引っ越しパーティー
夕方。
引っ越し荷物の搬入と家具の配置を終えた僕ら一家は、
「そいじゃっまずはカンパーイ!」
乾杯の
「いやー、さっきは悪かったね管理人さん」
「いえいえ」
ゲ〇シャツは洗濯機に突っ込んである。
まあ、犬に噛まれたと思って忘れるが吉だろう。
「ングング、プハーッ!」
彼女はジョッキのビールを一気に飲み干す。
続けて二杯目。
「プハーッ!」
これもあっという間に飲み干す。
見事な
しかも笑い
「じゃあとりあえず自己紹介しましょーか!」
三杯目を注いでから、彼女はようやくそんな提案をした。
彼女はジョッキに口をつけつつ、僕に手の平を向ける。
「まずは管理人さんからどうぞー」
「あっ、はい」
まあ何にせよ仕切ってくれるのは有難い。
指名された僕は立ち上がり、軽く会釈する。
「
「夏目キララです。よろしくお願いします」
「セイラでーす。よろしくどうもー」
娘たちも頭を下げ、小さな拍手が起こる。
「それじゃ次はあたし! 改めまして、
そう言って笑いながら四杯目をあおる二ノ木さん。
なぜ自己紹介で胸のサイズを……いや、酔ってるだけか。
しかし……Fか。
確かに、あの膨らみはそのくらいのサイズが。
「コホンッ」
「!」
キララの咳払いで我に返る。
危ない危ない、つい視線が。
「えーと、それじゃあ次は……」
僕は二ノ木さんから目を離し、その隣に座る女性を見やる。
「……!」
彼女は僕の視線に気づくと、慌てて俯いて前髪で目を隠した。
「……
狩野さんは顔を上げないまま自己紹介して、チビチビと日本酒を飲む。
それ以上言うことはないようだ。
だいぶ物静かな印象の女性だ。
単に二ノ木さんが騒がしすぎるだけかもしれないが。
まあ、101号室は管理人室の隣だし、徐々に打ち解けていくとしよう。
「順番的に、次は私ですね」
そう言ったのは、娘と同い年くらいの少女だった。
彼女は静かに立ち上がり、胸に手を添えてやさしく微笑む。
「私は102号室の
サキさんは丁寧にお辞儀し、着席する。
とても礼儀正しい性格のようだ。
ご両親の教育の成果だろうか。
……ん?
そういえば。
「サキさんのご両親はまだ帰ってきていないんですか?」
「いえ、私はひとり暮らしですので」
「えっ、中学生でですか?」
「はい」
サキさんは何でもないように頷く。
これには僕だけでなく、娘たちも驚いていた。
今年で、ということは、彼女も中学一年生のはずだ。
その歳でひとり暮らし?
謎だ。
ともあれ。
二ノ木葛。
狩野紫凜。
佐々崎咲。
この三人が、今の陽ノ目荘の住人たちだ。
自己紹介は終わったが、そのあとも歓迎会は続く。
狩野さんは早めに食べ終えて部屋に戻ってしまったが、僕は二ノ木さんにつき合って何本かビールを空けていた。
「ほらほら、管理人さんも飲んで飲んで」
「あ、どうも」
「にしても管理人さん若いわねー。あたしと同い年くらい?」
「いえいえ、もうすぐ
「へぇー、じゃあ4、5歳上? 見えなーい」
「あはは、ありがとうございます」
「とにかく飲み仲間ができて嬉しいわー。シリンはあんまり飲めないし」
二ノ木さんは上機嫌にビールをあおる。
僕も弱いわけではないが、彼女のペースはメチャクチャ早い。
娘もいる手前、釣られて飲み過ぎには注意しなければ。
まあ、それはそれとして初日から住人と打ち解けられたのはよかった。
それに子供組も案外話が合うようで、僕らの横でずっとお喋りを続けていた。
「そういえばサキさん、中学校はどこなんですか?」
「
「えっ、私たちもそこだよ」
「あら? キララさんとセイラさんは何年生なんですか?」
「同じ一年生ですね」
「そうなんですか。おふたりとも大人びているので先輩かと思いました」
「そう? 私とお姉ちゃんどっちが大人っぽい?」
「うーん、キララさんは落ち着いていて、セイラさんはお洒落で、どちらも大人っぽいです」
「アリガト。ねぇ、呼び捨てで呼んでもいい?」
「構いませんよ」
「ところで中学生のひとり暮らしなんて凄いですね」
「そんなたいしたものではありません。好きにさせてもらっているだけです」
「サキもさー、お化粧してみたら? 素材いいし、私教えるよ?」
「お化粧ですか? あまり考えたことはありませんね」
「セイラ、無理に勧めるのはダメよ」
「えー、いーじゃん」
「そういえば入学式は
「同じクラスになれたらいいですね」
「私はお姉ちゃんとは離れたいんだけど」
「双子はクラスを分ける決まりがあると聞いたことがありますけど?」
「それ、特にルールがあるわけじゃないみたいですよ」
「そうなんですか。なら、三人一緒になれるといいですね」
娘たちとサキさんの会話は続く。
女の子って本当にコロコロ話題が変わるなぁ。
まあ、ふたりに友達ができたみたいでよかった。
引っ越しをする上で、そこがやっぱり不安だったから……。
「そーいえばー管理人さんの奥さんっていないの?」
その時、酔っ払った二ノ木さんが不意に尋ねてきた。
「えーと……まあ、その」
僕は明言を避け、
こうすると、まあ大体の人はそれ以上の追及を避けてくれるのだ。
二ノ木さんも「あー……」と呻いて、軽ーく天井を仰ぐ。
かと思ったら、突然グイッと僕を抱き寄せてきた。
「わぷっ!」
Fの谷間に鼻が埋まる。
汗ばんだ人肌の匂いが
あと
なぜインク?
二ノ木さんの職業に関係あるのだろうか?
だが今はそんなことどうでもいい。
何でこの人は酔うと逆セクハラしてくるんだ!?
僕がもう少し若ければ喜んだかもしれないが、この歳になるとその先のトラブルを想像して恐怖を感じてしまう。
ビビる僕のことなんか構わず、二ノ木さんはさらにギュッと腕に力を込めて。
「泣け! あたしの胸で泣いていいよコノハっち! そんで飲もう! 今日は朝までつき合うよ!」
「いやっ、あのっ!」
こんな場面を見たら、娘たちが怒り出してしまう。
「ちょっとツヅラさん!? お父さんに何してるんですか!」
「このセクハラ女!」
やっぱり怒った。
そこからはもうギャいのギャいののドタバタ騒ぎ。
そんなこんなで僕らの陽ノ目荘引っ越し初日の夜は
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