ゴールデンウィークはどこへ行く?
僕ら
世間はゴールデンウィークに突入していた。
と言っても
それが祝日というものだが、連休でないとできないこともあるらしい。
たとえば。
「
セイラがそんなことを言い出したのは、ゴールデンウィークの中日を過ぎ、連休の後半戦に入った日の昼のことだった。
「餃子? お昼に?」
「そうそう。この前ユイたちと話してて、まだ食べたことないって言ったら驚かれてさ」
「ああ、なるほどね」
宇都宮といえば餃子で有名だ。
市もアピールに力を入れている。
どのくらい力が入っているかというと、駅前に餃子のビーナス像があるくらい。
僕も上京する前はよく食べていた。
自分が慣れ親しんだ地元の名物に、娘が興味を持ってくれるのは嬉しいことだ。
けど……そこで僕は「おや?」と思う。
「そういえば前に餃子食べに行こうって誘った時は、においが気になるから嫌って言ってなかったっけ?」
「だってあの時は、次の日学校あったでしょ」
セイラは何言ってんのって顔で肩を
「ニンニクのにおいまき散らしながら学校行けないし」
「いちおうブレスケアとかなら僕がいつも持ってるよ?」
「万が一にも臭かったら嫌なの!」
「あ、うん」
「その点、さすがに四連休もあればにおいも消えるし、安心して餃子も食べられるってわけよ」
「な、なるほど」
やっぱり女の子はにおいって気になるんだなぁ。
「……」
僕はちょっと不安になって自分のにおいを嗅ぐ。
……自分じゃ分からないけど、加齢臭って何歳くらいからするんだろうか?
もし娘たちに「お父さん臭い!」って言われたら泣く自信がある。
そしたらナガレと泣きながら呑むか。
ついでにあいつの加齢臭もチェックしてやる。
「うん。じゃあ、今日のお昼は駅前に餃子食べに行こうか」
「わーい」
しかし、連休だから餃子を食べに行きたいか。
もっと観光名所とかレジャー施設に行きたいと言われると思って、レンタカーを借りる準備をしていたのだが……。
まあいいか。セイラも喜んでるし。
僕はとりあえずキララにもこのことを伝えるために、ソファから立ち上がった。
宇都宮市内にはそれこそそこら中に餃子店がある。
だがもしお目当てのお店が最初から決まっていないのであれば、とりあえず駅に向かうのがいい。
駅の東西口には餃子のお店が集中しているからだ。
ほかにも美味しいお店はたくさんあるが、まずはこの辺りから来るのがいいと思う。
「こうして改めて回ってみると、本当に餃子のお店が多いんですね」
「そうだね」
「これ全部違うお店なんでしょ?」
「うん。そうだよ」
娘ふたりと一緒に歩きながら、僕らはどのお店に入るか見て回る。
なにしろ駅から徒歩五分圏内にお店がひしめいているので選び放題だ。
逆に選択肢が多すぎて選ぶのが難しいとも言えるけど。
「もー! 多すぎて選べないよ!」
セイラが両手を振り上げて叫ぶ。
「ねぇー、パパのオススメの店とかないのー?」
「え? 僕の?」
「そうですね。最初ですし、お父さんの好きなお店から行くのもよさそうです」
「うーん、なんだかんだ僕も10年ぶりだからなぁ」
僕は頬を掻いて困ったアピールをする。
地元の人間ではあるけれど、子供の頃は両親に連れて行ってもらっていたから、行くお店も大体固定だったし。
全部の中からこれが一番というのは言えないのだ。
しかし、迷ってばかりもいられない。
……そういえばあのお店も駅前にあったんだっけ。
「それじゃあ、昔僕がよく行ってたお店にしようか」
そう言って僕は娘たちを駅の東口へ連れて行く。
駅の出口の階段を降りてすぐ目の前。
「宇都宮みんみん?」
お店の看板を見上げてキララが呟く。
「わっ結構並んでるね」
お店のベンチに座って待つ人の列を見てセイラが驚く。
「人気のお店なの?」
「まあ有名だし、昔からずっとある餃子専門店だからね」
僕が両親に連れられていったのは別の店舗だけど、そこでもよく列に並んだ。
その列に、今度は娘と一緒に並ぶ。
待ったのは20分ほどだろうか。
「お待たせしました。3名様ですねー」
「はい」
店員さんに呼ばれ、僕らは店の中に案内される。
四人がけのテーブルに座ると、早速メニュー表を手に取った。
「って、なんかすごいシンプルなんだけど?」
「基本的に
その辺もまさに餃子専門店という感じだ。
おかげで注文もすぐ決まる。
「焼き餃子と水餃子のセットを三つお願いします」
「かしこまりましたー」
できあがるのを待つことしばし。
「このポスターに写ってる餃子ってさー、ホントに全部実在するの?」
「そうなんじゃない? 僕も全部は食べたことないけど」
「思ったよりカラフルですね」
「お待たせしましたー」
僕らが雑談していると、店員さんが三人分の餃子を持ってきてくれた。
「ヤキスイのセット三人前ですね。ごゆっくりー」
焼き餃子。
水餃子。
ライス。
付け合わせのお漬け物。
うん。昔とおんなじだ。
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
三人で手を合わせて早速餃子をいただく。
「ん! ユイが言ってた通り美味しー。ね、お姉ちゃん」
「そうね。肉汁がスゴいわ」
「あ、水餃子も美味しい」
ふたりとも喜んでくれているようでよかった。
娘たちの様子を見ながら、僕も焼き餃子を口へ運ぶ。
やっぱり美味しいと思うと同時に、懐かしいと思う。
なんだかんだ栃木に帰ってきて、今日が初餃子だ。
別に向こうでも食べてなかったわけじゃないけど……。
やはり僕の中では特別な味のひとつだ。
そんな風に少しノスタルジックな気分に浸っていたら、もうひと皿食べ終わってしまっていた。
「キララとセイラはもうお腹いっぱいかな?」
「えっと、私はもういっぱいそうです」
キララは残りわずかな自分の餃子とご飯を見つつ答えた。
「僕もうひと皿頼もうかと思うんだけど……」
「あ、じゃあ私も食べる」
「セイラはどのくらい食べられそう?」
「んー、もうひと皿いけそう」
「じゃあふた皿頼もうか」
「セイラ、本当に食べられるの?」
「大丈夫大丈夫」
心配するキララにセイラは軽く答える。
まあ途中で食べ切れなさそうなら僕が食べればいいし。
「すみませーん」
僕は店員さんを呼んで追加注文する。
ちなみにセイラはキララの心配をよそに、追加のひと皿をぺろりと平らげていた。
「ふぅー、食べた食べた」
食べ終わったセイラは実に満足そうだった。
「美味しかった?」
「うん」
「じゃあまたその内食べに来よっか」
「次の日学校ない時にね」
「はいはい」
やっぱりそこは譲れないらしい。
「あ、でも陽ノ目荘の人たちにお土産の餃子買っていこうか」
「ん?」
「晩ご飯か明日の朝ご飯にしようかと思うんだけど、いいかな?」
「ん~~~」
セイラは腕組みしてちょっと迷っていたが。
「ま、明日の朝ならまだ三連休あるし、大丈夫でしょ」
と、オッケーをしてくれた。
今朝まで四連休じゃないとダメだったのが三連休までオーケーになった。
小さな前進だが、それでも気に入ってくれたならよかった。
僕は食事とお土産分のお会計を済ませ、さて娘たちと家に帰ろうかと思った時。
「あれ、セイラじゃん?」
「ユ、ユイ!?」
お店を出たところで出くわした少女を見て、セイラがギョッと驚きの声を上げた。
ああ、確か前に体育館で見たことのある……。
「あ、どうもこんばんは。ユイの父です」
「こんばんは。はじめまして。娘たちがいつもお世話になってます」
僕がユイさんのお父さんとご
「なな何でユイがここに!?」
「何でって、そりゃギョーザ食べに来たんだよ?」
ユイさんは当たり前の返答をする。
僕らと同じく家族で餃子を食べに来たらしい。
と、ユイさんはセイラを見てニンマリと笑う。
「あー、でもユイってばギョーザはにおいがどうのって、私は食べないしーとか言ってなかったっけ?」
「た、食べないとは言ってないし! 食べたことないってだけで」
「うんうん。その様子だとだいぶ食べたっぽいね!」
「うっ……!」
ユイさんにからかわれ、心当たりのあるセイラはちょっと頬を赤くする。
それを見てユイさんはまたニマッと笑って。
「帰ったらちゃーんと歯磨きしないとダメだよ。じゃないと口のにおいが大変だからね」
「~~~!」
帰宅後。
「セイラ~。お土産の餃子だけど」
「私は絶対食べないンだからね!」
「いやいや、大丈夫だよセイラ。そんな気にしなくても」
「食・べ・な・い!」
「……ブレスケアいる?」
「…………いる」
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