これで完結? エピローグ??

第21話 そして災難と女難は続く!

 その後、ようやく諸々の出来事の記事は採用となって発売された。


「○○鉄道、ずさんな管理体制と過酷な労働環境が発覚!」

「取材していた新聞記者を暴力団を使って暗殺未遂か!?」


 やはりメディアが持つ世間への影響力は強い。鉄道会社では緊急会議が開かれたり、各メディアでも大きく取り上げられ、記者会見の場でオロオロしているお偉いさん方をミィがマインドコントロール出来る様になってからは段々と事がうまく流れ始めて、会社全体の雰囲気が『これは放って置くと大変な事になるぞ』って風になった時には『シメた!』と思ったね。それからは、運転手やら他の雇用者達の労働シフトの見直しとか、鉄道制御システムそのものの一新とかもされた。暴力団との繋がりは、浦賀うらが課長が懲戒免職になって処理されたが、実の所がどうだったのかは謎のままだ。まあ、俺達としては出来るだけの事はやった。結果、最初の鉄道事故は起きずに済み、ミッションは無事コンプリート。なんだか頭も身体も酷使して、オマケに命がけのミッションになってしまった。ミィも前回以上に辛かったと思うが、最後まで音を上げずに良く頑張ってくれた。俺Cの確保を犠牲にした対価は、将来起こり得る鉄道事故の阻止。俺としては、木村優子からの危険な罠に掛からずに済むかどうか、多いに不安を感じるが……。


 そうして元の次元に戻って来た俺は、恐る恐るマイホームへ戻ると亜希子あきこに土下座しながら謝りまくり、あれは優子の罠だったと画像の撮影日時と優子への発信記録の時間を比較しながら、聖奈せいなちゃんとは何もしなかったと必死に弁明したら、亜希子も信じてくれた。


「でも、浮気しようとした事には間違いないわよね、この私と言う者がありながらアリバイ工作までして!?」

「ハイ、その通りで御座います」

「これからアナタのお給料は、全額私に渡してもらうわよ。お小遣いも一日千円!」

「そんなぁ~っ」


 てな訳で、俺は相変わらず優子に適度にゴマすりながら、系列のIT企業のお飾り社長を務めていて、稼いだ給料をせっせと亜希子の口座に振り込んでいる。社長のご身分でありながら、昼メシは社食で一番安いアジフライ定食とはみっともない事この上ナシ。【ハイダーズ】の査問委員会の審議結果もいまだに連絡待ちで、どデカい報酬金とエージェントの資格についても保留中。審査の結果くらい、タイムスリップ出来るんだからすぐに知らせてくれたっていいと思うんだが、その辺の仕組みはイマイチ良く分からん。ヨガのクラスでは、聖奈ちゃんがピッチピチのレオタード姿で必要以上にボディタッチして来るわ、プールでは優子がパッツンパツンの競泳水着で俺の尻を叩いて来るわで、誘惑多過ぎで困る困る。事あるごとのお誘いも当然、無視! 妻は残業、娘は進学塾、息子は少年野球のクラブ活動で帰りが遅いので、俺はさっさと帰宅して、家族の為に夕飯をこしらえているキッチンパパだ。亜希子と言えば、探偵を雇うなんて無駄使いはしないで、俺の給料は借金返済と生活費に、自分の派遣の給料は子供達の将来の為に貯め始めた様だ。俺も俺Bをアリバイにしてヘンな事しようなんてのはあの聖奈ちゃん事件以来金輪際やめにした。俺は亜希子の物だし、亜希子は俺の物だ。それだけは絶対に変わらん……、筈なんだが。


 俺が優子のフィットネスクラブでトレーニングを受けている事と、優子の系列のIT企業で働いている事とで、相変わらず亜希子が疑いの目をギラっと向けて来るのがコワい。だが、考えてみれば、そもそも家族の為に自分を犠牲しようしたのは俺、そしてその俺を救おうおうと遥か30年先の未来のエージェントのミィに依頼したのは亜希子。俺達は他の次元の二人と違って深い愛の絆で結ばれている事に間違いは無い。今夜こそ用意しておいたプレゼントと共に亜希子に言おう。


「愛している」と。


 今日はクリスマス・イブのパーティーに、我が長女、澄子すみこの学友、小林梨花と、ボーイフレンドの前園知哉がやって来た。


「やー、オヤジ。元気してた?」

「まあね。猫アレルギーはもう治ったか?」

「ウン、おかげサンで。でもオヤジアレルギーの方はまだだから、あんま近寄んないでね」

「おっとおっと、こりゃ危ない」


 俺は思わず梨花を避ける。もう一方の前園君は、こっちの次元では初対面。どうやら娘におイタはしなかった様だ。よく我慢した、偉い偉い。前園君は直立不動の姿勢でガッチガチに緊張しながら俺に挨拶をする。


「お父様、初めまして! 澄子さんとお付き合いさせて頂いている前園知哉と申します!!」

「どこの馬の骨だか知らん奴から『お父様』と呼ばれるには、まだ早いんじゃないか?」

「し、失礼しました! では何とお呼びすれば!?」

「ハハハ、冗談だよ、そのままで良い。さあ、二人とも上がってゆっくりくつろぎなさい」

「もう、パパったら、真面目なトモくんをからかうの、やめてよね!」


 そこにフライドチキンを大量に抱えた長男の甲子雄かしおが帰って来た。


「パパ~、これ位で足りるかな?」

「お前が一番喰うんだから、お前が考えろよ」

「エヘヘ」

「ま、お前は今が育ち盛りだ。モリモリ食べて筋肉付けろよ」

「ウン! 明日は野球大会の観戦、よろしく!」


 亜希子も揃った所で、リビングにてテーブルを囲みながら皆で大合唱。


「♪き~よし~ こ~の夜~ 星は~♪」


 突然、我が家の空気が凍り付く。俺以外の全員がマネキン人形みたいに固まって動かない。


「おー、やってるねー。仏教徒なのにメリークリスマス」

「あのなー、ミィ。ちょっとは時と場所っての選べないのか?」


 フェードインする様に現れた赤ジャケットに赤ベレー帽のミィは、どこかしらサンタのコスプレに見えなくも無い。


「んー、そこがまだ微調整中みたいなのよね」

「まったく!こちとら腹ペコで、これからご馳走頂こうとしてたんだが」


 俺にいつもお預け感覚を味わせるミィは、やっぱりドS娘に違いない。そもそもあの優子を仕掛けて来たのだって、そっち系の画策があっての事だったんじゃ無いかとさえ疑ってしまう。


「ゴメンゴメン。さて、査問委員会の結果、出たよ」

「それで、何だって?」

「エージェントとしての継続OK。実を言うとね、今回のミッションはヒロの素質をテストする為の物だったのよ」

「俺をテストだと?」


 ミィはちょっと間を置くと、俺の目を見てゆっくりと語り始める。


「今回の居眠り運転みたいな事故だったら、私達エージェントだけでもマインドコントロールで簡単に処理出来たの。例えば交通事故とかもやって来た。だけど今回の場合はね、ヒロに責任の重大さを感じさせて、その上でヒロがどう言う選択をするかを見定める事で、将来のヒロが【フィジカル・ハイダーズ】としてどれだけ伸びるかを審査していたのよ。ヒロは一度選んだ選択を、悩んだ末にもう一度やり直した。そこが最大に評価されたんだわ」


 そうだったのか。あの日俺が見たニュース、そして悪夢。あれは俺の罪悪感、そして正義感のせめぎ合いだった。それが結果を出したんだ。


「なんだよ、ヒネクレ物の査問委員会どもだな。それで、肝心の報酬金の方は?」

「残念ながら、ナシね。最初から苦労する方を選んでいれば、タップリ出てたんだけどな~」

「そんな殺生な!? これからも借金返済と優子に追われる日々が続くのか!?」


 他の次元の俺の話は別にして、こちらの次元の俺様にはこの選択肢しか残されていないらしい。途方に暮れる俺を見てミィが『ニヒヒ』と笑いながら、


「次の依頼なら、もう入ってるわよ。建築現場からの落下事故。ワイヤーが切れて死亡者3名、またキリストクロスの出番になりそうね!」

「なんだって? これじゃあ命がいくらあっても足りゃしねぇ!」



 第一章 完

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