第18話 別のループを巡る事になった!
聖奈ちゃんとタクシーで着いた先は、お約束の大人のホテル街。立ち尽くす俺の手を無理やり引っ張って、聖奈ちゃんはズンズンとホテルの奥に入って行く。
「ま、待って! 聖奈ちゃん。俺は結婚してるし子供もいる。君だって不倫は懲りた筈じゃないか? こんな事、いけないよ!」
「いいんです。割り切る事に決めましたから。それにこれは今回限りのお礼です」
俺の頭は計算と打算がグルグルしていた。俺Bの存在でアリバイは完璧だ。聖奈ちゃんは、俺が命の恩人で、一回限りと言っている。俺の目には、ヨガのクラスでの聖奈ちゃんのピチピチで欲情をそそるポーズを取るレオタード姿が焼付いている。何より、あのお台場のホテルの屋上で不覚にもバスローブの上からタッチしてしまったおムネの感触が忘れられない。……、オールグリーン。GOだ! 俺と聖奈ちゃんはホテルの部屋になだれこむと、ベッドの上で上着を脱がせ合い、俺が聖奈ちゃんをベッドに押し倒して、いよいよブラジャーをはぎ取ろうとしたその瞬間。
「ピカッ!」
「ん、今の何?」
聖奈ちゃんは、片手でいつのまにかコンパクトデジタルカメラを持っていた。
「ごめんなさ~い、ヒロシさん」
「どう言う事?」
「これ、ちゃんと写ってますよね?」
コンデジのモニターには、しっかりと俺の横顔と、聖奈ちゃんの写ってはいけない所ギリギリの所が写っていた。ご丁寧に今日の日時分秒と
「ほいっと、転送っ。あ、スマホに来た来た。中々スキャンダルぽい写り映えっ! それじゃ、指定の宛先に添付でそうし~っんっと!」
聖奈ちゃんは、独り言を言いながらコンデジのデータをスマホに転送すると、そのデータをまた誰かに送っている。
「ちょちょちょ、聖奈ちゃん???」
「ホントに悪気は無かったんですよぅ~。ヒロシさんは命の恩人だし。ただどうしてもやれって優子さんから脅されてて」
ぬぅわぁにぃ~~っ! 優子だとぉ~っ!
「あの優子が、何故?」
「くわしい理由は知りません。ワタシはこれをやらないと社会的に抹殺されるって言われてて怖かったんですぅ」
「あんにゃろうぅ~~~、最近ちょっと大人しいと思っていたらこんな汚い真似を!」
「あ、返信帰って来た。『確かに受け取りました。これで貴方は解放してあげる』だって。やった~! ねぇ、ヒロシさん。せっかくだし、これから二人で楽しみませんか? ちゃんとこのお詫びと約束のお礼もシたいので♡♡♡」
人を罠にハメておいて、今更何を考えているんだ、この
「こっちはそれどころじゃねぇんだ! 悪いけど帰らせてもらうよ!!」
くぅ~~、例え
「掛けて来ると思っていたわ」
「てめぇ、一体どう言うつもりだ!?」
「この画像、亜希子さんが見たらどう反応するかしらねぇ」
「そんな脅しに屈する俺だと思うか?」
「あら、珍しく強気じゃない? 貴方、この私に逆らえるご身分だとでも?」
「くっ」
「ふふふ、まあ、お楽しみは、こ・れ・か・ら、よ!」
俺が何か言い返そうと考えている間もなく、「プツン。ツー、ツー、ツー」と通話が切れる。これは優子からの宣戦布告だ。状況を整理して考えよう。優子は俺に盲目的に一目惚れしていて、何があっても俺を我が物にしなければ気が済まず、またその権力も財力も持っている。しかし同時に極度のドS女王様で、俺が最も苦手とするタイプだ。受け入れる訳には行かない。何としても! あ、まずあの画像だ。優子はあれをどうするつもりだろう? 切り札として取っておく? 真っ先に
「ア~ナ~タ~っ!」
亜希子は顔を紅潮させながら、プルプル震える手にスマホを掲げて俺を睨んでいる。スマホには先程優子が転送した画像が写っていた。
「今度は誰と浮気したのっ!?」
「何を言っているんだ、亜希子。俺はここに居るじゃないか。その画像の人なら多分、先日会ったヒロフミさんだろう? それに今度も何も、俺は一度だって浮気などした事無いぞ?」
俺は予定通りにシラを切る。ところが亜希子の口から出て来た言葉はとんでもない物だった!
「嘘っ! ヒロフミさんなら、今もずっとちーちゃんのお店にいるわっ! ご丁寧にアナタそっくりの背広まで着てね! あっちにいるのがヒロフミさんだって事は、こっちの画像はアナタって事じゃないのよぉ~~~っ!」
しまった。アリバイ工作の回収をうっかり忘れていた。こんな事なら早くに帰宅せずに、しっかり俺Bとのすり替え作戦を用意しておくんだった。まったく俺はなんてドジなんだーっ!! 亜希子はカウンターキッチンから包丁を持って来るなり、俺に振りかざして襲いかかって来た。俺は床に膝を着いて咄嗟にバッジに手を当てながら叫ぶ。
「ミィ~~~っ!」
亜希子の姿がフリーズする。
「またやっちゃったの?」
ミィが膝小僧でかがんだ俺の背中をグリグリしている。
「そうみたい……デス」
ミイは、今度はヒールの先で俺の尻をグイグイしている。
「今回ばかりは、男のクズとしか言い様が無いわね」
ミィの足の力はさらに強くなり、俺を痛めつける。
「ハイ……」
今度はミィは、ハイヒールのかかとで俺の足を踏んづけた。
「ゲス野郎」
「ハイ……」
M気質とは、こうやって調教開発されて行く物なのだろうか? 否! 断じて俺は快感など感じてはいない! 逆に、出来る事ならこの手に触れる事すら叶わぬ美少女を麻縄で縛り上げて、革の鞭でひっぱたいてやりたいくらいだ……、が、今は寸とも逆らえない立場だ。
「ミィ様。この俺は、一体どうしたら良いのでありましょうか?」
「そうねぇ。どうしてくれようかしら? まあ、ちょうど過去に戻るミッションが入っているから、選択肢が無い訳でも無さそうだけど?」
「あのう、その選択肢について一つ思い付いた事があるんですが」
「なあに?」
「この次元にもう一人、優子専用のオモチャになれる俺を連れて来れば全て解決だと思うんですけれど?」
「もう一つ、混線次元を作ってくっつけちゃうって事? でもそんな方法があるのかしら?」
「無いんでしょうか?」
「それは分からないわ。誰もやったこと無いから」
「……」
「やり方はヒロ自身で考えなさい。さあ、次のミッション、クリアしに行くわよ!」
かくして三人目の俺Cを探す旅が始まった。今度はちゃんとスカウト出来るのだろうか、アテもハテも無い旅になりそうだった。
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