まさかのループに再びハマった!

第12話 またまた混線次元が発生した!

 その後のミィと角田惣治さんのお付き合いは順調。毎週末はSMチック(?)なテニスデート三昧と、その恋愛模様はヒートアップするばかりみたいだ。俺の息子の甲子雄カースケもタマに熱を上げっ放しで、肝心の高校野球の練習もそこそこに早く帰宅しては、休日も家にこもってタマと一緒に野球のTVゲームに興じていたりする。おいおいカースケ、将来メジャリーガーになる夢はどこに行った? そんな折、俺達がいつもの様に自宅で揃って夕飯を食べようとしていた瞬間、ピタっと周囲の空気が凍り付いた。亜希子、スーやカースケがマネキン人形の様に固まって動かない。


「ハっ、これは!」


俺とミィ、タマは慌てて放り投げていたヘッドセットを耳に付ける。


「あー、あー、こちらポルタフスキー。聞こえるかね、オーバー?」

「こちらミハル。感度良好です、ポルタフスキー博士。オーバー」

「良かった。ミハル君、タマキ君、よく聞いてくれたまえ。緊急事態が起こった。次元転移装置を修理し終えた所、フルリセットがかかって時空が転移装置の改良前の状態に戻ってしまったのだ」

「それはどう言う事ですか?」

「角田財閥と契約する以前の次元、つまり太陽光発電衛星を打ち上げる前の多元宇宙に転移して、君達を含む全てのミッション遂行中のエージェント達の肉体を我々の時代に戻す事が不可能になった」

「そんな馬鹿な!?」

「んなアホな!?」

「生憎私はそちらに出向く事は出来ないが、君達ならそちらの時代で精神イメージのタイムスリップは続行出来る。なのでなんとしてでも再び角田社長との契約を交わし、20世紀の時代に戻って角田社長と麻生文恵さんとの仲を壊して契約を完了して欲しい」

「どこからやり直せばいいんですか?」

「その方法は君達に一任する。必要とあれば今度はこちらの秘密を君達から角田財閥に持ちかけて交渉しても構わん。バッジのパワーはすでに回復してある。君達のミッションが最優先だ。健闘を祈る!」


 ポルタフスキー博士はそう言うと、プツンと通信を切ってしまった。起こり得る最悪の事態が起こってしまった。まさにミッション・インポッシブルではないか。あの偏屈な角田社長と契約を取り直し、またあの修羅場をくぐり直すなど、考えただけでも気が遠くなる。


「こう言う事態は、優子さんに相談するのが一番の様ね」


 ミィは一息付くと、そう提案した。確かに交渉のテクニックに関してはバリバリのビジネスウーマンである優子が手慣れている。時間の凍結が解除されて夕飯が済むと、俺は優子に電話して事情を説明した。翌日、麻布の優子の会社の本社の応接室では、優子が俺とミィとタマを前にしかめっ面をして考え事をしながらこう切り出した。


「相手はあの角田財閥よ。それに比べてこっちは只の中小企業。また振り出しに戻っちゃったし、普通の手段では相手にもしてくれないでしょう。さて、どうしたものかしら……」


 そこで俺は思いついた。角田社長の息子である惣治さんは、優子の会社の契約社員である上條美晴ことミィにぞっこんだ。そこになんとかつけ込めれば?


「ミィ、お前が惣治さんを利用してどうにか出来ないか?」

「う〜ん、恋愛と仕事を混同するのは気が引けるけど、この際そうも言ってられないわね」

「ミハルさんと惣治さん? それどういう事?」

「実はこの二人、付き合ってるんだよ、優子」

「それは願ったり叶ったりじゃない! そんな切り札を利用しない手はないでしょう?」

「でもミィちゃん、ええのん? 惣治さんにミィちゃんが未来人やって事がバレてしまうんやで?」

「それはその内言わなきゃと思ってたから仕方がない。伏せられる間は伏せておくわ」

「そうするのがええやろな」


 次のミィと惣治さんのデートの日、ミィは惣治さんのお腹を膝でグリグリしながら、


「ねえ惣治さん、今日は貴方にお願いがあるのよ」

「なんでしょう、ミハルさん。貴女のお願いならなんだってお引き受けしますよ、喜んで!」

「実は私の会社の会長さんが、惣治さんのお父様とビジネスのお話をしたいそうなんだけど、惣治さんを通して取り次いで頂く事は出来ないかしら?」

「ああっ! もっと違う所もいぢめて下さいっ! そしたら今日帰って父に伝えておきます」

「あら、ここも気持ちいいのね、この変態。もっとしてあげる」


 ミィは惣治さんの尻をハイヒールのかかとで踏んづける。


「そうです、そうです! もっと、もっとぉ〜!!」


 ……ここまで来たら、もう立派なSMカップルの出来上がりである。数日後、角田商事に約束を取り付けた俺達は、早速角田商事本社の応接室へと案内された。そしてそこには角田社長の愛人、麻生文恵さんの姿に変身したタマがいた。それを見た角田社長は慌てて、


「ふ、文恵っ! 何故ここにいる!? ここには来るなとあれ程言っておいたではないか!?」

「まあ、慌てずに角田社長さん? これから起こる事を落ち着いてご覧下さい。タマキさん、もういいわよ」


 優子がそう言うと、タマは胸から出したバッジに手を触れて文恵さんの姿からOL姿のタマに姿を戻した。


「うおっ! 何が起こったんだ?」

「実はこの弊社の契約社員の篠原環さんは、30年後の未来からやって来た未来人なんです。そしてもう一人、こちらにいる上條美晴さん、貴方の息子さんとお付き合いしている女性もね」

「な、なんですと?」

「今から約30年後、太陽系の火星軌道上に突然マイクロブラックホールが出現し……、」


 ここで優子は、以前にポルタフスキー博士が別次元で角田社長に説明した【ハイダーズ】が誕生するまでの経緯を、再び角田社長に話し始めた。角田社長は、神妙な面持ちをして聞いていたが、やがてゆっくりと発したのはやはりこの言葉だった。


「分かりました。ですがお話だけでは本当に信じる事は出来ませんな。ここは一つ、まず私が最初の依頼主となって確認させて頂く訳には行きませんかな? 実はお恥ずかしい話しなのですが……」


 そう、この次元では角田社長と愛人の文恵さんとの間に生まれた隠し子、麻生和佳奈あそうわかなちゃんは存在しているのだ。そして未来の次元転移装置がリセットされた事でこの次元にも混線次元が発生し、【ハイダーズ】である俺やミィ、タマ、それから偶然俺達と一緒に居合わせていた優子や惣治さんだけが混線次元の軸を行き来出来るの様なのである。またもや何がなにやら訳が分からなくなって来た。


「宜しいでしょう。お引き受け致しますわ。ただし前払いでお願いします」


 あーあ、やっぱり引き受けちゃったよ、この冷酷女。さすが一流大学で帝王学だの経営学だのを学んだ女の決断力は違うね。きっとコイツもアメリカの一流大学の有名教授の『殺人は正義か』の講義から、麻生和佳奈ちゃんを犠牲にしてその他大勢を助ける道を選んだに違いない。ただし今回角田社長に条件を付けられたのは、過去の惣壱郎さんと文恵さんが出会う以前に妨害工作をして欲しいとの事だった。と言う事は、惣壱郎さんがクラブ『彩乃』に通う時点で誰かに惚れていなければいけないと言う事になる。またヘンなトラブルが起こらなければ良いのだが……。俺とミィ、タマはバッジにその時間軸を設定し、精神イメージとして20世紀末の時代に乗り込んだ!

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