第19話 もはや歴史は繰り返すのか!?
俺とミィがタイムスリップするなり、目の前に猛スピードで電車が飛び込んで来た。電車はすんでの所で俺達をかわすと、いきなり脱線して通過していた鉄橋の寸前から河川敷に落下した。
「こ、これは!」
割と最近起こった列車事故だ。ニュースでも大々的に報じられていたので良く覚えている。
「死亡者175名、負傷者は386名。この時代の日本では最悪の鉄道事故ね」
ミィは言う。
「し、しかし……、この大惨事をどうやって防げと?」
「原因はもう解明されて分かっている。過労シフトによる運転手の居眠りの信号見落としと、列車制御システムのメンテナンス・ミスの重なり。つまり鉄道会社の不祥事ね」
「だがよ、これって組織的な問題じゃないか。俺達にどうこう出来る事か?」
「それに訴訟に負けた鉄道会社が今回の依頼人よ。成功すれば、報酬だって莫大だわ。優子さんにだって頼らなくて済む様になるのよ」
「それはそうかも知れないが……」
ミィは最初の選択肢を提案する。
「やり方は幾つかあると思う。まず運転手の名前と、鉄道システムのメンテナンス担当者は分かっているから、その人達にコンタクトを取って警告する事」
「だがニュースではこうも言っていたぜ。あの事故を防ぐには運転手達の労働体制や、鉄道システムの改善が必要だって」
するとミィは頷き、次の選択肢を言って来た。
「確かにこの事故だけを防いでも、鉄道会社の姿勢が変わらなかったらまた同じ様な事故が起こってしまうかも知れない。だったら会社の上層部に直接会って、意識改革を起こす方法だってある。それを選ぶのはヒロ自身よ」
俺は多いに思い悩んだ。鉄道会社の組織上部に会って意識改革させるだと? 俺やミィにそんな能力があるのか? それともただ現場の人間に警告して急場凌ぎをする? この方法でもミッション自体は成功するだろう。しかし、今の俺にはもっと重要な目的がある。三人目の俺Cを自分の次元に連れて行く事だ。だったら話は簡単だ。
「よし、ミィ。事故が起きる前の電車の運転席にタイムスリップして、運転手の居眠りを防ごう」
「ヒロが決めたなら、そうする」
俺とミィは事故を起こした電車の形式や運転席の配列、操縦盤の操作の仕方等を入念にチェックし、万全の準備を整えてからミッションに挑んだ。俺達がタイムスリップした運転席では居眠りしている運転手が居た。猛スピードで迫る赤信号。俺は練習した通りにブレーキレバーをゆっくりと下げ、列車を止めた。俺が運転手の頬を叩いての目を覚まさせると、俺達はその場から姿を消した。そうして俺とミィは列車事故を未然に防ぐ事が出来た。このまま元の次元に戻ったら、報酬金がたんまり入って借金も一括返済、今後の生活も一生有り余る程だとミィは言うが、
『井原クン? やっぱり
これしかない! 上手く行くかは分からないが、やるだけやってみよう。
「ミィ。もう一度優子になってくれ」
ここはお台場にあるホテルの屋上。 俺はポンプ室の物陰から、バーボンの瓶をラッパ呑みしてタバコを吹かす俺Cを見ていた。俺Cが『南無三』とつぶやく前に、ミィ扮する優子が姿を現し、声をかける。俺Cは大人しく優子に説得されて、共に非常階段を降りて行った。その後、優子の姿をした別のミィが現れる事も無かった。俺Cはこの
優子と会っている俺Cは楽しそうだった。俺Cには暗証番号式のコインロッカーで現金を渡していた。俺Cは地元の区民プールやジムでトレーニングもする様になった。ミィも
「こんなに長いミッションをこなすのは初めて……」
ミィの姿は未来のミィを反映しているらしく、だんだんやつれて行った。
「ミィ、お前、食事はどうしているんだ? こっちの世界でも俺Cと一緒に食べている様だが?」
「あれは素粒子化して捨てちゃってるから、私の身体には入らない。大丈夫、寝ている間に点滴打って補給してる。未来の技術は進歩してるから心配しないで」
ある夜中、ホテルのツインルームで、ついふとベッドでうつ伏せに寝ているミィの一糸まとわぬ姿を見てしまった事があった。俺はそっと毛布をかけてやったが、毛布はミィの身体をすり抜けてベッドのシーツに張り付いただけだった。そんなミィを見て、俺はとても辛くなった。ミィは俺のエゴの為だけに、このミッションに付き合ってくれているのだと。やがて俺Cは自分用の安アパートを借り、家族と別居する様になった。そうして日々が経ち、俺がタイムスリップした時間がやって来た。俺はミィと共に、バッジに人差し指でRの文字を刻んだ。
元の次元に戻った俺達は、別の多元宇宙で俺Cが住んでいたアパートに行ってみた。優子の姿をしたミィがコンコンとドアをノックする。俺は期待と不安で手足が震える。ギィッと音を立てて開いたドアから出て来たのは、まさしく混線次元の俺Cだった。
「ヒロくん、迎えに来たわよ。約束した新しい職場に行きましょう」
俺Cは、俺の代わりに渋谷のIT企業の社長椅子に座った。そして俺Cは優子と結婚した。ついに俺は優子から解放された。俺Cは優子との多少の記憶のギャップはあった様だが、もう俺にとっては他人事だ。俺はタップリと入った報酬金で、悠々自適の生活。亜希子達とのマイホームは田園調布の一等地に建て替えた。高級車でゴルフなんかに出向いては毎日を満喫していた。ミィから時々入るミッションが唯一の退屈しのぎだったりした。ただ、何かがもの足りない。本当に欲しい物が見つからない。そんな漠然とした不安感を覚えていたある日。TV画面にニュースが飛び込んで来た。
「えー、速報です。只今ヘリからの中継映像ですが、ご覧になれますでしょうか? T県の××市で大規模な列車事故が発生した模様です。原因はまだ不明ですが、多数の負傷者が出ているらしく、現場が混乱している事から救出活動も困難を極めており……」
「!」
「……原因は不明と言ってたよな。関係ねーよ。またそのうち依頼が入って来るだろ。そしたら俺もさらに大金持ちで万々歳じゃん。ははは」
俺はソファーでウトウトしながら、悪夢にうなされていた。それは
「何故アナタ達は生きているの? 何故ワタシ達を助けてくれなかったの?」
最後に出て来たのは、検死台に乗せられた俺自身。
「何故お前は生きていられるんだ?」
目が覚めたら、俺は冷や汗でぐっしょりだった。俺はバッジに手をやると、ミィを呼んだ。緊急事態でしかやってはいけないと言われていた事だったが。目の前に現れたミィに俺は叫ぶ。
「ミィ、この前の鉄道事故のミッション。やり直させてくれぇっ!」
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