、またドジしてもた」
「まったく、そんなんだから先輩はいつまでたっても昇進出来ないのよ」
「それは言わんといてぇな」
「ヒロだって男なんだから、こんな相手くらいなんとかならなかったの?」
「多勢に無勢だ! 無理を言わないでくれ」
俺は半分焦りながら、
「休日を邪魔したのは悪かった。でも文句はそれ位にして、これどうする?」
「そうねぇ。相手が番長なら、こっちはこういうのでどうかしら?」
今日のミィは花柄のワンピースにサングラス、麦わら帽子と一風変わった可愛らしい姿だったのだが、そこからD高校の女子高生制服でロングスカートの女番長、いわゆるケバいメイクのスケバン姿に変身した。手には木刀まで持っていて、なんと背後にはご丁寧に幻影の手下まで揃えているではないか! お~いちょっと、その格好。俺はかろうじて知ってるけど、昔のマンガや映画じゃあるまいし、さすがに時代錯誤じゃないのか? そんな事はお構いなしに、時間の凍結が解除され、角田君の手下どもが俺に襲いかかろうとしたその瞬間!
「お待ちっ!」
角田君の手下どもの動きが一瞬止まり、スケバン姿のミィとその手下の幻影が登場する。
「あたい達の
ミィがドスの効いた啖呵を切る。角田君もひるまず、切り返す。
「なんだと? 生意気な。どこの学校だかは知らないが、女だからって手加減はしねぇぜ。者ども、やれっ!」
角田君の手下勢が一斉にミイに襲いかかる。
「スカッ、スカッ」
当然の事だがミィの身体も精神イメージなので、彼らの攻撃はミィの身体を素通りしてかすりもせず、逆にミィの木刀のイメージ攻撃だけがバッタバッタと確実に男子共の急所を捉えて行く。力尽きた手下共は、角田君を一人残して退散して行った。
「つっ、強い。強過ぎる。だが同時に美しい……」
角田君の目は、今度はミィに釘付けになっていた。
「恐れ入りました。これほど強くて見目お麗しい方には初めてお目にかかりました。自分は角田惣治と申します。よろしかったらお名前を教えて頂けませんか? それから電話番号とライン交換も……」
なんだなんだ? いくらなんでもコイツ、変わり身が早過ぎやしないか?
「はあ? アナタ、さっきタマキ先輩に惚れたって聞いたけど?」
「それは確かにそうでした。ですが貴女の立ち振る舞い見た瞬間、僕の心は瞬く間に貴女に奪われてしまったのです。どうかお名前だけでも、この通りです」
角田君は地面に土下座してミィに懇願する。ミィはこの手の男が嫌いじゃ無い事は俺も良く知っている。
「しょうがないわね。私の名前は上條美晴よ。でも連絡先は教えてあげない。どうしても知りたかったら、自分で調べる事ね」
と言っても、ミィはこの世界に実在しないんだから分かりっこ無いよなあ。肝心の麻生さんは、さっきの乱闘騒ぎでどこかに姿を消してしまった。これではミッションのやり直しではないか。いや、どっちにしろ角田君の前にタマやミィが姿を現せば同じ
「おい、タマ、ミィ。とにかく麻生さんを探しに行こう」
「そ、そうやね」
「私はこの姿じゃマズいから、普通の制服に戻って反対側から探すわ」
「ああ、そうしてくれ」
土下座したままの角田君を置いてその場を立ち去った俺達は、散々あちこちを探し回った後に、ようやく奈良公園の隅っこにあるベンチでシクシクと泣いている麻生さんを見つけた。タマがミィにテレパシーを送る。
「ミィちゃん、見つかったでー!」
テレパシーを受信したミィもこちらに姿を現す。
「どこ行ってたん、和佳奈ちゃん。心配したで?」
「だって、突然あんな事が始まったから……」
「さっきから様子を見て気になっとたんやけど、和佳奈ちゃん、ひょっとして角田君の事好きなんちゃう?」
「えっ? 私そんな事!」
動揺する麻生さんの心の隙を突いて、すかさずミィがマインドコントロールを開始する。麻生さんは閉ざしていた心を開いて本音を語り始める。
「じ、実は、惣治さんに中学1年生の入学式の時に初めて見かけた瞬間から一目惚れだったんです。でもあのカッコ良さでしょう? 周りの女の子からもモテてて取り巻きもいつも居るし、臆病な私なんかじゃ相手にされないだろうって。それで言い出せなくって、ずっと一人で悩みを抱え込んでいたんですよ」
「そやけど、あんなにコロコロ心変わりするオトコやで? オマケにガラ悪い連中の番張っとるし。ホンマに大丈夫なんかいな?」
「それは本当に愛する人が居ないからだけなんです! 私が惣治さんの彼女になって真実の愛を見つければ、きっと彼だって変わってくれる筈です!」
はあぁ~、なるほどね~。乙女心の思い込みもここまで来れば立派な物だ。ミィのマインドコントロールが功を奏した。後は角田君の心をどう動かすかに掛かっている。
「そこまで言うならオンナも度胸や! 和佳奈ちゃんから告白したれや!」
「ハイっ! 私やりますっ!」
「ほんで、明日の予定はどないなっとんの?」
「明日が修学旅行の最終日で、クラスメイトとグループ3人で組んでの自由行動です。惣治さん達となんとか合流出来れば良いんですが……」
これはどうやら明日がラストチャンスとなりそうだぞ!
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