姉妹の休日(セイラ編)その1

 起きたらパパもお姉ちゃんもいなかった。

 置き手紙によると、りょうの備品を買いにふたりで出かけたらしい。

「私だけ置いてけぼり……」

 そりゃ二度寝したのは私だけどさ。

 いや、三度寝? 四度寝?

 まあそれはいいとして。

 置いてくのはヒドい。

「あー、今日どうしよっかなー」

 元々今日はのんびりする予定だった。

 新生活の気疲れとかでいろいろ溜まってたし。

 お姉ちゃんはそういうのまったく感じてないみたいだけど。

 図太いというか、マイペースというか。

 こんなに一気に環境が変わったのに、お姉ちゃんは全然ブレない。

 早速学級委員に推薦すいせんされてたし。

 何かの部活にも勧誘されてたし。

 それ全部断わっちゃうし。

 放課後はお父さんのお手伝いしたいからって……そんな断り文句を外で平然と使わないで欲しい。

 なんか親孝行な娘って思われて、余計に評価上がってたけど。

 ああいうのズルいっていつも思う。

 妹の私からしたらお姉ちゃんって相当な変人なんだけど、周りから浮くなんてことなくて、なぜか不思議と上手くいくんだよね。

 やっぱり勉強ができるからかな。

 この前の小テストも満点だったし。

 基本的にマジメだし。

 美人だし。

 ラブレターまで貰って、相変わらずモテるし。

 一方、私はまあ、まあまあだ。

 勉強は普通。

 評価も普通。

 友達はそこそこできた。

 まあ、その新しい人間関係で気疲れしてるわけだけど。

 と言っても、こんなの普通だ。

 別にその友達が変な人ってわけでも、悪い人ってわけでもない。

 赤の他人と友達になるには、多少の段階がいる。

 お互いの趣味を知ったり。

 昼休みにお喋りしたり。

 話を合わせたり。

 何かとくっついたり。

 一緒に行動したり。

 はじめから波長の合う人もいるだろうけど、友達作りって最初は疲れるものだ。

 何もしなくても人が集まってくるお姉ちゃんみたいのは例外。

 まーそれは置いといて。

 パパとお姉ちゃんが帰ってくるまで何してよう。

 さすがにもう眠くないし。

「あ、そだ」

 私は思い立って居間のパソコンデスクに向かう。

 ウチのパソコンは主にパパの仕事用だったが、昔から家族で共用していた。

 私は自分のアカウントのパスワードを入れ、ウインドウを開く。

 それからスマホをケーブルでパソコンに繋いで、写真の画像フォルダをクリックした。

 バババッと並べて表示されるパパの写真。

「……」

 私はそれらの写真を分類ごとに整理し、パソコンの隠しフォルダにコピーしていく。

 バックアップは大事。超大事。

 うっかり消してしまったら、データは二度と帰ってこない。

 たとえばこの、居眠りしてヨダレ垂らしてるパパの寝顔写真とかも。

 ……。

 ……。

 まあ、うん。あくまで家族写真だし。

 別にやましいことには使ってないし。ないし。

 パパとお姉ちゃんのいない時間を狙って整理してるのも他意はないし。

 単に時間がかかるからってだけだし。

 てかファイル数多いから、ホントに時間かかるし。

 ……。

 ……。

 …………。

「………………ふぅ」

 やっと終わった。

 ちょい疲れた。

 そんで気づいたらメッチャ時間経ってた。

 くぅ~。

 集中が切れた途端、お腹が鳴る。

 お昼食べよ。



「あ」

「あ」

 お姉ちゃんが作っておいてくれたカレーを食べていると、シリンさんが寮のキッチンに現れた。

「お昼ですか?」

「あっ、うん」

 私が尋ねると、シリンさんは小さく頷く。

 若干目が泳いでる。

「あの」

「はっはい!?」

「お姉ちゃんが作り置きしてくれたカレー、まだ余ってるんですけど食べます?」

 私は試しに尋ねてみた。

「えっと……じゃ、じゃあ、いいかな?」

 シリンさんはしどろもどろに頷いた。

 私は席を立って、彼女の分のカレーもお皿によそう。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 私とシリンさんは対面に座り、一緒にカレーを食べ始める。

 と言っても、私のは残り少なかったのですぐ食べ終わる。

 でもすぐ席は立たず、シリンさんのことを見ていた。

「あの、シリンさん」

「んっ! な、何?」

「この前も訊きましたけど、その伊達だてメガネどこで買ったんですか?」

「これはえっと……ごめん。この前から思い出そうとしてるんだけど、どこのお店で買ったのか忘れちゃって。たぶんララスクエアとかで買ったと思うんだけど」

「ララスクエア?」

「駅前の大きなビル。いろんなお店が入ってるの」

「駅ビルのお店ってことですか?」

「えっと、駅ビルとは違くて……」

 シリンさんはチョイチョイつっかえつつ、丁寧に説明してくれた。

 その話を聞きながら、私はひとつ確信する。

 この人わりといい人だ。

 多少、挙動不審だけど。

 それはたぶん警戒心が強いんだけだと思う。

 もしくは私みたいなタイプが苦手とか。

「……」

 まあ後者かな。

 何度か避けられた覚えあるし。

 それはそれとして。

 できればここの人とは仲よくしときたい。

 サキとはもう仲よしだけど。

 大人組はまだ手探りだ。

 で、このシリンさんとあのオッパイ痴女ちじょさん。

 どちらを先に攻略するかといったら、断然こっちだ。

 話せば分かるタイプだと思うし。

「あの、このあとシリンさんの部屋に遊びに行ってもいいですか?」

「え……うえぇ!?」

 何もそんな驚かなくても。

 スプーン落としてるし。

「えっと、あの……何で?」

「実はパパもお姉ちゃんも出かけちゃって暇なんです」

「サ、サキちゃんは?」

「サキもさっき昼食に誘ったんですけど留守みたいで」

「あ、その、実は今散らかってて」

「そんなー気にしませんよー」

「えっと」

 シリンさんはあたふたしている。

 凄く部屋に入れたくなさそう。

 でもこれは押せばイケると見た。

 逃・が・さ・ん。

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