第20話 ダメな原因は元から絶たなきゃダメ!
「やり直し? 一体何故?」
「このニュースを見て分かったんだ。あの時の俺の選択は間違っていたって事を!」
「ふ~ん」
ミィはちょっと考え込んで、
「ヒロはこの時代の【フィジカル・ハイダーズ】の第1号だからまだ分からないけど、これまで成功したミッションのやり直しが認められた事は無い。仮に認められたとしても、ヒロは査問委員会にかけられて報酬金も取り消しになり、エージェントの資格を永久剥奪される可能性だってあるわ。それでも良いの?」
「頼む、今ここで起こっている惨劇だけは繰り返したく無いんだ!!」
「分かった。申請してみる」
ミィはヘッドセットに向かって何やらヒソヒソ話している。かなりモメている様子だ。やがて話が終わったらしく、ミィは俺に向かって言った。
「ヒロ、とても例外的な事だけど、許可された。でもやっぱりミッション後に貴方は査問委員会にかけられるって」
「ああ、覚悟は出来てる。さあ、行こう」
とミィに声をかけた。かくして俺達は再びタイムスリップし、鉄道事故防止をかけたミッションが始まった。色々考えた末に、俺は某有名新聞社の記者、ミィはフリーの美人ジャーナリストと称して鉄道会社にアプローチしてみる事にした。最初は鉄道会社のお偉いさんにいきなり突撃アポ取ったはいいが、元々俺にはそんな経験ないから俺は口調もカミカミのしどろもどろ。ミィも俺の横でお偉いさんをマインドコントロールしようとしたが、頭のカタイ奴には効かないらしい。相手にどうもおかしいと怪しまれ、挙げ句の果てに新聞社に連絡取られて、『そんな名前の人間はおらん!』と嘘がバレてしまい、俺達はツマミ出された。
次はこそと、まずは新聞社に潜入。編集長が徹夜でお疲れの所をミィに本物の記者証をマインドコントロールで登録させた。そして鉄道会社の現場の人間にコンタクト。仕事帰りの呑み屋の溜まり場に紛れ込んで、例の事故を起こした運転手から仕事のシフトがどれだけ過酷かを聞き出す。鉄道設備の保守要員達にも同じ手段で愚痴をこぼさせ、それをICレコーダーでバッチリ記録。そこで再び鉄道会社に堂々と記者証と共に出向き、それぞれの管轄の係長さん達にICレコーダーの証言を聞かせながら、
「こんな労働環境ではとても安全な鉄道の運行が確保出来てるとは思えませんがねぇ。我が新聞社ではこの問題をスクープとして取り上げるつもりですよ」
とハッタリかましたら、係長達は慌てて話を真面目に聞き出した。そこをミィがマインドコントロールで大惨事のイメージを気の弱い係長達に送り込む。そんな過程で毎日足繁く会社に通い続け、縦割り会社を逆昇りしながら話す相手も徐々に次長、課長、部長と地道に粘り強くランクアップ。この頃には俺やミィのテクニックも次第に慣れて来た。ようやくネタの裏が取れた所で、新聞社に本物の記事を書かせて新聞に出そうと思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。俺とミィの目の前にサングラスに黒服の男達が立ちふさがる。
「アンタ達、何やら余計なお世話してくれてる様だが手を引いてもらえんかね?」
チラっとめくった背広の裾には黒光りするブツが見えている。拳銃だ。俺は無理を承知で言ってみる。
「こ、断ると言ったら?」
「黙って付いて来てもらおうか?」
ミィが心の中で俺に語りかける。
「ここは私に任せて。言う事を聞く振りをして黒幕の証拠を掴むのよ」
俺とミィは黒いワンボックス車に乗せられると、夜の
「往生際の悪い野郎め!」
そいつはよろめきながら、腰の拳銃を抜くなり銃口を俺に向けた。ミィが俺に叫ぶ。
「ヒロ! キリストクロス!」
俺はすかさず胸のバッジに十字を刻む。
「バンッ! バンッ!」
男が放った銃弾は、俺のバッジから瞬間的に形成された光の玉に180度跳ね返されて男の肩に見事命中した。男は拳銃を地面に落として肩を押さえる。それを見た他の男達は、何が起こったかも分からぬまま、慌てて怪我を負った男をワンボックス車に乗せて去ろうとする。
「ヒロ、逃がさないでっ!」
「どうしろってんだよ!?」
「その拳銃で車のタイヤを撃ち抜くのよ!」
俺は足元に転がっていた拳銃を拾う。ミィは簡単そうに言うが、俺は本物の拳銃なんて撃った事が無い。せいぜいエアガンでポンポン遊んでいた位だ。まあ構え方と照準の付け方ならアクション物の洋画を見て熟知しているが。
「早く!」
ミィに急かされ、俺はオートマチックのバレッタ92F拳銃を身構えると、今まさに走り出したワンボックス車のタイヤめがけて
「ババン! ババン!」
モノホンの拳銃の
「イピカィエィ、マザーファッ○ァー」
気分は刑事アクション映画のヒーローだ。ミィはワンボックス車に駆け寄ると、茫然自失としている男達をマインドコントロールして失神させ、その間に俺は男達をロープで縛りあげる。
「どうもコイツがボスらしいわね」
ミィが指差した男は、男達の中でも高そうなスーツを着たヤサ男だった。俺がそいつの頬をペシペシと叩くと、ボスは目を覚ました。俺は左手でスマホの動画記録を撮り、右手でボスのこめかみにバレッタの銃口を突きつけながら、
「おい、誰に雇われたんだ? 素直に白状すれば命だけは助けてやる」
「何の事だ? 俺は何も知らないぞ」
「そんなんじゃダメよ。こう言う相手にはこうやらないと」
ミィはそう言うと、ボスの股間をハイヒールのかかとで踏んづけた。
「ぐおぉあぁぁっ!」
ボスは実際に踏まれている訳では無いが、ミィが脳に痛みのイメージを伝えていて、その痛みがどれだけの物かは俺自身も良く知っている。
「アンタの大事な息子さん、一生使い物にならなくしてあげるけど、それでも良い?」
「分かった! 頼むから足をどけてくれ!」
「まだよ。黒幕が誰か、吐きなさい!」
ミィはますますヒールに体重を乗せてグリグリとボスの股間をひねり回す。
「ふんむぅっ! 言うよ、言うっ! ○○鉄道の第二総務課長の
「たかだか課長が? それより上の幹部は関わっていないって言うの?」
「知らねぇよ! 俺は浦賀から直接指示を受けていただけだ!」
その浦賀課長とやらは名前を聞いた事も無ければ会った事も無いが、きっとどこかで俺達の事を聞きつけてこいつらに俺達の処分を依頼して来たのだろう。もちろんミィの言う通りもっと上の人間の指示と言う事も考えられなくは無い。やれやれ、ここから先は闇の中って事か。それにしても今日のミィのドSっぷりは、かなり気合いが入っていたな。やけに嬉しそうだったのは俺の気のせいか?
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