第14話 事態はもう一触即発!
20世紀末の優子と示し合わせた俺とミィ、タマは、角田惣壱郎さんが亜希子と待ち合わせをしている六本木のBARで亜希子が来る前を狙っていた。俺は別人の姿に変身し、タマには街頭のアンケートのお姉さんを装わせてしつこく亜希子に付きまとわせ、わざと待ち合わせ時間に遅らせて、その間に優子にカウンター席の惣壱郎さんに接近させる。
「失礼ですが、お一人ですか?」
「いえ、
「では、お相手の方がいらっしゃる間だけでもお話相手をして頂いても宜しいでしょうか?」
「オ、オホン! まあそれ位でしたら」
惣壱郎さんが煙草に火を付けている隙を狙って、優子はダメ元でミィから手渡された『一目惚れのポーション』を惣壱郎さんのソルティドッグのカクテルグラスにコソっと放り込む。
「
「僕は角田惣壱郎。角田商事の専務です」
「あら、お互いライバル会社ですわね。お名前から察するとご親族の方でいらっしゃいまして?」
「これでも社長の息子です」
「まあ、大変な方のお隣に座ってしまいました。私などまだ一年生ですのに」
「いえいえ、とてもお美しい。それに言葉遣いも上品だ。将来有望とお見受けしました」
「そう言って頂けると嬉しいです」
惣壱郎さんはお得意の褒め言葉と共に優子の顔を見つめるが、その目付きに特に変わった所は見られない。やはりさっきの『一目惚れのポーション』は効いていないのか? そこにBARのドアが『チリンチリン』と開いて、亜希子が入って来た。
「お待たせしました、惣壱郎さん。あら、そちらの方は?」
「さっきお知り合いになったばかりの女性ですよ。こちらは木村優子さん。そしてこちらは
「優子です。お待ち合わせの所をお邪魔してしまってごめんなさいね。では私はこれで失礼します」
「お待ち下さい、優子さん。折角ですから、3人で飲みませんか?」
おや? なんだか流れが変わって来たぞ。どうやら先程の『一目惚れのポーション効果』と共に、惣壱郎さんの持ち前の浮気グセが持ち上がって来た様だ。3人はテーブル席に移動して飲み始めた。隣同士に座った優子と亜希子が、お互いに『この玉の輿を逃すまい』と横目でバチバチと火花を散らし合っている。あ、なんだかこれ、デジャヴだな。俺はあくまで優子に作戦として依頼したつもりだったのだが、優子の目の据わり方を見るとマジになっているみたいで怖くなって来た。何故ならここで惣壱郎さんと優子のカップルが出来上がってしまうと、それはそれで将来の【ハイダーズ】の経営窓口が成り立たなくなってしまう可能性があるからだ。ところが、優子と亜希子の玉の輿争奪戦は、アルコールの勢いも加わって次第に白熱してくる。
「ちょっと優子さん? 後から割り込んで来て図々しいにも程があるんじゃない?」
「亜希子さんこそ、ただの契約社員の癖に身の程って物を知りなさい」
「何ですって? このドロボウ猫!」
「アナタこそ薄汚いネズミよ!」
もうこうなると誰にも止められない。惣壱郎さんは為す術も無くポカーンと呆れるばかり。
「二人ともその位にしないか、みっともない。今日はこれで失礼するよ。全く君達には失望させられたね」
『一目惚れのポーション効果』もすっかり覚めてしまった様だ。惣壱郎さんはお決まりの捨て台詞を残してさっさと勘定を済ませると、『チリンチリン』とBARのドアを開けて店から出て行ってしまった。呆気に取られる優子と亜希子。俺はハッと気が付いた。このまま亜希子の記憶を残しておいては将来的にマズい。消すならアルコールが効いていて興奮している今のうちだ。
「ミィ、頼むぞ!」
「分かったわ!」
ミィは亜希子をマインドコントロールすると、惣壱郎さんと優子の記憶を消し去って、亜希子はそのまま何事も無かったかの様にBARを去った。ふうぅ〜。これで無事にこの時代の俺と亜希子が出会う事が出来るだろう。優子は何喰わぬ顔でカウンター席に座り、ブラッディメアリーをバーテンダーに注文した。危うく
「おい優子、お前まさか惣壱郎さんを本気で落とす気じゃないんだろうな?」
「嫌ね。これはあくまで仕事よ。それに私は恋愛と仕事は割り切って考えるタチだから心配しないで」
「でもよ、さっきのケンカでお前、惣壱郎さんに愛想を付かされちまったじゃねぇか。これからどうするつもりなんだよ?」
「それはちゃあんと考えてあるわ。任せておいて」
「ミィ、あの『一目惚れのポーション』が醒めてしまったのはどう言う訳だ?」
「私もあんまり使った事ないから分からないけど、きっと二つ使った相乗効果で打ち消し合っちゃったんじゃないかな? もう使わない方が良いと思う」
その次の週から、優子の惣壱郎さんへの攻略作戦が再開された。惣壱郎さんはまたもや例の六本木のBARで女漁りの日々。そこに髪をショートカットにイメージチェンジした優子がアプローチする。
「角田さん、先日は失礼致しました。覚えていらっしゃるかしら? 丸菱商事の木村優子です」
「ああ、あの時の。おや? ずいぶん印象が変わりましたね?」
「はい。ちょっと気分転換をしたいと思いまして。お隣よろしいかしら?」
「今日は空いていますよ、どうぞ。お好きな飲み物は?」
「ではアイ・オープナーを」
オーダーを聞いたバーテンダーは、銀色に輝くシェイカーにホワイト・ラム、フランスのリキュールであるペルノ、ヘーゼルナッツを原料にしたリキュールのクレーム・ド・ノワヨー、オレンジ果皮から抽出したオレンジ・キュラソーをメジャーカップで手際良く加え、砂糖を少々まぶすと卵の殻を割って卵黄だけを取り出し、シェイカーに放り込むと両腕を肩まで上げながらシャカシャカとシェイクする。出来上がった淡いオレンジ色のカクテルを片手に掲げながら優子はこう言った。
「角田さんは、『カクテル言葉』ってご存知ですか?」
「いえ、初めて聞きました」
「この『アイ・オープナー』のカクテル言葉、それは『運命の出会い』です。乾杯」
優子は惣壱郎さんにふぅっと耳打ちする。
「丸菱商事の秘書課に勤めている私だから分かるんですけど、角田商事様にとって有益な情報があるんですよ」
優子はこの時の惣壱郎さんの表情がクラッとするのを見逃さなかった。
「これは結構、簡単に堕ちるかも」
そうして優子と惣壱郎さんの会話は弾んでいった。優子はハイヒールのつま先で惣壱郎さんの足の
「
「もちろんですわ。よろこんで」
その後二人は度々デートを重ね、優子のドS攻撃が功を奏して惣壱郎さんも次第に優子の魅力の虜になっていったのだが、またまたここで思わぬ出来事が起こった。角田商事の取引先の接待で、予定より早く惣壱郎さんがクラブ『彩乃』に連れて行かれたのだが、そこで源氏名を『若葉』と名乗っていた麻生文恵さんと出会った惣壱郎さんは、またしても文恵さんに一目惚れしてしまったのだ! 全くこの男の浮気性はどこまで性根が腐っているんだ? それともこの二人が恋に堕ちるのは、もはや運命付けられているとでも言うのか!? この時に優子は惣壱郎さんの恋人としてクラブ『彩乃』に一緒にいたのだが、優子の目と文恵さんの目の間に火花が散った!
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