第二章 混線次元は大暴走!
第1話 妙なミッションが始まった!
あのクリスマスの夜から年も開け、月日は経って翌年の春過ぎ。
長女の澄子と長男の甲子雄はそれぞれ見事希望の大学と高校に合格し、無事に次の学校で新生活を過ごしていた。俺と亜希子は結婚20周年の祝いと子育ての骨休めも兼ねて、ゴールデンウィークを前に関西へ旅行へ来ている。某有名テーマパークや道頓堀の食い倒れの街を練り歩いたり、定番の古都の風情を楽しんだ後に、祇園のお茶屋で京料理を嗜みながら若い舞妓さんの踊りを鑑賞していた。
「
「へ? ミィはどしたの?」
「ミハルはんは今日はお暇をもらっておりやして、代わりにウチが出勤となりやした」
「そ、そうなんだ」
「この着物ではお仕事に差し障ります故、ちと失礼しますどえ」
そう言うとタマキはスッと立ち上がり、着物の帯を解いて脱ぎ出したではないか!
「わわわっ!」
慌てて両手で目を塞ぎながら指の隙間でしっかりとタマキの姿を見ていた俺だったが、タマキはCGの
「呼び名はヒロやったっけ? ウチの本名は
さっきまでのしおらしい京言葉は何処へやら。変身後のタマはバリバリの大阪弁になっていた。タマのバッジナンバーはH0202。ミィのがH0333だったからタマの方が先輩になるのだろう。
「ちょっと待て! 俺はこの格好で行って良いのか?」
俺は旅館から直接タクシーで来たので薄着のままだ。
「構まへん、構まへん。まだ言わんとったけど、前回のランクアップでヒロのバッジにも変身機能が加わったんや。今回のミッション・ターゲットは修学旅行中の高校生やて」
「修学旅行中の高校生?」
「なんでもウチの時代で離婚した夫婦の嫁さんが、高校時代の片思いの相手とやったら上手く行ってたんちゃうやろか思うて、その仲を取り持って欲しいそうや」
「はあ? 【ハイダーズ】ではそんな依頼も受けてるのか?」
「なんや知らんけど。次元転移装置の開発費が仰山掛かった言うて、元を取るのに恥も外聞もあらへんねん」
どうも仕事が過酷な割に報酬金が割に合わないと思っていたが、こりゃ相当ピンハネしてやがるんじゃねーのか? まあ、この会社のおかげで俺も命拾いしたんだから恩返しも兼ねて仕事を引き受けている訳だが。
「依頼主の名前は
「そんな事急に言われても、って、あーっ!」
タマは俺の手を引っ掴むと俺の胸のバッジに無理矢理触らせて、次のミッションへとタイムスリップさせた。
俺が目を開けると、自分の姿は高校生らしき学生服を来ていた。タマもどこぞの女子高生らしき制服姿をしている。よく見ると、俺の娘の澄子が通っていた都立のD高校の制服だった。おそらくミィがサンプリングしたのだろう。場所は鹿がウロウロしている所を見ると、修学旅行の定番名所でもある奈良公園の様だ。俺と亜希子も昨日行ったばかりなので見覚えがある場所だった。
「ヒロ、こっちや、こっち」
タマが俺の手を引いて連れて来た先には、独りで鹿に
「あれが麻生サン。ほんであっちが角田クン」
タマが指差したのは、鹿煎餅売り場で友人と煎餅を買おうとしているイケメン風の男子だ。
「それでタマ、お前の作戦は?」
「う~ん、どないしよ~」
「何も考えてないんかいっ!」
俺はタマにつられて関西風のツッコミをする。
「ヒロも一緒に考えてえーな」
とりあえず周囲の風景に馴染む為に鹿煎餅でも買うとするか。俺とタマが売り場に並んでいると、手持ちが無くなったのか麻生さんが俺達のすぐ後ろに並んだ。タマが俺の腕を組んで馴れ馴れしく喋って来る。
「なあなあヒロ、ウチも早うあの可愛い子鹿ちゃんにお煎餅やってみたいねん」
俺は心の中でタマに文句を言う。
「おいおい、どう言うつもりだよ?」
「ウチらがアツアツのカップルぶりを見せつけて、麻生ちゃんの恋心を加速させるんや」
「そんなんで上手くいくのかねぇ」
「ええから、ちっとはヒロも協力せんかい!」
俺は後ろにいる麻生さんに話しかける。
「あのう、さっき貴女が鹿に煎餅をやっている所を見たんですけど、上手くやるコツってあるんですか?」
「え? いえ、特には。お煎餅見せるだけで普通に寄って来ますよ」
「手、かじられたりはせえへんの?」
「大丈夫だって聞いてます。鹿さんが咥えたらパッとお煎餅から手を離せばいいんですから」
「そうなんや。おおきに。ところで彼女さんはどちらから?」
「東京からです。あ、私は麻生和佳奈って言います。お二人は?」
「ウチらも東京よ。ウチは篠原環でコッチは井原宏。ウチは関西弁喋っとるけどね。親の転勤で東京に引越したんよ」
「へえ~、それで、こちらの宏さんは環さんの彼氏さん?」
「そうそう、ウチのハニー♡」
「いいなあ。私も彼氏欲しい……」
「何言うとんの、和佳奈ちゃん。可愛いしイケとるから大丈夫やって。きばりや~」
麻生さんと会話を交わせたのは良いが、事態は何も進展していない。
「タマ、何か良い考えは浮かんだのか?」
「あ、こんなんどないやろ?」
タマは公園の鹿達をマインドコントロールすると、麻生さんの鹿煎餅だけに集中して食べに行かせる様に仕向けた。麻生さんは、急に自分の周りに鹿が集まり出したのでビックリしていたが、鹿に煎餅をやろうとしていた角田君もそれを見て麻生さんの所に行く。
「麻生、お前スゲーな。鹿を集めるテレパシーでも持ってるのか?」
「つ、角田君! わわわ、私はテレパシーなんて……」
麻生さんは顔を真っ赤にして照れている。おいおい、依頼主がそんなに弱気では先が思いやられるではないか。ここはもう一丁、麻生さんの背中を押してやる必要がありそうだ。俺とタマも角田君達と合流する振りをして鹿の群れに近づく。
「和佳奈ちゃん、やるやんけ~。鹿の餌付けの名人!」
すると、角田君がタマの顔を見てハッとした表情に変わった。
「麻生、この人お前の知り合い?」
「ま、まあ。さっき売店でちょっと話をしただけだけど」
角田君はタマに向き直ると、キリっとイケメン顔を決めて、
「僕は角田惣治って言います。良かったら電話番号とライン交換してもらえませんか?」
ええ~っ!? なんかヘンな流れになって来たぞ! おいタマ! 一体どうするつもりなんだ!?
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